夢の駅
「次は終点……です」
いい声の車掌さん。
「お葉書です。クリスマスを待ちながらさんから。いつも運行お疲れさまです。私は電車に乗って隣の町の歯医者さんまで行きます。昔からある歯医者さんなのですが、最近ちょっと変わったことがありました……」
車掌さんが葉書を読む声を聞きながら、僕はうとうとする。終点が近づくと、僕はいつでもそうしなければならないのだ。車掌さんの声とちょうどいい揺れとの間にだけ安らぎの場所は生まれる。
ホームに停止したシートは途端に虚無に覆われてしまう。意味もなくそこに留まっていれば魂を抜かれてしまう。あるいは、今度動き出した時には誰の声も届かない、暗く閉ざされた空間に収納されてしまうかもしれない。心行くまでうとうとしたい。いまだけが僕に許された時間だから。
「続いて一駅分の驚きさんから……」
いつまでも続いて欲しい。きっとそれがかなわない願いだからだろう。車掌さんと葉書職人とちょうどいい揺れのコラボの中に、僕はずっとうとうとと浸かっていたいのだ。
「終点……、……です」
僕はいま夢を見ている。
向かっているがたどり着くことはない、
そんな駅を夢見ている。
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