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チャーリー・カウフマン スピーチ Part 3. クリエイティブの源

私が時の流れと共に変わるように、物事も変わっていきます。私は変わり、世界は変わり、世の中の私に対する見方が変わります。私は歳を重ね、失敗や成功をし、自分を見失います。そして、穏やかに過ごすひと時もあります。ですが、過去の私の面影が私に付きまとい、私は気まずくなったり、悲しくなったり、憂鬱になったりします。未来の私の姿からは、憂鬱になったり、希望を持ったり、恐れたり、気まずくなったりします。そして今この時点で立っている岐路から、私は絶えず気まずい思いをしたり、悲しんだり、憂鬱になったり、怒ったり、期待を持ったり、過去を振り返ったり、将来に目を向けたりします。

私は覚悟を決めてその岐路から動き出し、一瞬にして別の岐路に立つこともできます。そこには変化(ムーブメント)だけが存在します。脚本は変化です。それは時間で書かれ、時間の経過を表現します。ある時間の中で作られ、ある時間の中で見られます。それが映画であり、変化をもたらすのです。

「なんて2時間なんだ。絶対に取り戻せない」と言うのは、つまらない映画を見て腹を立てた人が好む言葉です。ですが、実際のところ、それがどんな2時間であろうと今後絶対に取り戻せない2時間でしかありません。自分の2時間を密かに蓄えることなんてできません。

そして、君たちがここにいて、私もここにいて、まるで必然的であるかのように私たちは今この時間を使っています。私は、普段の時間と同じようには、今この時間を使わないようにしています。君たちに私を気に入ってもらえるようにしています。光速で、音速で、思考の速さでおまじないを使って、君たちの意見を操ろうとしています。私と過ごすこの2時間が君たちにとって後で嫌なものにならないように、君たちを信じ込ませることに必死なのです。

それは古典的な形式化された時間の使い方であり、私は役に立ちたいという思いがあるので、もっと核心に迫るように努力をしています。時間のこの形式化された使い方は昔の傷を上塗りし、明るい色彩で染めてしまいます。それは手品であり、気をそらすものです。ですので、その形式化された使い方を変えてみるために、その傷をあらわにしてみましょう。私は今、やみくもにこの場所に足を踏み入れていますが、傷がどんなものかわかりません。古いということはわかっています。私という存在の中にある穴だということはわかっています。傷つきやすいということも知っています。人知を超越したものであり、少なくとも明確に表現できないものだと思います。

君たちにも傷があると私は信じます。それは君に固有のものでありつつ、誰にでも共通するものだと思います。それは隠して守っておかなければならない個人的なことだと信じています。それは、1日に5回のタップダンスのショーで踊っても崩れない床に守られているでしょう。たとえそれが明らかになった場合でも他の人にとっては興味をそそるものではないかもしれません。それは、君から気力を奪い、憂鬱にさせてしまいます。君への愛をありえなくさせるものです。それは君自身さえからも隠された秘密なのです。ところが、それには活き活きとしたい思いがあります。

それが、君の芸術、絵画、ダンス、作曲、哲学の論文、脚本を生み出す源なのです。仮に君がこのことを認めないとしましょう。君は自分のスピーチの順番になってここに登壇し、スピーチをすることになりました。君は脚本の仕事について話すことでしょう。そして、脚本家としての自分は事務機器の中にある歯車の1つであり、脚本は芸術形態ではないと語るはずです。「脚本がどういうものなのかこれから教えよう」と話し、キャラクター・アークについて語ったり、人に好かれるキャラクターの作り方を説明したり、興行成績について話をしたりするでしょう。そういうことを君はするでしょうし、それが君の未来の姿なのです。そして、君がそのスピーチを終えると、私は寂しさと虚しさと絶望を感じるはずです。そして、君に私の2時間を返してくれと頼むに違いありません。私がそうするのは、君への愛情が無くなったことを伝えるためです。

君が人として時間の無駄な存在だということを伝えるために、私はそうするのです。その時の私の姿は見苦しいものでしょう。君を傷つけるためにそうするのです。私はそうすべきではないかもしれません。それは思いやりに欠けています。そして、君は傷つくでしょう。君はそれを無視するかもしれませんし、理解するかもしれません。ただ、どちらにせよ、君はそれを聞いたことで、影響を受けることになります。そして、君は次に何ができるのかを考え、その結果、人にもっと気に入られるように行動して、君の傷をもっと深いところに埋めることになるかもしれません。もしくは、世間をひどく恨み、自分を守る鎧をもっと厚くしようと考えるでしょう。その結果、君は自分のアイディアを計画通りに進められます。そして、君の傷はさらに深くへと埋められてしまうでしょう。

Part4に続く

スピーチ原文および映像の著作権はBAFTAに帰属し、BAFTAから許諾を受けて翻訳をしています。

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