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将棋の時間

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将棋の詩、将棋小説、将棋短歌、将棋コラム、将棋エッセイ、他
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相談将棋 ~純粋に水をさすもの

相談将棋 ~純粋に水をさすもの

 儚い1分をつないで永遠をつくることだってできる。許されるならずっとそうしているのかもしれない。読み耽っている間は歳を取らず、風邪を引くこともない。徐々に棋士の縦揺れが速くなっていく。前のめりとなり勝ち筋を追求しているに違いない。遠目には何もしていないように見えて、実際には壊れるほどに動いている。脳内を占めているのは、玉を中心に存在する世界。そこには蠅1匹として入り込むことはできないのだ。純粋であ

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超速の銀/一局の将棋

超速の銀/一局の将棋

(この銀が間に合うだろうか)

 次の一手を求めるために先の先を読まなければならない。無数の物語の中から今の自分に必要なものを読み分け、最善を上書きしていく。

 読みには何より速度が重要だ。湧き出るイメージを束ねて取捨選択するには、速度がなくては。ゆっくり読んでいては脳波に隙が生じる。後悔、奢り、丼、うどん。様々な邪念が介入することを防ぎ切れない。最悪の場合、睡魔に襲われてしまうだろう。厄介な追

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レッド・マカロン

レッド・マカロン

 考えてもなかったことを考えつくため、考え込んでみる価値はあると信じられる。苦心の果てにひねり出せる手を持っている。それが人間の指す将棋だ。だから将棋は時間ばかりがかかる。時間をかけた分、よい手が指せるとは限らない。かけた時間を裏切るように悪手を指すことも多い。それでも人間は、理想を実現するために時間をかけなければ気が済まない。そういう生き物だ。最善手にたどり着くためだけではない。考え続けることは

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タイム・オーダー

タイム・オーダー

 電車が通過することだけを待つ時間。針の上を歩いて行く時間。勝ちを読み切ろうと前傾姿勢を取っている時間。それらは同じ時間だろうか? 1分ずつ正確に削り取られていく時間に、私はずっと追われている。詰めば終わりの世界を、私は生き延びるために必死だ。優勢にみえても未知の要素が消え去らない限り、恐怖もまたなくならない。それは欲望にも等しかった。守りたい。大事にしたい。生き延びたい。最善手は? 答えを探し始

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【コラム・エッセイ】金はあるほどよい?

【コラム・エッセイ】金はあるほどよい?

 味方がボールを持てばフォローに行くのが当然だ。フォローは多いほどよい? フォローは近いほどよい? 実はそんなことはなく、時にはまるでフォローしない方がよい。例えば、三苫さんがドリブルで持ち上がった時は、下手に寄っていかない方がよい。そうすることで三苫さんの使うスペースが失われてしまうからだ。場合によっては離れていくような動きが正解となる。三苫さんが縦に突破して、クロスを上げられるというタイミング

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悩めるカフェ

悩めるカフェ

「気がつくと巡回しちゃってるんです。同じことばかり。うそと憶測ばかりが乱れてる。知りたいことより知らなくていいことの方が前に出てくる。ニュースっていったい何なんでしょうね。だけど終わりがない。スクロールには終わりがなくて、気がつくと小刻みに時間を盗まれっちゃってる。消しても消しても立ち上がるリンクが疎ましい。何だか時間がもったいなくて……」

「何かに恋することですよ」

 迷宮カフェには悩み多き

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金がないから望みが叶う ~「うっかり王」からの脱却

 詰将棋は空想と同じだ。自分の脳だけあればどこでも考えることができる。何も道具がいらないので、お金もかからない。いつでもどこでも考えようと思った時にできる。野球ならばバットやグローブが必要だ。サッカーだったらボールやゴールやスペースが必要だ。卓球だったらネットやラケットやピンポン球が必要だ。将棋だったら盤や駒が必要だ。ゲームとなれば対戦相手も必要だろう。空想/詰将棋は、自分と時間さえあれば自由に楽

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金がないから勝てる/金しかないから勝てる

「そうか、金がないのか」

 もしも相手に金があったら、手も足も出ないところだ。あきらめて負けを認めるしかない。当然のように、金はあるのだと思い込んでいたとしたらどうだろう? 相手に金があるという想定、金があるというイメージが、自分の中に強く存在したとしたら、既に頭から負けに傾いているのかもしれない。金はそれほどに重要だ。最も重要と言ってもいい。生死を分かつもの。それが金なのだ! 

 どうして相

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魔法の駒

魔法の駒

「どうしても勝ちたい」
 ずっとそれだけを考えて修行を積んできた。四間飛車から始め三間にまわり、他にもあらゆる振り飛車を試した。勝ち越すことは適わなかった。
 次は思い切って居飛車に転向した。矢倉、相掛かり、角換わり、横歩取り。あらゆる戦法を試してみたが勝ち星を積み重ねるには至らなかった。そして、今日はとっておきの雁木でも負けてしまった。今更振り飛車党に戻るわけにもいかないし……。万策尽きるとはこ

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逆上王(腕に覚えあり)

 春がきてランドセルの準備はできていたけど、そこに新しい教科書が詰め込まれることはなかった。精密検査の結果、入院することが決まったからだ。家から車で3時間ほどかかる病院だった。父がハンドルを握る車で病院に向かう。長くて短い別れの道だ。

 同じ病室の子が僕に将棋を教えた。拒むことはできなかった。1からルールを覚え込むことは、とても大変だった。
 金と銀は似ていてややこしい。金の方が僅かに強い。銀と

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表現者たちの角不成 ~似て非なるもの

76歩 34歩 22角不成!

 その瞬間、あなたは何を思うだろうか。
(あるいは思わないだろうか)

 対局が進むとわかってくる。ああ、この棋士は不成の人なのだ。恐らくは完全に必要不可欠でない限り、角を飛び込む時(ほぼ同何かの時)には不成だということがわかってくる。
 成っても成らなくても取る一手ならばほぼ(結果は)同じ。
 一方で駒は強く使うことが通常だ。角と馬ではその差は歩とと金ほどではない

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遅読の棋士(未来角)

遅読の棋士(未来角)

「この手は?」
「30分です」
 自分の手番になってから30分が経過したらしい。驚くべきことに私はまだ具体的な読みを構築できずにいた。

(いつも何手くらい読まれるのですか?)
 相手が素人なのをいいことに私はよくうそをついた。(そうですね。縦横斜め合わせて100手から200手の時が多いでしょうか)正直に話して相手の残念そうな顔を見るのは嫌だった。
 実際の私は3手の読みにさえ苦労することが多々あ

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詰んでいるのに負けてしまう

詰んでいるのに負けてしまう

 集中力を持続させることは難しい。今日はそんなことを学んだ。

 相振り飛車は囲い方に迷う。金無双はバランスが良さげだがつぶれる時のあまりの脆さは悲しいほどだ。美濃に組んだら組んだでいきなり端攻めを覚悟しなければならない。できれば自分から攻めたいものだが、相手がいることでそう上手くはいかない。

 相手は端に力を集めて攻めてきた。少し無理だったので受けが成功した。玉が先頭に立つ受けで相手の攻めを受

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金なんかくれてやる!

金なんかくれてやる!

「ある時 価値は反転する」
 いい手だなと心が動かされる時がある。それはもの凄く派手な一手というばかりではない。むしろ何でもないような一手。実際に盤上に現れた手そのものに対してではなく、普通にみえるはずの手が「指されなかった」ことへの驚きというものがある。

「えっ、金逃げなくていいんですか?」

 それは序盤ではまず絶対に現れないような一手だ。
「歩で金を取られてはいけない」
 将棋を学ぶ時、一

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