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正解と最適解

「正論は嫌われやすい」というのが、僕が33年間生きてきた中で学んだ一つの解だ。

先日、母が発泡酒を飲みながら「やっぱりビールは美味しい」と言ったところに「いや、ビールじゃなくて発泡酒じゃん」と返してしまった。母の機嫌を損ねてしまったのは言うまでもない。
こんなんだから彼女の一人もできないとか、そういうの、今いいから。

正しいことは悪いことではないが、正しさが最上位というわけでもない。

たとえば、「昨日動画観てて一人で爆笑しちゃった」という日常会話にありそうなこの一言。
ある部分が間違った日本語なのだが、おわかりだろうか。



(シンキングタイム・・・)




はい、時間です。

正解は、「一人で爆笑」の部分。
「爆笑」の意味は、「大勢の人がどっと笑うこと」。一人だけで「爆笑」することは不可能なのだ。本来は「大笑い」が正しい。

しかし、日常会話において、そのような指摘をする人はほとんどいないだろう。「爆笑」という言葉で「ああ、ものすごく大きな声で笑ったんだな」と理解できる。使い方が正しくなくても意味は通じるのだ。
逆に、「いや、一人で笑ってるんだからそこは『爆笑』じゃなくて『大笑い』だろ」などと茶々を入れようものなら、場の空気は一気に凍りつくだろう。

言葉というものは、人の使い方で意味が変わっていくものだ。って、池上彰が言ってたからきっとそうなのだろう。だって池上彰だもんね。

とにかく、正しさを一番に考えるのも良し悪しということだ。



この話をする上で、一つの漫画を紹介したい。

それは、篠原健太さんの代表作「SKET DANCE」。
開盟学園高等学校・学園生活支援部、通称「スケット団」を中心に描かれたいわゆる学園コメディーもののジャンプ漫画だ。

SKET DANCE23巻、24巻
2冊で1枚の絵になる、素敵な表紙。

その劇中で、3年生(主人公たちの1つ上の学年)の卒業式がある。
生徒会長・椿が送辞を読んでいるときに回想シーンが入る。そこには、前生徒会長・安形とのやりとりが描かれていた。

生徒会室で椿(当時副会長)と安形(当時会長)が話していると、吹奏楽部の男子生徒が怒鳴り込んでくる。男子生徒曰く、
「椿がオレの自主練をジャマして部活動停止にしやがった!!」
「おかげでオレはコンクールの選抜メンバーになれなかったんだぞ!お前のせいだ!!」
とのこと。

ここで、椿と安形のキャラクターについて簡単に説明しておく。
椿は、正義感と責任感が人一倍強い性格。よく言えば生真面目、悪く言えば頑固で融通が利かない。
安形は、極端な面倒くさがりだったり、気分で物を言っては後悔したりと、ちゃらんぽらんな面が多く、椿とは正反対の性格。しかも、生徒会長としての実務はほとんど椿に任せっきり。その一方で、度量の大きさから、椿やほかの生徒からの人望は厚い。

話を戻そう。
その吹奏楽部の男子生徒は、部活動を行ってはいけない場所でトランペットの練習をしていたため、椿に注意された。翌日、男子生徒は同じことを繰り返していたために、椿によって3日間の部活動停止処分を受けることに。
その話を聞いた安形は、次のように話す。

吹奏楽部はレギュラー部員の選抜試験前は各自自主練に励むんだ
それぞれの音がジャマし合わねえように校内の色んな場所に散らばって練習してる
練習場所は正直足りてねェんだよな

校則では中庭での部活動は禁止って事になってんだ
お前は間違ってねえよ

でもオレは
放課後に聞こえるブラバンの音とかけっこう好きだけどな

篠原健太「SKET DANCE」23巻

そして安形は、男子生徒の対応をしようと席を立つ。しかし椿は、安形を引き止め、発端となった自分が行こうとする。そんな椿に、安形はこう言った。

お前が頭を下げたらお前のやった事は間違いになる
そんな半端な事はすんな

篠原健太「SKET DANCE」23巻

その後のことは詳しく描かれていないが、安形が顔に痣を作って戻ってきた描写がある。おそらく、激昂した男子生徒に殴られたのだろう。しかし、安形は後頭部を掻きながら笑っていた。

この一連の流れ(漫画にすると2、3ページ)だけで、安形の懐の深さがわかっていただけたと思う。


正しさの議論に戻ると、椿は「正しい」人間である。彼は決められたルールに則り、男子生徒を処分した。ただそれだけのことだ。
しかし、男子生徒にも事情があった。自主練をする場所が見つからず、禁止されているとわかっていてもそうせざるを得なかった。安形はそれを理解しているから、椿の代わりに苦情を受けたのだ。

これは現実社会でも往々にして起こり得る話だと思う。
たとえば、遅刻して怒られる人がいたとする。そこだけ見れば怒られて当然と思うのも無理はない。しかし、通勤途中に道端で倒れている人を発見し、救急車の手配やなにやらしていて遅くなったとしたら、あなたはどうするだろうか。
先ほどの椿の例だと、「いや、それでも遅刻は遅刻なので」と処罰したかもしれない(もっとも、椿の家は医院なのでこの場合は例外的に対処すると思うが)。それは職場のルールとしては正しい。しかし、出勤時間よりも人命を優先した人を責める人はほとんどいないだろう。それが「最適解」だと多くの人は理解しているからだ。
逆に「倒れている人を発見したが、遅刻してはいけないので放置した」場合、その人を”ルールを守った正しい人”として受け入れる人はいないだろう。職場のルールとして「正解」でも、人として「不正解」と考える人が多数派だと思う。


世の中に「正解」というものがあるのかどうかわからないが、「最適解」はある。とは言ったものの、「最適解」は人によって違うし、TPOによっても違う。常に変化しているものだ。

それぞれの「最適解」を理解できる安形が僕は好きだし、見習いたいと思っている。
漫画から学ぶことは、たくさんある。


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