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ミスター・ブルー・スカイ/エレクトリック・ライト・オーケストラ Mr. Blue Sky / Electric Light Orchestra

中3の年、それぞれ自分のお気に入りのレコードを持ち寄って聴き比べようじゃないかということになった。
K川君とA岡君と俺の三人だ。
まずK川君が袋からレコードを出した。
きれいな色の宇宙船がでっかく描かれていて見開きジャケットでしかも2枚組だった。

やられた。2枚組だ。

悔しさを押し殺して尋ねる。
「それ何ていう人?」
K川君が答える。「エレクトリック・ライト・オーケストラ」
「ん?何だって?」
「エ・レ・ク・ト・リッ・ク・ラ・イ・ト・オー・ケ・ス・ト・ラ!」
「オーケストラってクラシックなの?」
「違うよ、ロックだよ」
「へえ、聴かせてー」
ジェフ・リンのカラフルでポップでビートルズマナーの良曲が並ぶ。
「なんかビートルズみたいだね」と自分。
「そう?もっと新しい感じするけどなあ」
K川君は自信満々の最新レコードをビートルズみたいと言われて少し不満そうだ。

次はA岡君の番。
「それ何ていう人?」
「アース・ウインド・アンド・ファイアー」
「え?何?」
「アース・ウ・イ・ン・ド・アンド・ファ・イ・アー!」

しまった、また負けだ。
ガックシ。
バンドの名前は長いほうが強いに決まっている。

「だけどバンド名が地球・風・火だぜ?」
悔し紛れに言ってみるがA岡君はそんなの何とも思ってない様子だ。
聴いてみたけどチャカポコしててハードなロックを聴いていた自分には理解不能。
田舎の中学生にはブラックミュージックは早すぎた。

「俺君のは何?」
満を持して俺の番だ。
「じゃ~ん、エアロスミスだーっ!」

あれ?
「ああエアロスミスね」みたいな反応。
もうハナから勝負にならなかったのか?
「バンド名短いじゃん」せせら笑うような空気を感じた。
名前は短いけどエアロはかっこいいんだよ!
心の中ではそう叫んでいたが、負けは認めないとな。
田舎だから。

よ~し次は滅茶苦茶長いバンド名のレコードを買ってやるぞ!と心に誓い、夜中にトイレに行くついでに母親の財布から2500円を抜き取るのだった。

後日、K市のKサウンドでK川君やA岡君に勝てる新しい方向性のレコードを見つけた。
デヴィッド・ボウイの「ザ・ライズ・アンド・フォール・オブ・ジギー・スターダスト・アンド・ザ・スパイダーズ・フロム・マーズ」だ。
人の名前は短くてもアルバムタイトルが長ければ勝てる!
何かの時にはこれを言おう。
と桂枝雀の「代書屋」に出てくる留五郎のように心に誓うのであった。

しかし残念ながらそれ以来三人でレコードを持ち寄り聴き比べる機会は訪れないまま高校受験を迎え、「何かの時」は来なかった。三人は別々の高校へと進学した。
俺は電車で30分ほど離れた隣町の高校に進学した。


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