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【短編小説】 卒業デュエル


「卒業文集何書くか決めた??」


「いや、決めてない。そんなことよりトラップカードの奈落の落とし穴発動してるから、サイバー・ドラゴン除外ね」


「出たよ。またそれかよ」


私は当時、除外デッキ使っている彼にいつもカードゲームで負けていた。


「じゃあ、氷帝メビウスの攻撃で俺の勝ち」


「はぁ~…お前このデッキ強すぎ。もう何連敗するだろ」


「俺、このカードゲームのこと卒業文集に書こうかな」


「やめておけって。将来絶対後悔するぞ。絶対友達からバカにされる」


「俺そもそも、カードゲームするような友達しかいないし、同窓会も絶対参加しねーし。だから大人になってもバカにされる友達すらいないしさ」


「そうかもしれないけど」


「俺は除外デッキでこの学校の頂点に立ちましたって」


「ダサすぎるって(笑)」


中学2年生の4時間目の理科の授業中、理科室が使えないので自由時間となった。


俺はあまりにも暇すぎて同じクラスでたまたま隣の席の彼に空想デュエルに持ちかけた。

空想デュエルとは好きなカードをドローすることができる、ゲームとしてメチャクチャな遊びだった。


けどあまりにも空想デュエルが楽しくてお弁当の時間になってもずっと続けていた。


それから俺たちは空想デュエルでは飽きたらず、実際に学校にカードを持ってきてトイレでいつもデュエルしていた。


先生やヤンキー、部活の先輩に文句を言われ続けたのに、ずっと隠れながら卒業まで続けてしまった。


デュエルになんて全く興味を持っていなかった彼はすぐにハマってしまい誰よりも学校でこのカードゲームが強くなってしまった。

もちろん彼の家がそこそこ裕福だったこと関係している。


帰宅部だった彼は家に帰り、デッキの研究を続けて学校で一番強くなった際には当時アニメで流行っていた覇王というあだ名を自分につけた。


私はサッカー部だったことや家庭が貧乏だったこともありそこまでカードゲームに熱中できる環境ではなかった。


部活が終了して、高校受験が終わり、学校を卒業するまでの余白をカードゲームに費やしていた。


「なぁ、こんなの書いてみたんだけどどうかな。」


そこに書かれていた友達の文章を読んで驚いた。


『私はこの学校にあまり良い思い出はございません。帰宅部で毎日ダラダラして中学生活を送っていました。しかし私はこの学校に覇王として君臨することができました。俺よりこのカードゲームで強い人は誰もいません。俺はこのカードゲームを誘ってくれた友達に感謝し高校生になっても大人になっても、彼とカードゲームをやり続けます。そしてこの学校を卒業してから会った人は僕のことを覇王と呼んでください。ありがとう。相棒』



「勘弁してくれよ。お前の卒業文集に俺を出すなよ。俺はサッカー部として輝かしい中学生活があるんだよ。一人で恥晒せよ」



「良いじゃんかよ。俺はこれで卒業文集提出する。だいたい俺をこのゲームに誘ったのはお前なんだぜ、相棒」



「相棒じゃねーよ」


俺は彼が羨ましかった。


決してスクールカーストの上ではなくとも、自分の好きなものをきちんと好きって言える彼が。



それに比べて俺はいつも周りからどう見られるかばかり気にしていた。


サッカー部に所属していたのも、サッカーが純粋に好きというよりも、サッカー部に所属している自分が好きだった。



肩書きが重要だったのだ。



バーガーショップで小説を読み進めていて理科室のシーンになった。



ふと自分の中学校の頃に書いた卒業文集を読み返したくなった。



自分の書いた卒業文集よりも当時仲の良かった友達の卒業文集の方が覚えている。



彼は今なにをしているのだろう。


『サッカー部の夏の大会が終わり、高校受験も一区切りして、少しだけ時間のできた私は将来について考えました。すると自分では抱えきれない不安に押しつぶされそうになりました。けど、友達とデュエルで遊んでいるとそんなことは気にならなくなりました。未来は楽しいことばかりではなく、むしろ辛いことが多いかもしれません。しかし友達がいれば頑張れそうです』


結局、当時の自分がデュエルのことを書いていておかしかった。



久しぶりに地元に帰省していた私は卒業文集を読み終えて、駅の近くのカードショップに行ってみた。


そこには店長と思われる男が子供に混じってデュエルしていた。


「俺は覇王だ。覇王と呼べ」


懐かしい肩書きだった。



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