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生大喜利の"フィジカル"についての考察

「〇〇さんの大喜利は”フィジカル”が強い」

世の中のゲームやスポーツにはそれらの数だけ専門用語が存在します。
それは、大喜利も例外ではありません。

しかし、この「フィジカル」という言葉。
大喜利をプレイしている人の中でも、その意味や定義に関しては、
ニュアンスは知ってるけど、定義はぼんやりとしている。
そんな印象を受けます。

今回は、この「大喜利のフィジカル」とは何なのか?
そして、誰でも意識すれば回答が伝わりやすくなるポイント
大喜利の他に、演劇やお笑い芸人等の活動から得た経験を交えながら、
私の大喜利に対する持論を基にお話ししていきます。
あくまで持論ですので、本稿で定義付けるというものではありません。
しかし、大喜利について考える一つの材料になればと思います。



フィジカルとは?

まず、大喜利の回答における、フィジカルという用語自体の定義です。
これは、僕なりの一つの答えではありますが
「サブテキストと、ボード外のアドリブを合わせたもの」
と考えます。
「なんじゃそりゃ」と思われると思うので、順を追って解説していきます。

・サブテキスト

「サブテキスト」というのは、脚本や戯曲などに使われる言葉です。
登場人物のセリフ等で明示されていない要素をサブテキストと言います。
ちょっとした例えとして、以下の会話を想像してみてください。

会話①
女「ねえ、私のこと好き?」
男「うん、大好きだよ」
男女は、まっすぐ互いの目を見つめ、顔を赤らめて幸せそうに微笑み合う。)

初々しいカップルですね。
「ラブラブだなぁ」と感じる、少しかゆいくらい甘い恋人同士の会話です。

では、全く同じセリフで、セリフ以外の情報を変えてみましょう。

会話②
女「ねえ、私のこと好き?」
男「うん、大好きだよ」
女の目は潤んでいて、小さな声は震えている。
男は乾いた声で答える。女と目も合わせず自分の爪を見ている。

どうでしょう?セリフ(テキスト)は同じなのに、
そこから受ける印象や想起される状況は全く別物ではないでしょうか?
台本に明示されている文言は同じでも、
①はラブラブで愛が実ったばかりの幸せそうな男女。
②は言葉でこそ「大好き」と言っていますが、愛が通い合うことはなくなってしまったであろう男女の会話になってしまいました。

このように、人間が身体から発する情報は言葉の内容だけではありません。
表情や声・身体の生理的反応や動作など、我々はその身体からたくさんの情報を発信しています。
生大喜利においても、人間が人前に立って回答している以上、
表情や声、その人が見ている人に与える印象など
程度の差こそあれど、誰しもが非言語の情報を発しています。
そして、我々人間の脳は、相手が話している内容よりも
それらの言葉にならない情報を優先度の高い情報として処理する。

大喜利では、回答をする際に、
テキスト以外の情報を他のプレイヤーに比べて利用することに長けた人。
そのような人が、「フィジカルの強い人」と呼ばれるのではないでしょうか。

・ボード外のアドリブ

これは、大喜利をしたり見たりしていると想像しやすいと思います。
ボードに書かれていない、いわゆる前振りの部分です。

この前振りの部分は、回答の補助としての表現です。
観客に回答を理解してもらう上で、必要な状況説明はもちろん。
前情報を元に、予想を裏切ったりする場合もありますね。
どこまでを口頭で話し、何をボードに書いてオチとするのか。
そこもまた、それぞれ個性や技術が光る点で面白い。

私の場合は、先述したサブテキストを含めた情報を伝えておいて、
どのような人物・感情の人が言っていることを回答にしているかを伝える為に使ったりもします。
(私のやり方は少し特殊な例ですので、真似はしない方が良いと思います…。)

一見便利なやり方にも思える前振りですが、
振れば振るほど、回答のオチへのハードルは上がっていきます。
「前情報があった方が伝わる・面白い」と判断した時に力を借りましょう
基本的に、上がったハードルを越えたり・予想を裏切ることが
前振りをした上でウケることができる前提条件となります。
前振りをゴテゴテに付けて爆発的にウケるタイプの人もいますが、
これは掛け金の大きなギャンブルと同じでリスクも相応に大きくなります。
元も子もない事を言いますが、シンプルに出して伝わる回答を考える。
これが、初めに優先される選択肢です。

さて、言葉の定義とその説明に分量を割き過ぎてしまいました。
ここからは、誰でも自分の大喜利に取り入れられる実践的なお話しをしていきます。

前提の話

大喜利でよりウケやすくなることを身体表現の面から考えていくにあたり
第一に、共有しておきたい大切なことがあります。
それは、「自分の回答を観客に観てもらうとき、
どれだけ純度を保って相手にその面白い状況を伝えられるか?」
です。

大喜利もパフォーマンスする人と観る人がいて成立する演芸の一つです。
笑ってもらうには、まず面白さの意図が正しく伝わるかが肝心です。

声の使い方

・あなたのその”声”は回答に対して適切でしょうか?

「大きな声でハキハキと!」この考えは間違いではありません。
もちろん、何を言ってるんだか聞こえなければ話になりません。
しかし、それだけではまだ不十分かもしれません。

自身の回答やプレイ環境に対して、適切な音量か?
そして、適切な声色か?

実は、大きな声で何かを叫べばいいというわけではないのです。
使い古された拡声器で叫んでいる音声を聞いたことがあると思います。
あれってものすごく内容が聞き取りづらく、うるさく感じますよね。
過度な大声は、声が潰れて綺麗な音ではなくなりますし。
声が小さい時と同じかそれ以上に、聞き取りづらいものとなるのです。
芸人さんや役者さんは、とても大きな声で話すことができますよね。
彼らは大声を出そうとしているわけではありません。
それぞれの表現や環境に適した発声が身についているため、
声を張り上げようとしなくとも、ハッキリとした大きな声を出すことができている。
輪郭のハッキリとした通る声と大声は、れっきとした別物なのです。

では、どうすれば良いのか?
マイクを使いましょう。
最近の大喜利イベントは、ある程度の広さの場所で行われる場合
その多くにマイクが用意されています。

また、マイクが無い場合も同じことです。
マイクが無くても届くような距離や人数の目の前の人に発言を”伝える”
その為に、張り裂けんばかりの大声が必要でしょうか?

単刀直入に言います。
必要以上の大声、急な大声が何故ウケから遠ざかるのか。
それは…「観ている人が、ビックリするからです。」
回答に対して心が動くよりも「声デカ」「うるさっ」が勝ってしまう。

人間の感性は、思考のノイズに敏感です。
気になることが刺激となって目の前の認識を妨げてしまうのです。
せっかくの自信ある回答のオチですから、
正しいタイミングで気持ちよく伝わって欲しいものですよね。
まずは、目の前のお客さんに伝えることを意識してみると良いでしょう

・声色・話し方を味方につけて損はない

声色に関しては、もう少しサブテキストを利用してより回答の情報量を増やす役割です。
これは、大喜利でも目にしますし、コミュニケーションにも共通しますが。
大きな声でハキハキと話していても、全体的に平坦で抑揚のない口調だったら、どの部分が要点なのかが判然とせず中身が伝わりづらい。
逆に、自分が話す前に既にニヤニヤと笑った声色で
「こないだ面白いことあってぇ、~~が〇〇でぇwおもろいやろw」
などと言われても、このような口調では内容に関心はいきません。

淡々と話すことがかえって面白くなることもありますし、
怒った口調や悲しそうに話すことで、より情感が伝わって
内容の面白さが鮮明になることもあります。
その人自身が与える印象や回答の内容によっても正解はそれぞれ。
ですが、マイナスポイントを減らす分には「正しく伝わるか」で十分です。
声色や話し方というものは奥深く、味方にできれば強力な武器となってくれるでしょう。

その回答、自分でウケなくしていませんか?

大喜利初心者の方が大喜利をする際によく見る特有のものとして

  • 回答内容を言う前にボードを見せてしまう

  • ボードを出す時に机にぶつけてしまう

というものがあると思います。
これらは、テレビ番組の影響が考えられます。
クイズ番組では、指名されて発表するタイミングでフリップを見せますし、
テレビ番組でフリップを出す際には、机に付属したフリップを固定する為のパーツに差し込む動作が加わる為です。

しかし、これらは生大喜利では余計な所作になってしまう。
ボードは回答のオチと共に見えるのが適切とされているし、
テレビのフリップよろしくホワイトボードを机に設置させてしまうと
「ゴンッ」という大きな音が鳴り、肝心の回答者の声はかき消されてしまいます。

どうして正しい所作とそうでないものが明確に存在するのか?
それは、回答が観客に伝わって反応が返ってくるまで、
その認識の過程を整理することで説明することが出来ます。

①お題の状況
②回答の音声情報(サブテキスト含む)
③ボードの内容(オチ)

この認識の過程の3段階が、いかにスムーズに共有できるかが
「回答を面白いと感じてもらえるか?」の前に存在します。
声についての項目にも共通する話なのですが、
この認識の段階で、思考にノイズ(不快感や疑問)が介在してしまうと、
回答が面白いかの判断以前に正しく伝わらなくなってしまいます。

既に大喜利で遊んでいる経験のある方は、
「いやいや、それくらい知ってますよ。」と思うかもしれません。
ですが、回答の所作には、意外と気を遣える部分が沢山あります。
ここでは、個人的に気にかけている「ボードで回答を薄めてしまわないようにする為のポイント」を挙げていくことにします。

  • 回答して観客の反応を待たずにボードを引っ込めてしまっていないか?

  • ボードを扱う際に、隣の回答者のパーソナルスペースを侵していないか?

  • ボードを出すタイミングやスピードはチグハグになっていないか?

  • 回答した際、ボードと顔が観客目線で一目で見える位置にあるか?

そして、何より大事なのは、落ち着いて自信を持って回答出来ているか
最後のポイントは、先述したサブテキストの部分にも繋がってきます。
始めたての方でも、最近は皆さん落ち着いて堂に入った大喜利をされる方が
沢山いらっしゃって「すごいなぁ」と感心するのですが。
焦りや所在なさというものは、見ている人に自然と伝わってしまいます。
やはり、焦ってバタバタとしている時というのは、見ている人も落ち着かない気持ちになってしまう。

余裕が無いときにこそ、ひと呼吸。
意外と大事です。

最後に。

さて、ここまで大喜利の主役とも言える発想や言葉
それ以外の観点から、「フィジカル」というものを考えてきました。
つまり、「フィジカル」というのは、言葉以外の表現ということです。
言ってしまえばそれだけのことなんです。
それでも、これだけの事を考察できるくらい見逃せない要素なのです。

ダンジョンのTは大喜利を遊び続けてきた中で。
いつの間にやら「フィジカル」なるものを褒めて頂くようになっていました。
大喜利を続ける中、うまくいったりうまくいかなかったりを繰り返してきました。
そんな中で培った自分なりの武器は、他の人と違う自分なりの得意を伸ばすことでした。
僕は何かを想像するときに映像が浮かぶタイプなのですが、
その映像を大喜利の回答に詰め込んで再現し、頭の中で見えたものをなるべくそのまま伝えたい。
そんな思いと試行錯誤が折り重なって、今のスタイルに行きつきました。
「フィジカル・演技」という形で面白がって頂くことが少なくないものの、
それらは、大喜利の基礎的なアプローチをした上で、そこに自分の得意を武装しているのです。

大喜利にフィジカルは、必要なのか?
その答えはありません。

どんな人も生身の身体と声で大喜利をする限り、
フィジカルの要素は発生する。
それをどれくらいの分量で配合して使うかの違いに過ぎないのです。
しかし、扱い方次第で生大喜利を楽しむ助けになってくれます。

楽しく悩みながら、自分の大喜利を見つけてください。
我々は皆、誰かに成り代わることはできません。
でも、だからこそ、貴方のスタイルは貴方のものです。

ここで僕が書いた持論が
いつか、何かの気づきを得るキッカケや欠片になれば幸いです。


長々と講釈を垂れてしまいましたが、
ただの一大喜利勢の持論の4700字…ここまで読んでくれる人はいるのか?
まぁいいか、かくいう僕もここのところ調子悪いので
自分の頭の中と改めて向き合うことができて楽しかったです。
ここまでお付き合い頂いたことに心より感謝します。

せっかくなんで、
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