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花火は見ないけれど


 もう三十年も生きているはずなのだが、花火の良さというものがいまいちよく分かっていない。ぱっと光って消えていく大輪の火の花、その後巨大ウニのように夜空に広がる煙、そして火薬の匂い(実は花火の中でこれを一番気に入っているかもしれない)。その迫力や、体の髄まで響いてくるような爆音はなかなか好きなのだけれど、毎夏のように出かけて行って鑑賞すべきものなのかと思うと、自分としてはちょっと違うなあという考えだ。手書きで「花火」と書こうとするとかなりの確率で「火花」と書き損じそうになるのも謎で仕方がない。

 遠くから花火の音だけを聞いてその光景を想像しているというのが、花火鑑賞で一番好きなスタイルかもしれない。


 ある日の帰り道、遠くのほうで花火の音がしているのが聞こえてきた。祭りでもやっていたのだろうか。

 でも、いつものごとく、音の鳴る方向へは目をやらなかった。折角上がっているのだから見ればいいのに。この強情なのがいけないのかもしれない。

 ただ、その日は何だか自分を変えなくてはならないような気分だった。それで、打ち上げられている方向に顔を向けてみた。金色の打ち上げ花火が一つ、上がるのが見えた。小さくて、まるで一番星のようで、「綺麗だなあ」と思った。不覚にも。

 どうやらそれがその日最後の花火だったようだ。その後には一つも上がらなかったから。

 私は、間に合ったのだろうか。

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