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恋愛短編小説 「掃除当番」


アキトは無頓着に振る舞う、自堕落な高校二年生だった。彼の日常は、皮肉たっぷりの言葉と退屈な授業、そして混沌とした教室で成り立っていた。その教室が汚れるのは、彼にとって常識の範疇だった。だからこそ、掃除当番という役目は、アキトにとってただの煩わしいものでしかなかった。そんな彼が知る由もない、命運の糸がじわりと彼の日常を彩り始めていた。


「アキト、掃除しなさい」


彼女の声は、彼の無気力さとは対照的に冷たく響く。その彼女、マナミは学校一の美人で、その美しい外見は周囲の男子たちを引き寄せていた。だが、彼女の美貌はアキトにとって、彼女の厳格さを隠す衣に過ぎなかった。マナミは、彼が認めたくないほど几帳面な存在だった。


「俺はこの教室を汚さない。だから掃除はお前がやればいいじゃないか」とアキトは憂鬱な表情で屁理屈をこねる。だが、彼女は彼の言葉を無視し、黙って教室を掃除を始めた。アキトは彼女の帯同に、どこか不条理な苛立ちを覚えた。


そして掃除時間が終わる頃、アキトは驚きの声をあげた。彼が散らかした教室が、マナミの手によって一瞬で変わった。その様子を見て、アキトは彼女の優れた掃除っぷりに敬意を感じざるを得なかった。


それからの日々、アキトとマナミの間で掃除時間は、互いの価値観を問いかける戦場と化していった。アキトは、自分のだらしなさを突きつけられ、彼女の几帳面さに心を揺さぶられていた。


彼は自分が何を感じているのかを明確には理解できていなかった。だが、マナミと過ごす時間が増えるにつれ、


彼の心の中に一つの淡いものが生まれてきた。


それは、「マナミがいる時間」が、彼にとって最も価値ある時間であるという確信だった。掃除時間はただの日常の一部であるはずが、彼にとって特別な意味を持つようになった。彼の中には、次第に混沌とした感情が生まれ、彼を彼女へと引き寄せていった。


次第にアキトの心は変わり、彼は掃除に対する態度も変えることを決意した。彼は学び始めた、マナミが教える掃除の「美学」を。だが、彼が感じていたのは、ただ掃除への尊敬だけではなかった。彼の心の奥底では、マナミへの特別な感情が芽生えていた。


そんな時、彼は彼女に告白する決意をした。恋とは、相手の全てを受け入れること。アキトはその事実を、掃除を通じて理解したのだ。しかし、彼女がアキトの告白をどう受け取るのか、彼自身にはまだわからなかった。


告白の日、アキトはマナミに向かって言った。「マナミ、君が教えてくれた掃除の美学、俺はそれを理解した。そして、君が俺に必要だと感じた。君は…俺の心を掃除してくれる存在だからだ」


それが二人の恋の始まりだった。それから、彼らは掃除時間を共有することで、互いに深い愛情を育てていった。そして、アキトは、最初の掃除当番の日からずっと感じていた、マナミへの特別な愛情を確信した。その愛情は、彼のだらしなさを受け入れ、彼の心を掃除する彼女への深い尊敬と混ざり合った。

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