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ニューソウルの夜明け

60年代後半から70年台前半にかけて、ブラックミュージック界に起こったムーブメント「ニューソウル」について、書かせていただきました。

「そもそもニューソウルって何?」

「ディアンジェロとか?」ともよく言われますが、違います。それはネオソウルなのです……。

というわけで、あまりニューソウルという言葉が認知されていないようですので、時代背景などにも触れさせていただきました。

今回ご紹介する曲を含めたニューソウル期を代表する曲をまとめたプレイリストを作りましたので、是非こちらを聴きながらお楽しみください。

ニューソウルとは?


ニューソウルとは、60年代後半から70年台前半にかけて、ブラックミュージック界に同時発生的に起こったムーブメントのことで、代表的なアーティストとしては、マービン・ゲイ、カーティス・メイフィールド、ダニー・ハサウェイ、スティービー・ワンダーなどが挙げられます。

ちなみにこのニューソウルという言葉、本国アメリカではほとんど使われていなくて、日本独自の呼び名だとか。

では何がニューだったのかというと、音楽性だけでなく、メッセージ性、ファッション全てがそれまでのソウルとは一線を画するものでした。

やはり音楽的変化が一番大きいと思いますが、60年代中期までのソウルとは大きく違い、ロック、ファンク、ジャズ、ゴスペルなど様々なジャンルの要素が入っているのが特徴です。初めてこの時期のソウルを聴いた時は「あまりソウルくさくないな?」と、自分の想像していた所謂ソウルとは印象が違ったのを覚えていて、当時、ロックやポップスしか聴いていなかった私の耳でも、すんなりと受け入れることができました。

そういう意味では、これからソウルを聴き始めたいと思っている人には、とても入りやすい種類のソウルと言えるかもしれません。

当時のソウルを取り巻く状況

60年代後半になると、ソウルは他の様々なジャンルの影響を受けるようになります。特にサイケデリックロックやジェームス・ブラウン、スライ・アンド・ファミリーストーンなどのファンク・ミュージックからの影響が大きかったようです。

特にスライの様々なジャンルを消化した独自の音楽は、多くのソウルミュージシャンを刺激します。1969年の伝説的なロックフェスティバル『ウッドストック』への出演も果たし、黒人層だけではなく、白人からも大きな支持を得ることになりました。このパフォーマンスはいつ見ても最高にカッコ良いので見たことない方は是非。

また、ソウルミュージック最大のレーベルであるモータウン・レコーズは、60年代初期からポップで親しみやすい楽曲で黒人のみならず白人マーケットでもヒットを連発していましたが、60年代後半に在籍していたプロデューサーの一人、ノーマン・ホイットフィールドは、それまでとは打って変わって、サイケデリックロックやファンクを大胆に取り入れた曲を次々にアーティストに提供していきます。

代表的なのは「My Girl」で有名なモータウンの看板コーラスグループ、テンプテーションの「Cloud Nine」(1969)。

ファズ&ワウの聴いたギター、ファンクサウンドの導入、ストリングスアレンジなど、この曲がソウルミュージシャンに与えた影響は大きかったようです。

これらの動きが引き金となり、様々なアーティストがより自由な表現へとサウンドを変化させていきました。

当時、モータウンの看板アーティストだったマービン・ゲイも、レーベル側からプロデュース権を勝ち取り、より自由に作品を作るようになります。(当時、アーティストが自分でプロデュースをするというのは普通のことではなかったようです)

それに続くようにスティービー・ワンダーなどのアーティストも次々とセルフプロデュース作品を発表していき、ソウルミュージックのサウンドがどんどん多様化していくことになります。

また、この頃は黒人による公民権運動が盛んな時期で、さらに1968年にキング牧師が暗殺されたことを受け、ジェームズ・ブラウンの「Say It Loud I'm Black and I'm Proud」や、スライの「Stand」「Don't Call Me Nigger, Whitey」など、黒人を鼓舞する曲を発表していきます。

このような時代背景が、アーティストがよりメッセージ性の強い独自の作品を出したいという思いを強くさせ、サウンドにもそれが現れてきます。この時期のアルバムを聴くとわかりますが、単純に明るい曲は少なく、むしろ暗くて緊張感のある曲が多いです。

ニューソウル時代の幕開けと名曲達

これは人によって見解が分かれると思いますが、ニューソウルと呼ばれるものは、自分の中では1969年〜1976年頃までのものを言うのではないかと思っています。特に70年代前半までのものは、色んなジャンルの要素を貪欲に取り込んだ斬新なものが多くて、今聴いても色褪せないかっこよさがあります。

この時期を代表するアーティストの、それまでの音楽スタイルからニューソウルサウンドへの転換期の作品の中から、特にニューソウルの特徴が出ていると思う曲を5曲選んで見ました。


Marvin Gaye / Right On(1971)

名盤『What’s Going On』、B面一曲目を飾るこの曲。

ニューソウルの記念碑的に語られることが多いこのアルバム。これがニューソウル第一弾というわけではないのですが、その後、多くの人に影響を与えた作品であることは間違いありません。

マービンの弾くピアノのイントロに、フルートが重なり、ジェームズ・ジェマーソンのベースラインが引っ張るシンプルながら力強いリズムセクション、そしてニューソウルの特徴でもあるパーカッションがとても効果的です。

決して熱くなり過ぎないのもニューソウルの特徴でもあります。


Donny Hathaway/ To Be Young, Gifted, And Black (1970)

1stアルバム『Everything Is Everything(新しきソウルの光と道)』からの1曲。この邦題が全てを物語ってます。

アコースティックピアノの弾き語りをベースにしたシンプルなバックトラックに、トレードマークのウーリッツァーが絡み、後半、ハモンドオルガンとコーラスが重なっていく展開は、いつ聴いても胸が熱くなります。

おそらく、こんな曲、それまでのソウルにはなかったと思います。ゴスペルをベースに持ち、クラシックの素養も持つダニーならではの名曲だと思います。

名盤『Live』は聴いたことがあるという方も多いと思いますが、次はこちらのアルバムもぜひ聴いてみてください。


Roberta Flack / Compared To What (1969)

アルバム『First Take』からの1曲。マービン・ゲイの『What's Going On』が1971年のリリースですから、ロバータ・フラックが如何に早い段階で新しいスタイルの音楽を取り入れていたかがわかります。

ダニー・ハサウェイの大学時代の同級生でもある彼女ですが、クラシックやジャズの素養もあり、こちらのアルバムは、ロン・カーター(Ba)、ジョン・ピザレリ(g)、レイ・ルーカス(Dr)などがジャズの名手達がバックを固めています。

このジャジーで、熱くならずにじわじわ盛り上がってくるグルーブは今の時代でも全く古さを感じさせないサウンドです。


Stevie Wonder / Love Having You Around (1972)

スティービー・ワンダーも、この頃からセルフプロデュースでアルバムを発表し始めていて、この曲の入っているアルバム『Musi Of My Mind(心の詩)』から大幅にシンセを導入しています。この曲もクラビネットの刻みから始まり、エレピ、アナログシンセ、ボコーダーまで試せるものは全て試しているという感じです。

ものすごく実験的なんだけど、ちゃんとポップ性を保っているのがスティービーのすごさだと思います。

その後の『Talking Book』、『Innervisions』、『First Finale』が彼の70年代黄金期3部作と呼ばれていたりしますが、ぜひこちらも入れて4部作と呼んでいただきたいです。

その後の彼の作品に比べると荒削りで実験的な要素は多いのですが、その混沌とした雰囲気も実にカッコ良いです。


The Impressions / Mighty Mighty (Spade & Whitey)   (1969)

ニューソウル最大の立役者の一人、カーティス・メイフィールド率いるインプレッションズのアルバム『The Young Mod's Forgotten Story』より。翌年よりソロ活動を開始し、ニューソウルの名盤を数多く残すカーティスですが、1968年に自身のカートムレーベルを開設し、そこからより社会的メッセージ性の強い、ニューソウル色の強いサウンドを発表していきます。

カーティスサウンドの特徴は、映画音楽を聴いているような壮大なオーケストレーションと、何と言ってもカーティス自身が弾くギターサウンドが特徴です。粘りつくようなワウ奏法はカーティスならではであり、この曲でも既に垣間見ることができます。

この曲はいくつかのバージョンがあり、どれもカッコ良いのでまた別の機会に紹介させてもらいます。

さて、ニューソウル・ムーブメント初期の作品をいくつか紹介してみました。実験的で混沌としたサウンドだったかと思いますが、その生々しさが余計にかっこよかったりします。

今回取り上げたアーティストは今後、それぞれの特集記事も書いてみたいと思います。

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