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200917 出産したら呪縛が解けた

不妊治療を経て転職直後に第一子を授かった時の心境を、
息も絶え絶えに綴った前回の記事を書いてから一年経ってしまった。
(女性ならではの壁にぶち当たったことを書いたこの記事に、男性が『スキ』をつけてくれたのがとても嬉しかった。)
この一年の間に、私は無事に第一子を出産した。
今後の生涯で出産以上にインパクトの大きな出来事が起きることは無いと思う。
約三十年間貫き続けてきた価値観が、子が誕生した瞬間にどうでもよくなった。
そして、どうでもよくなった今が過去最高に幸せだ。
その価値観の変化を記録した、長い自分語りをする。

妊娠中の本音

当時は産休までの数ヶ月の勤務を全うするために、
自分の置かれている状況を無理にでもポジティブに解釈せざるを得なかった。

男性が過半数を占める職場で、同僚との信頼関係を十分に築けていない状況で
妊娠によるコントロール不可能な体調不良を抱えて働くのは辛かった。
本当に、今まで生きてきた中で最も辛い時期だった。
「夫婦で望んで子供を迎えるのに、なぜ女性だけが不妊治療・妊娠・出産の
苦しみを一身に引き受けなければならないのか。
実際に経験した事がなく、その人の日常に影響を及ぼさない事柄について
当事者並みに痛みを感じて欲しい、という要求が受け入れ難いのは理解できる。
ただ、分からないからといって無いことにはしないでほしい。」
なんて、世の中に対する不満を募らせ自己憐憫に浸る日々だった。

出産直後に『他人の期待に応える自分』の呪縛に気付く

出産する前は産休育休中に、子育てと同じくらい仕事のスキルアップに
励まなくちゃ!子供最優先で自分を蔑ろにする人生は嫌だ!と思っていた。
しかし、産院の処置室で産んだばかりの子供を胸に抱き、ひたひたやわやわの
頬を触っているうちに「なんかそういうのもういいわ」という気分になった。

「そういうの」とは。
「高い目標を掲げて社会で活躍する女性は、出産・子育てによるキャリアの
ブランクに焦っているものである」
「自立心の強い女性は、産後にアイデンティティの喪失を嘆くものである」
という、自分が世の中から勝手に感じ取ってきた『熱意ある働く女性』の
イメージだ。
私は今までその架空の他人の期待に沿うようにキャリアに焦り、
アイデンティティの喪失を嘆いていたみたい。
本当は仕事の勉強をする時間があるなら子供と関わっていたいし、
喪失を嘆くほどたいそうなアイデンティティなんかそもそも無い事に気がついた。

出産する前は仕事や家庭や人付き合いなどの諸々が同率一位で大切だったけれど、
出産した瞬間に子供が私の世界の中心に君臨し、それ以外はその他で一括りだ。
子育てだけを生きがいにするつもりはないが、長い人生、こういう時期があってもいいんじゃないかと思う。

これからは幸せになるために生きる

これまでの三十年間は自分や家族が不自由なく暮らせる経済力を持つために、
社会から必要な人材だと評価してもらえる履歴書を作る事に全力を費やしてきた。
誰に強制されるでもなく、思うところあって自分で選んだ生き方だ。
努力の甲斐あり各人生のターニングポイントで欲しい経歴は全て獲得したけれど、息継ぎをしないで全力疾走をしたかのように疲弊してしまった。
心から楽しいとか幸せだと思える瞬間は少なく、好きなことややりたい事もなく、
もし今人生が終わったとしても別にいいかな、という心持ちで過ごすのが当たり前になっていた。
幸せな一生を送りたいと願いながら、来るかわからない将来にだけ焦点を当てて、かけがえのない現在を他人の期待に応えて消耗しながら生きるなんて本末転倒だ。

それに対して『他人の期待に応える自分』の呪縛が解けた今は毎日充実している。
もう『熱意ある働く女性』として振る舞うのはやめて、
子供と遊んだり、自分の関心のあるテーマの本を読んで過ごしている。
子育ては給料の発生する仕事よりも軽視されがちだけれど、
私たち夫婦のエゴによって誕生させられた新しい命が、
決して良い事ばかりではないこの世の中を幸せに生き抜いていけるように
できる限りの援助をする、責任重大な行為だと思っている。
試行錯誤の末に、子供の笑顔や初めて何かをできた瞬間に立ち会える日々は
これ以上ないくらい幸せだ。
また、的確なサポートができる親になるために、尊敬する方の書籍を読んで
その考え方を日常に取り入れている。
子育てを通じて自分の人としての成熟を実感出来て楽しい。

私は幸せになるために生きているということを忘れないようにしたい。
自力でコントロールできない世の中の変化や他人の気持ちを人生の軸にしてしまうのは心許ない。
働く女性の辛さを世間が理解してくれることを期待すると辛くなるし、
自分も他人の「〜であるべき」を鵜呑みにする必要はない。
自分の幸せを主軸に置いて、その時々で持っているカード使ってその理想を実現していけばいいのだ。

出産しないとこんなに当たり前な事に気がつけないなんて、
『他人の期待に応える自分』の呪縛は強烈だ。
『自分の理想を実現する自分』として生きる人生の第二クォーターが楽しみ。

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