「うつ」について:うつといっても実は色々あります。

「うつ」は、精神科、心療内科を受診される一番多い理由、訴えになるのではないでしょうか。先日の大阪なおみ選手が「うつ」に苦しんでいたことを告白されています。

そもそも、「うつ」と聞いて、思い浮かべるものは、皆様一人一人異なられることでしょう。職場、学校、家庭、人間関係、さらには自身や家族の健康問題などで思い悩むことは日常的です。現在のように、コロナウイルスによって、非日常的な状況を強いられていれば、それらもストレス要因になります。

ストレスが強まる、または一定期間持続すると、ストレス性ホルモンによる脳の機能の低下(厳密には神経細胞レベルでダメージが生じる事が医学的に明らかになっています)が生じてきます。結果として、気分が落ち込む、意欲が出ない、十分に睡眠がとれない、食欲が出ない、妙な不安が出る、出口のない同じことばかり考えてしまい、気疲れしてしまう、中長期的にものごとが見れない、といった特徴的な症状が出てきます。

これらは、すべて「うつ」症状に該当します。

また、身体の不調を訴える方も多いでしょう。肩こり、頭痛、腰痛等の悪化、めまい・ふらつき、胃腸の具合が悪いなどなど、ストレス下では様々な身体症状が出ます。これらの身体症状を丁寧に診療していくと、実は「うつ」症状の治療が必要であるというケースは、稀ではありません。

では、「うつ症状」があれば、「うつ病」かというと、そういう訳ではありません。

まずは、「うつ症状」の程度です。
皆様の生活に支障をきたす程なのかどうか、どうか。
次に、その経過、症状が出ている期間が診断上、重要となってきます。
それらによって、正式な診断名が異なってはくるのですが、細かく診断カテゴリーを分類することに固執される必要性はないと思います。

辛い出来事やストレスを受けた場合、誰でも「うつ症状」が出ますが、本来、人には時間経過とともに回復していく力があります。持続的な「うつ状態」になるのか、

ただし、回復をうながす要因、さまたげる要因は様々あり、「うつ状態」が持続する・悪化する、ということが週単位、月単位で続く場合は、適切なサポートを得る事で、より早い回復が得られます。症状が重くなるまで、追い詰められるまで、放置せず、早め早めの対応が望ましいです。

健康管理を扱う医療分野には「1次予防」「2次予防」「3次予防」という概念があります。1次予防は「発症予防と健康増進」、2次予防は「早期発見と早期治療」、3次予防は「病気後の回復支援や再発防止」などとされています。治療以外の手段で健康を支える医学的な考え方です。言葉は難しいですが、実は身近なものです。みなさんが毎年受けられている健康診断は二次予防ですが、一次予防の側面もあります。また、話題のコロナワクチン接種は一次予防に該当します。

メンタルヘルスについても、同様です。「うつ」にならないように、「うつ状態」「うつ病」水準に発展しないように、「1次予防」を行っていくことが大切です。症状が水準以上になれば、投薬治療も必要となりますし、仕事や学校を休まざるを得なくなります。

適切なカウンセリングでは、クライアントの心理状態に寄り添いながらも、「うつ症状」ないし「うつ状態」の要因を分析し、一緒に対応方法を検討することで、回復をサポートしていきます。また、カウンセリングで、その方の心理的苦痛(しんどさ)や心身の症状が改善するかどうかも見極めのポイントになります。症状の程度によっては医療機関との連携の必要性の判断ができることも、適切なカウンセラーの資質となります。

なお、古典的精神医学の観点からすると、特に誘因なく(思い当たる節がなくとも)もしくは通常の反応を超えて発症してくるのが、本来のうつ病と位置づけていました。この場合は、適切な診断と治療が必須となります。抗うつ薬には依存性はありませんが、一方で安易に抗不安薬・睡眠薬を服用すると、耐性・依存性に悩まされる事になりかねませんので、専門医による適切な投薬治療が大切です。

なお「うつ」症状は、「うつ病」以外のあらゆる精神疾患で出現します。「うつ症状」は診断において特異度は極めて低く(特定の症状があれば、診断が決まるというものではない)、その「うつ症状」が何に由来するかを適切に判断していく必要があります。

通常経験されうるストレスに対する反応が水準以上となる「適応障害」
強迫性障害やパニック障害の結果としての二次的な「うつ」状態
発達障害(自閉症スペクトラム障害、ADHD)における困難の結果として「うつ」症状・「うつ」状態
太るのが怖い、食べ吐きする、といった摂食障害の結果としての、「うつ状態」
認知症や、癌などの身体疾患による「うつ状態」
etc.

適切なカウンセリングは1次予防、2次予防、3次予防、全てのステージで有効ですが、自分のしんどさ・辛さに対し、早目に適切なカウンセリングを受ける事で「治療が必要な状態への移行を防ぐ」ことができれば、ベストだと思っています。

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