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グロリア/U2 Gloria / U2

音響関係の専門学校に初登校してはみたものの知り合いが一人もいないので心細くなり、たまたま横に座っていたT橋君と話した。
彼は千葉からこの学校に来ていた。
その後ろに沖永良部島から来たというK野君、その横に福島から来たという訛りの抜けないY田君がいた。
たぶん自分が訛っていることに気づいてないな。
初日に4人で話したのでなんとなくグループが形成され、次の日からも4人で固まって動くようになった。

友達になったのか?

Y田君はザ・クラッシュの「動乱」が好きだと言うので、気に入るかもと思い、U2の2nd.アルバム「オクトーバー」を貸してあげた。
次の日Y田君は興奮した面持ちで「U2すごい、いいなー」と言ってきた。
良かった。
貸したレコードを褒められると誰でも嬉しいものだ。
Y田君は悪くないやつだ。

沖永良部島から来たK野君は、学校の近くにアパートを借りたというので、面白がってみんなで行ってみることにした。
部屋はやはり四畳半ぐらいで服が脱ぎ散らかしてあり、かなり汚い部屋だった。
K野君はいつも豹柄や稲妻柄の派手なシャツを着ていたので脱ぎ散らかした部屋は服の模様で目がチカチカした。
昼飯を食べずに行ったので、みんなカップ麺を買ってきていた。
お湯を沸かしてくれと言ったらK野君が電気コンロを持ってきた。

「え?ガスじゃないの?」
「これでも沸くよ」
「いやそうだけどさ。電気コンロって」

案の定、一人前しか水が入らない鍋をコンロに掛けたがニクロム線が赤く光るばかりで、全然お湯が沸かない。
いつまでも水のままだ。
結局4人にお湯がいきわたるのに1時間以上かかった。
カップ麺ができた人から順に食べて行ったので、みんなで一緒に昼飯を食べたという感じはまったくしなかった。

K野君の武勇伝はそれはそれは面白く、島で唯一の暴走族に所属していたらしい。
バイクで島を1周するのに1時間もかからない。
悪い事するといってもパイナップル畑を荒らす程度。
東京の学校に行くと言ったら全島民が見送りに来てくれた。
などなど。
下北沢にハマってしまい、夏休みの後は学校に来なくなってしまった。
「下北沢サイコー!」といつも言っていて、きっとあの複雑怪奇な街に飲み込まれてしまったのだろう。
それもまた青春なのだな。

K野君チの帰りの商店街で電気屋の店頭にベータハイファイのビデオデッキが陳列されていて、T橋君は食いついていた。
T橋君は音響機材が大好きなのだ。

「これいいなー。欲しいなー」

当時はVHS陣営とベータ陣営が熾烈な主導権争いをしていて、ややVHSが有利になってきたところで、ベータ陣営は音質の良いステレオハイファイビデオデッキを市場に投入して巻き返しをはかってきたのだ。
当時のビデオデッキはすべてモノラルだった。
その店頭で見たベータハイファイデッキは27万円だった。
LとRのレベルメーターが誇らしげに光って録音レベルのピークを表示していた。

「こんなの買えるわけねぇ」

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