演奏者の真価が問われる「一発録り」レコーディングの魅力。バンドネオニスタ仁詩さんの録音を経て
文・写真/木村 玲(白金ピアノスタジオ)
バンドネオン奏者・仁詩さんの新作アルバムのレコーディングで、二日間に渡り白金ピアノスタジオでレコーディングを行った、バンドネオニスタ仁詩さんとピアニスト須藤信一郎さん。
同じ空間でお互いの音を生で聞きながら一緒に演奏するレコーディングは、いわゆる「一発録り」という手法で、最も原始的な録音方法だ。
楽器ごとに録音用のマイクを立てても、お互いのマイクにお互いの音が“かぶって”入ってしまうので、もし一方がミスをしたらあとから修正することはほぼできない。
だからといって「間違わないように」と慎重な演奏をしてしまうと、音楽がこじんまりとしてしまう。なので、ある程度の決めごとは打ち合わせした上で、ミスを恐れず、相手の息遣いを感じ、パッションを大事にして、思い切った演奏をするとそれが良いテイクとなる。
10曲のレコーディングを行ったが、お二人とも経験豊かな演奏家なのでファーストテイクから演奏の完成度は高い。数テイクで完成が見えた曲もあれば、何度も何度も挑戦して「その先」にあるものを掴み取った曲もあった。
今回のレコーディングは1曲を除いてすべて仁詩さんがオリジナルで描き下ろした曲。バンドネオンという楽器はタンゴの伴奏楽器というイメージが強いが、その域にとどまらず、ジャンルを超えた活動をしている仁詩さんだけあって、仁詩さんの書く曲は曲ごとにコロコロと表情を変える。
レコーディングエンジニアを担当させてもらった私も、仁詩さんが書いた譜面を追いながらのレコーディングとなったが、作曲家としての仁詩さんの才能を強く感じる二日間となった。
1曲だけ既成曲をソロで演奏した仁詩さん。その曲はバッハのシャコンヌ。無伴奏ヴァイオリンの曲として知られるこの曲を、バンドネオンのために編曲し直して独奏した仁詩さん。ライブでは演奏したことがある曲でも、録音として残すとなると勇気がいる選曲。
レコーディングの最後に、満を持して延べ14分にも渡るシャコンヌを弾き切った仁詩さん。神経も体力も使い果たし、本人もくたくたに疲れたのではないか思ったが、その足で自分のスタジオに舞い戻り、ライブ配信番組もやりきっていたタフさ。
「今日は短くなるかもしれません」と前置きして始まったライブ配信は、リクエストを募ってどんどん曲を演奏していき、2時間近く続いた。
二人の演奏を聴きに来た猫。
お二人ともお疲れさまでした。
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