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ベートーヴェン弦楽四重奏15番 Beethoven: String Quartet No. 15

80年代前半、東京に住んでいた時、時間とお金があると通っていたところが3ヶ所ある。
新宿ロフトと新宿末広亭と六本木WAVEだ。

80年代の一時期、六本木のシネヴィヴァン(CINE VIVANT)に通っていたことがある。ちょっと難解な雰囲気のアート系の映画にあこがれていた時期だったのだ。
それがナウかったのだ。
映画や音楽やアートなど薄っぺらく広く浅く見て廻っていたのだ。
意味不明なシーン、細切れの音楽、美しい風景のつぎはぎ、そんなものをひどくカッコよく感じていた。

だから内容はほとんど覚えていない。
難解な内容のものが多かったというのもある。

「ミツバチのささやき」や「DIVA」なども観た。
その中でも記憶に強く残っているのは「カルメンという名の女」
ジャン・リュック・ゴダールの映画だ。
物語中に流れる弦楽四重奏がすごく新鮮で、
何事にもかぶれやすい俺はレコードまで買ってよく聴いた。
トム・ウェイツの劇中曲も良かったが、
とにかく俺には細切れの映像や弦楽四重奏が面白かった。
クラシックの素養が全く無かった俺にはひどく新鮮に響いた。
ストーリーは訳が分からなかった。
でもいいのだ。
恋とは突然始まるものなのだ。

もう時効なので白状するが、当時映画館で映画の上映を録音した。
映画作品を録音するというよりは、映画館全体の音をカセットに録音し、家で聴いていた。
シーンとした場面での耳慣れないフランス語のセリフの音の響き。
空調の音や観客が立ったりコソコソ話したりする音も録音されていて、ある意味映画館のライブ空間を楽しんでいた。
東京の風呂無し安アパートが、一瞬パリのアパートメントになったような気がしていたのだ。

「私が愛したらあなたは終わりよ?」という女主人公のセリフも、当時の恋愛状況にマッチしてかなり心に響いた。

近寄ると危険な女性というのは存在するもので、
U村さんにT横線の電車の中で突然「私のこと好き?」と聞かれたことがあった。
「もちろん、好きだよ」と答えると、
「じゃ、キスして」と言われた。
外国かぶれでイキがっている俺を見透かしたように
(ここじゃできないでしょ?)と。
度胸のない俺は当然ビビッてキスできなかったことを思い出す。
今はどうか知らないが、当時は電車の中でキスする人いなかったから。

なんとほろ苦い思い出なことよ。



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