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五円玉拾いますか

姉が子犬を拾ってきた

まだ子供の僕たちと
作りかけの家と一緒に
犬は大きくなっていった

いくつもの段ボールと
柱の削りくずと
色んな人の靴を玩具にして

ともに河川敷をかけた
雨に打たれた
けんかしたり仲直りした
父と一緒に山菜を採りに遠出した
謎の洞窟を見つけて潜り込んだ

時々犬は家出することもあった
呼んでも呼んでも帰らなかった
突然さささと足音がして
体中に土をつけて犬は帰ってきた

しばらくすると僕が家を出た
久しぶりに帰ってくると
犬はよそよそしかった
1年も離れれば忘れてしまう
あきらめている内に表情が変わる
突然思い出したように声を上げて
何度も何度もすり寄ってきた

一緒だと思っていたけれど
犬は僕を追い越すように大人になり
おばあさんになり
そして……


犬という大河の中に
僕はどれくらいいたのだろう

もしあの日 姉が犬を拾ってこなかったら
犬はうちにいなかっただろう

あるいは こうも思う
しばらくして姉は
別の何かを拾ってきたのではないか

それはまた別の宇宙の話かもしれない


#とは #パラレルワールド #エッセイ #多様性

#詩 #ワンコイン #宇宙

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