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良心の素晴らしさを恥じることなく謳う~「アラバマ物語」

映画や小説には、国を代表する作品というものがあるらしい。
日本だったら何になるだろう。寅さん?ちょっと思いつかない。
アメリカならば、それはこの作品になる。1962年公開「アラバマ物語

私はこの作品は小説から先に出会った。何かのサイトで、若い頃に読んでおくべき10冊、というようなおすすめにあがっていた覚えがある。

最初はよくある児童小説、トムソーヤーのようなものと思っていたが、読み進めていくにつれ、これはまことアメリカの背負っている宿業が詰まった小説だと感じたものだ。
このような人種問題というのは、悪い時には怨嗟の連鎖になるが、良い時にはその多様性が生み出すシナジーは計り知れない。それを真正面に向き合ってきたアメリカは、そこに強さや成長の源泉があるのだろう。
日本はいまだそれを経験していない。いや、あるはずなのだが直視していない。そして、そのまま萎んでいくのだろう。

この作品は、何と言っても父親のアティカスの言葉が魅力的である。
何かと穿ったり斜に構えたりすることがクールだとされる昨今において、このまっすぐさは、とても清々しいし、ストレートに胸を打つ

人というものは、相手の立場から物事を考えてあげられるようになるまでは、ほんとうに理解するなんてことはできないものなんだよ。
妥協ということが、どういうことか知っているかな?
(中略)
おたがいの歩みよりによって達せられる取りきめなのだよ。
こんどのことはね、トム・ロビンスンの事件はね、人間の良心の問題なのだースカウト、彼をたすけなければ、私はもう教会へいって神さまのまえに出られないんだ
人は人、私は私だ。個人の良心だけは、多数決でどうこうできないものなのだよ
いやなよび名でよばれても、それがけっして侮辱されることにはならない。かえってそういうことを口にする人のさもしさが、さらけだされるだけで、お前がそれで傷つけられることにはならないんだ。

人間の良心とは高潔なものと信じる言動には、改めて我々も襟を正したい。それにしても、この小説を生み出した国の大統領はまだ読んでいないのだろうか。

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