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【とっても野暮な韻の話】ラップは韻だけじゃない

「ラップってあれだよね、韻踏むんでしょ」

ってくらいに、ラップが浸透してきて、
一Hiphopファンとしてちょっと嬉しい今日この頃。
友達に話すようなちょっとしたラップの話や韻の話を、noteでも書けばいいんじゃないの?好きな事なわけだし!と思って。
Twitterでボソッとそれを書いたら、数人からのいいねと賛同のリプライをもらったのでちょっとやってみようと思います。
今回は自分のリリック(歌詞)を振り返りつつ、
韻以外の部分にも潜んでいるラップ詞の面白い見方に触れられたらと思います。

そもそも、韻ってどうやって踏むの?

昨今、ヒプノシスマイクやCreepy nuts人気のおかげか
今までラップに触れてこなかった僕の周りの人から
結構この疑問を聞かれるので、とりあえず僕なりにお答えしてみます。

韻(rhyme)とは、ざっくり言っちゃうと
似た響きを持つ言葉を連続させて、リズムやグルーヴを作るもの。
日本語ラップにおける基本的な踏み方は、特に脚韻が主流になっています。
韻、ラップと聞いてパッとイメージするのも恐らく脚韻だと思います。

脚韻踏みとは、つまり
「母音を合致させること」


例1.)「全集中(ze-n-syu-chu)」と「編集部(he-n-syu-bu)」

例2.)「竈門炭治郎(ka-ma-do-ta-n-zi-ro-u)」は
  「朝も感じ良く(a-sa-mo-ka-n-zi-yo-ku)」挨拶してくれる。


流行りの単語と、noteで見かける単語や日常的な言葉だとこんな感じ。
例2.)では、意味を通しつつ韻を踏むということもしてみました。

韻の踏み方について、僕個人としては「聞こえをカッコよくしてグルーヴ感を生む為に韻というものは踏むものだ」と思っています。
だからこそ、本当に人それぞれいろんな踏み方があります。
ライミング自体のテクニックも、もっと本当は色々あるということはお伝えしておきたい。
その上で、ざっくりと韻の踏み方は、「音を揃えてリズムを作る感じかぁ」と解釈して良いと思います。

「この人のこれヤバい!」みたいな話もしたいなぁ。
今度書いてみようかな…今度ね。
ということで、今日はとりあえず自分の話で行ってみます。

自分のリリックを振り返ってみよう

さて、僕自身が書いたリリックの話をしてみようと思います。

僕が生まれて初めて人様が聞く形でラップした音源です。
それと同時に、初めて僕が『Rexy-mg』というMCネームを名乗ったタイミングとなります。
結構前。録ったときとなるともう3年ほど前だったと思います。
とにかく粗いし下手ですが、歌詞の中の要素を見ていくには、
面白い題材だと思うので、この曲で進めていきます。

そう、ラップ詞の面白いところは韻のみに非ず!

おざいさんとリベンセイとの3人での楽曲です。
電波少女さんの「HIPHOPLIFE REMIX」という曲があるんですけど、
そのトラック(曲)を拝借し、そこに新たにラップを乗せる。
いわゆる"ビートジャック"という形式で制作された曲です。
僕の登場部分は3人目なので、最後に出てきます。

ではいきましょう。
以下が僕のパートとhook(サビ)の歌詞です。

(Verse 3)
Earlly birth 有難く 幸賜る
始まりに喰らった Pronounce
赤ん坊カミサマから貰った脳のcrack
形は稲妻の様
無呼吸の7秒 障害の2文字
生まれ既に命からがら 歴戦の戦士
歩く姿さながら Tの付くRexy
ガキの頃呼ばれた 足悪星人
人がどうとか それがどう異形か?
引導を渡すそこのイモータンジョー
片やHolla back交わすシンドバッド
「こないだのあの娘とはどうなった?」なんて
Sugbabeに探られ
「まぁフラれて泡 またわやですわ…」って
それに乗っかって 腐すマイメン
誰と話し足んねぇ? フラッシュバック
If the マルチバース行きの旅も
気が変わったから ちょっとタンマ
歩みはslowだがWalkin the glorious path
アンタとレクちゃん何も違わない
きっと来る明日の空 青いだけさ

(hook)
HIPHOP LIFE バカにされたって死ぬこたない
HIPHOP LIFE 足りないピースを埋めるジグソーパズル
HIPHOP LIFE 背を向けりゃ 奴らはシツコクなる
HIPHOP LIFE ピースオブライフ

テーマ:自分に何が語れるのか

HIPHOP LIFEというタイトルだから、
テーマは必然的に”HIPHOPと自分の人生”になりました。
初めは自分の歩みとHIPHOPとの出会いがあって、今ここ!という構成にしようと思っていました。
だから僕自身の障害についての話も一部に留まっていた。
しかし、リベンセイから「障害の話のとこめっちゃ良いから、全編それで行ったらいいんじゃない?」というアドバイスをもらって書き直しました。
"俺とHIPHOP"じゃなくて、"俺の人生のHIPHOP性"で勝負するくらい
粋がってもいいんじゃないかと思い切れたんです。
そこから、生まれ(過去)➡現在➡未来へと話を進める構成にしました。

出来上がった音源におざいさんが、
「俺らは経験とかスキルは、先にやってる分あるかもしれんけど、
ダンT(←僕です)は人生25年分込められるから重みが違うよな」と言ってくれて嬉しかったのを覚えています。

内容:比喩と事実の描写で浮かび上がるリアル

"自分の部屋の窓から見える現実を歌うのがHIPHOP"

この言葉が好きなのに、誰のいつの発言だったかを忘れてしまいました。
ただ、この言葉はとてもスマートにHIPHOPで語られることを表している。

薬や犯罪のことを語る人もいれば、イジメられっ子だった過去を歌う人
貧乏やうだつの上がらない日々を語る人も、めちゃくちゃ金持ってる自慢をする人もいる。
地元の話も、僕の障害や出会った人たちとの思い出も。
自分の生活の中に見えることを歌うのがHIPHOP、だと思っています。

前に記事にも書いたんですが、僕は生まれつき障害を持っています。
母のおなかの中の僕は、出産予定日を2か月も前倒し、猛ダッシュでこの世に出てくることを選びました。
生まれてすぐ、呼吸ができず泣かなかったみたいです。
で、その後なんとか息はしたものの、そのときに脳の神経に傷が入ったそうです。
少なくとも僕はそう聞かされています。そういう事故から始まります。

ありがたいことに生きて、元気に楽しく人に恵まれて生活しています。
母ちゃんにも神様にも産婦人科の先生にも感謝。
そんな導入部分です。

Earlly birth 有難く 幸賜る
始まりに喰らった Pronounce
赤ん坊カミサマから貰った脳のcrack
形は稲妻の様
無呼吸の7秒 障害の2文字

Pronounceとは証、そして傷(=crack)の形の稲妻は、
幼少期大好きだったハリー・ポッターのエピソード、
さらには、DCコミックスのヒーロー、フラッシュの誕生(事故で雷に打たれて誕生した世界最速の男)とモチーフの稲妻マークからきています。
足が悪く、高校時代50m13秒を記録した僕なりの、ある種の皮肉を含んだセルフボースティングです。

生まれ既に命からがら 歴戦の戦士
歩く姿さながら Tの付くRexy
ガキの頃呼ばれた 足悪星人
人がどうとか それがどう異形か?
引導を渡すそこのイモータンジョー
片やHolla back交わすシンドバッド

僕の歩き方は、足を引きずるような形で、
気を抜くとバランスを取る為か手が上がっていたりします。
その(あえて言いますが、)変な歩き方から
子供の頃はいじめやからかいの恰好の的でした。
ならばそこも胸を張ってこれが俺だ、と言い換えてしまえ。
ということで、「T(僕の名前の頭文字が運よく" T "でした)の付くRexy」
そう、ティラノサウルス。
別名・T-REXみたいな歩き方なんです。大げさに喩えるなら。

僕がハリーポッター好きから少し大きくなって好きになった映画
ジュラシック・パークの象徴ともいえるティラノサウルスの名前は

"Rexy(レクシー)"っていうんです!(あっちは雌なんですけどね)

この歌詞を書いて、自分を誇る(ボースティング)ことで、
今の僕のMCネームが生まれたんです。
はい、Rexy-mg(レクシー・マリーゴールド)と申します。

あと”足悪星人”は、実際に小学校の頃に浴びせられた言葉です。
比喩と現実をないまぜにすることでより生々しく半生を語っています。

イモータンジョーは何故ここで登場したか。
マッドマックス怒りのデスロードで登場した核戦争後の砦で人々を支配している人物。
彼に関しては一概に悪役と決めつけられない人物だとわかってはいるんですが。
世界のルールやマッチョイムズ的な男らしさの抑圧だったり、これまで人々を縛ってきた価値観の象徴として出てきてもらいました。
(映画の中の彼はもっと奥深いキャラクターです。)
それと対比して、"片や"仲間と気安く挨拶を交わし前に進む
冒険者・開拓者シンドバッドに自分自身を投影しました。

「こないだのあの娘とはどうなった?」なんて
Sugbabeに探られ
「まぁフラれて泡 またわやですわ…」って
それに乗っかって 腐すマイメン
誰と話し足んねぇ? フラッシュバック
If the マルチバース行きの旅も
気が変わったから ちょっとタンマ

ここらへんは事実です。
Sugbabeとは、僕の敬愛するラッパー・トラックメイカー、PUNPEEさんの別名義です。
過去に数回お会いしてお話しする機会があって
そのときの思い出が今も僕を突き動かしてくれています。
この歌詞を書くにあたって本当に悩みすぎてわけわからなくなっていた時期に、馬鹿を承知でPUNPEEさんに相談したことがあって。
優しくアドバイスを下さったあとに、
「あ、俺の名前使っていいよ。」と。

ありがてぇことこの上ないけど
俺には荷が重いぜPさん!!!

そんなこんなで、名前とそのときに僕が前に話した好きな子の話をPさんが覚えててくれて
「あの娘はどうなったの?」と聞かれて失恋に僕が萎れたという実際のエピソードをぶち込みました。
そして、初めてお会いしたときにしていた多次元宇宙論(マルチバース)の話にからめて、当時もしも話にばかり逃げていた自分のケツを叩く意味で、
「もし並行世界のもしもの自分になれるとしても今を生きよう」という思いを込めました。
そして、「気が変わったからちょっとタンマ」とそこのフロウは、
PUNPEEさんの『お隣さんより凡人』からのサンプリングです。


PUNPEEさんにはあのとき以来より一層、本当に感謝しています。

あまり「会ったことあるんだぁー!」みたいに言うのは正直下品だし、
やめとこうとも思っていたんですが、
しました。すみません。あのときの僕です。僕まだラップ好きです。

現在を楽しく人並みに生きている話と
これから未来の話をすることに繋がった、
超絶恵まれた思い出深い一節です。


歩みはslowだがWalkin the glorious path
アンタとレクちゃん何も違わない
きっと来る明日の空 青いだけさ

歩くの、比喩じゃなくて遅いんです。
あと自分の人生の感じを見ても遅い方だと思います。
Walkin the glorious pathは(人生の)花道を歩くという意味です。
MCネームのマリーゴールドは、
メキシコの死者の日に、先祖たちのいるあの世と現世を繋ぐ道標であり橋です。
生まれる時に死にかけた僕が、障害だったりそれら様々な属性とか、
あと色んなジャンルとかの架け橋になれたらと思ったんです。
そして、マリーゴールドという花は病気に強く深く根を張る。
あと母の名前にも少しかかってます。
そんな名前を冠した僕のこれからは花道を渡るという表現がいいのかなと。あとなんか言ってて口が気持ちいい感じの言葉なんですよね。


「生まれがどうとか関係ない。
俺は俺の良い人生をゆっくりでも歩くんだよ。」という話です。

「アンタとレクちゃん(僕)何も違わない」

僕は常々思うことがあって、
障害をもちながらなにか表現物を作る人の中に一定数いるんです。
「人間じゃない」という自身の見せ方や言葉を選ぶ人。
それ自体は考え方も、歩んできた道も、表現としてのスタイルもその人のものだし、そこを否定する気は全くない。
全くないんだけど、僕自身はしっくりこなくて。
というか、

俺もお前も障害だなんだあろうが関係ない。
ただの人間だからな。

ということを僕は言いたかったんですよ。
別に関係ないんです。人間じゃないなんて寂しいじゃない
誰だって色々あるし、普通になんか言われたら傷つくし。
辛い事とか悲しい事ありながらでも、友達だっている。
ありがたい出会いだってある。やりたいことも。
伝えたいこともある。

何も違わないんですよ。

でも、アンタも辛い事あるよな、上手くいかない事あるよな。
わかるよ。わかってはやれないかもだけど、
想像はできる。

だからみんな分け隔てなく

"きっと来る明日の空 青いだけさ"

ちなみに、「きっと来る明日」は、そのあとすぐ差し込まれるhookの歌詞
「HIPHOP LIFE」とも韻を踏んでいます。

ちょっと待って、韻についても解説しようと思ってたけど…
どう考えてもすでに長すぎる…!
5000文字超えてる…?!
ちょっとまた韻解説は機会がありましたらで!!

でもね、裏を返せばこういうことなんですよ。
ラップ詞って、韻以外の部分だけでもこれだけ色々なものが込められている。
それを読み取っていくのってとても楽しい事なんです。

またラップ話はしたいなぁ。
音源も作っていきたいな。

そのときはまたよろしくお願いします!!

Rexy-mg

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