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デイ・トリッパー/ザ・ビートルズ Day Tripper / The Beatles

初めてのバンド練習の日が来た。

俺は他のメンバーたちみたいな奇天烈な衣装は持ってないので、父親からもらった一張羅のダークグレイのIVYスーツのパンツを細く詰めたやつ(服飾専門学校に行った人に縫製をやってもらったら、カッコいいスーツだと褒めてくれた)の襟のところにSTIFFレコードのバッジを付けて行った。

「お、渋いね、三つボタンスーツにSTIFFか」

Hさんは目ざとくバッジを見つけて話しかけてきた。
やっぱり分かるんだな。

当時はまだ三つボタンはポピュラーではなくて、トラッドアイヴィー系かモッズ系の人しか着ていなかった。
その後なぜかビジネススーツも全て三つボタンになった時代があったけど。

スタジオに入ってその日初めて会う人がいたので軽く自己紹介した。
T野さんがギターで、ナショナルのヘンテコなビザールギターを持って来た。
もう一人K村さんがサイドギター、この人は放浪者のような出立ちで、ツバの広いハットにマントみたいなのを羽織っていて、イメージとしてはスナフキンみたい。
ドラムはK江君でハンチングに縦ストライプのジャケットと白いスリムのパンツ。
めっちゃオシャレ。
しかもメチャクチャ綺麗な彼女を連れてきた。
彼女が練習の様子を写真に撮ってくれた。
みんな服飾関連の仕事仲間みたいだ。
センスが段違いのカッコよさ。
俺はどちらかというと服には無頓着なほうだったので、すごく刺激を受けた。

Hさんが言う。
「最初にバンドの名前を決めないとと思うんだけど、僕のブーツ見て。ROBINSってメーカーなんだけどさ、THE ROBINSでどうかな?」
「いいんじゃない?」
「いいですよ」
「OK」
みんな賛同した。

気をよくしたHさんはいきなり何の打ち合わせもなく
「デイ・トリッパー!」と叫んだ。
T野さんがイントロを弾く、K江さんがハイハットで16ビートを刻む。

うおおおおおおおおおお。
始まったー。!

俺は初めてやるベースなので、とりあえずルート音を弾くだけだけどちゃんとバンドの音になってる。
簡単な曲とはいえ(実際は簡単ではないけど)、いきなり合わせられるのは、息があってないと。
だってみんな「トンネル天国」しか練習してこなかったから(笑)

「ゴノグリーズン!」
Hさんが歌う。
俺は思った。
このバンドすごくいいかも。

曲が終わってHさんとT野さんが喜んで
「いや~、何の打ち合わせもなしに、いきなり曲が演奏できるのいいね~」
「うん、最高」とT野さん。
俺もいいバンドになりそうな予感をひしひしと感じていた。

イカすぜ!

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