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 夕方の散歩中に犬を見た。よく見知っている犬だ。顔が黒と白の八割れで、人の顔を見れば必ず吠えてくる、憎たらしいあいつだった。

 けれども、今日は様子が違っていた。いつものように、檻の中に気だるげに寝そべっているのではなく、飼い主のおじいさんが運転するシニアカートに乗っていた。普段浮かべている、世の中をどこか諦めたような表情はどこへやら、カートの前部に陣取り、あたかも自分がおじいさんを率いる将軍だとでも言わんばかりの、誇らしげな面だった。

 それを見ていて、基本的に犬は嫌いな私でも、「奴らもなかなか悪い存在ではないのかもしれないな」などと思ったものだ。



 その日、犬をもう一匹見た。今度のも外飼い犬だった。まるで犬小屋から伸びる鎖の限界に挑むかのように、あちらこちらへ歩いたり、あてもなく吠えてみたりしていた。

 黒と茶、灰が滅茶苦茶に入り混じったような模様の、毛の縮れた中型犬。体つきの独特な貧しさから老犬であることが見て取れた。この暑い時分、年を食った犬を外で飼ってやることもないのにと、どこかやるせない気持ちになった一瞬だった。

 家の前を通り過ぎようとしたとき、犬がこちら感付いた。鎖を派手に鳴らしながら駆けてきて、私に向かってまるで噛み付かんばかりに激しく吠えてみせた。その鋭い牙をむき出しにした、荒々しい面を見て、たとえ年老いていようが犬は犬なのだと、不思議と腑に落ちたような気がした。

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