ソーシャリー・ヒットマン外伝14「蒼き路地裏にて」
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俺は根来内 弾。殺し屋だ。
殺し屋と言っても、人を殺めるなんてマネはしないのさ。
俺が殺めるのは……そうだな、「社会的地位」とでも言っておこうか。
今日はこれから依頼人と会う約束をしている。
依頼人の指定した喫茶店で落ち合い、依頼を聞く予定だ。
おっと、報酬の話も忘れちゃならねえ。
◇
おかしい。住所はここで合っているはずなのに、喫茶店らしき建物は見つからない。先方が「どうしてもここじゃなければいけない」と頑なだったので妥協したが、失敗した。喫茶店はおろか、店らしきものも人通りもまったくない、寂れた路地裏じゃあないか。こんなことなら、いつものように「ラブリーメイドカフェ☆冥土の土産」にしておけばよかった。
「あんたが例のヒットマンかい?」
背後から低い声がした。振り向くと、大柄なムキムキマッチョ男が立っていた。ん、こいつの顔には見覚えがある。
「お前、ワールド・ブルー社の人間だな?」
「御名答。と言いたいところだが、はずれだ。元社員なんでな」
思い出した。こいつは以前、ワールド・ブルー株式会社の蒼社長の運転手をしていた男だ。なんでも、社長の不在時に社長専用車を乗り回し、暴走して大江栖湾に飛び込んで大破させたとかでクビになったらしい。そのせいで蒼社長は一時的にマイバイクで移動していた、と聞いたことがある。名前は確か……
「蒼里 運天。ワールド・ブルー株式会社秘書室どこ行くんです課運転手、いや元運転手か」
「ほう? この俺を知っているとは。なら話は早い」
蒼里はニヤッと笑った。
「蒼広樹を抹殺してもらいたい。この俺をクビにした、あの男をな」
なるほどな。自分を切り捨てた社長への逆恨みってわけだ。まったく、クビになったのは自分の責任だってのに。
まあいい。ワーブル社にはいろいろと世話になってはいるが、仕事となれば話は別。ヒットマンの心得の一つ、「これはこれ、それはそれ」だ。
「わかった、引き受けよう。社会的抹殺の手段は、指定がなければこちらに任せてもらう。報酬は……」
「報酬は、これでどうだ?」
蒼里は太い右腕を前に伸ばした。その手には、拳銃が握られている。そういうことか。
静かに両手を上げる。蒼里は依然としてニヤッと笑っている。
「生憎、金目の物は鉛玉くらいしかなくてなあ」
これは、なかなかまずい状況じゃあないか。仮にも「ヒットマン」を名乗っている俺が、まさか命を狙われるとは。
きっとこの男のことだ。蒼社長の転落を見届けた後、口封じのために俺を抹殺するに違いない。くそっ、万事休すか。
絶体絶命のピンチ――そのとき、蒼里の背後から二つの声がした。
「波、異常はないかい?」
「マイトンさん、異常なしです」
すると、先ほどまで俺に拳銃を突きつけていた蒼里が、跡形もなく消えてしまった。一体、なにがどうなっている?
「アハハ! 突然のことで驚いているようだね」
先ほどまで蒼里がいた辺りに、一組の若い男女が現れた。声の主は、眼鏡をかけた男の方だった。
「ちゃんと会うのは初めてかな? 僕はマイトン。ワールド・ブルー株式会社さよなら部の部長で、蒼社長の孫……って君ならもう知ってるか」
ニコニコしながら自己紹介をするマイトン。しかし目は相変わらず笑っていない。
「で、こっちは……」
「波です。以前『喫茶 花』でお会いしましたよね?」
もう一人の声の主は、そうだ、思い出した。俺が初めて「喫茶 花」を訪れたときに応対してくれた、そつがない店員だ。
「ああ。なにが起きたのかはわからんが、とにかく助かった。礼を言う」
「いえ、こちらも仕事ですので」
「仕事?」
「アハハ。僕たちの依頼主が来たよ」
マイトンと波の後ろから、一人の女が現れた。寿司柄のスカートが印象的な、なんともミステリアスな女だ。そして女が現れるや否や、ぽつぽつと雨が降ってきた。
この女に見覚えはない。マイトンと波の依頼主とのことだが、一体何者だ?
「お前は、だれだ?」
「見えます。わかります。あなたの頭の上に、クエスチョンマークが浮かんでいる様子が」
「?????」
困惑している俺を見て、マイトンが助け舟を出してくれた。
「彼女はめぐみティコさんだよ。説明するとややこしいんだけど、この辺りの路地裏を守っている番人ってとこかな。今、僕たちが君を助けたのは、ティコさんの依頼があったからなんだ」
つまり、この女が俺を助けてくれたってことか。
「そうだったのか。おかげで助かった。礼を言う」
「いえ、わたしは自分のすべきことをしただけですから。それに、不憫男子がいなくなるのは望むところではないので」
「不憫男子?????」
「アルロン酸ナトリウム……不憫男子からしか得られないこの必須栄養素は、お肌すべすべになるのですよ」
「ある……なんだって?????」
なんだ? この女はなにを言っている?
考えようによっては、蒼里より危険な人物かもしれない。今はマイトンと波にすがるしかないのか。
と思っていたら、マイトンが口を開いた。
「アハハ! とりあえず一件落着ってことでいいかな、ティコさん? じゃ帰ろうか、波」
「はい、マイトンさん」
おいおいおいおい! こんなカオスな状況で先に帰るなよ!
「ちょ、待ってくれ……!」
俺の願いも空しく、マイトンと波は先に帰ってしまった。
残された俺に、ティコはうすら笑いを浮かべてこう言った。
「不憫な目に遭ったら、いつでもいらっしゃいね」
社会的殺し屋・根来内 弾。
彼は、不憫男子属性を持っている。
(続く?)
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【ゲスト:めぐみティコさん】
「どうかしているとし課」
実はワーブルの生みの親
属性「不憫男子」とパワーワード「アルロン酸ナトリウム」が生まれた瞬間
【ワールドブルー物語】
【「ソーシャリー・ヒットマン」シリーズ】
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