水溜まりの空が揺れる
手を放せば、多分、これが最後だ。それくらい、鈍感な私でもわかっている。彼の優しさに甘えすぎた、そんなありきたりな言葉は言わないと決めた。二人の関係なんて、きっとふたりにしかわからない。
彼の気持ちが離れたのは、あの子が現れたからじゃない。あの子のせいにする方が、自分のプライドが傷つくことを、私はよく分かっていた。見た目も年齢も、何もかも、比べてしまえばキリがない。あの子のようになりたかった自分を、私は最後まで許せなかった。
嫉妬は醜いことを、きっとあの子は誰よりもわかっている。したたかに笑うあの子は、醜さを隠す争いに、勝つ術を持ち合わせていた。後悔することは、何もない。それなのに、心の奥底が痛むのは、まんまとあの子の罠にはまってしまったからかもしれない。
彼は、そんな私からいつの間にか離れていった。あの子が良かったわけじゃない。醜さに取り憑かれた私から、きっと逃れたかったのだろう。
水溜まりに写る空は、揺れている。耐えることのできないその想いが、涙になって頬をつたう。揺れる空には、いつか虹がかかるのだろうか。見えない先で、手をさしのべてくれる彼は、もういない。
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