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今、オリンピックを考える

お誘いいただき、映画「戦火のランナー」を鑑賞してまいりました。

とにかく泣いた。

舞台は、北部のアラブ系民族と、南部のアフリカ系民族の対立によって、約半世紀ものあいだ戦火にさらされ続けた国、スーダン。

北部と南部の境界付近で生まれ、現在は南スーダンの国籍をもつグオル・マリアル氏は、物心ついた頃から命からがらの生活を強いられてきました。

このまま一緒に生活していては息子の命が危ない。そう考えた彼の両親は、村から息子をたった一人で逃がすという苦渋の決断を下します。

「もう一生両親には会えないかもしれない」
「両親は僕を捨てたのかもしれない」
そんな切迫した想いを抱えながら村を離れたグオルの身にはさまざまな苦難が訪れますが、彼はひたすら逃げ続けました。

”走れ、走れ、走れ…”

そして、逃走に成功した彼は難民キャンプに保護され、アメリカへ移民として渡るチケットを手にするのです。

”もう走らなくていい”

そう安堵し、英語はわかりませんでしたがアメリカの高校へ進むと、その無尽蔵の体力と脚力に教師たちが驚きました。

彼の才能を見初めたコーチは「走らないか」と彼を誘いましたが、当初グオルは走ることに抵抗感を覚えていました。

しかし、とりあえず走ってみた入部3日後の大会で上位入賞。初めて走ったマラソンでは、2012年ロンドン五輪の出場資格を獲得し、運命に引き寄せられるようにグオルは「走ること」で世界を変える道を選ぶのです。

ただ、彼の生まれた南スーダンは北部と南部の争いが終結して2011年に建国したばかりで、国内オリンピック委員会がありませんでした。

スーダンの選手としてなら出場できるという話もありましたが、自分は祖国・南スーダンのために走りたいのだと断固拒否。

無国籍者として大会出場が危ぶまれましたが、世界的なトピックとなり、IOCも個人参加者としてグオルの出場を認めます。

そして2016年のリオオリンピックでは南スーダン内にもオリンピック委員会が設立され、グオルは祖国・南スーダンの選手として、マラソンを見事完走。彼の奮闘ぶりが世界の人々に大きな希望をもたらしたのです!

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映画のアフタートークで登壇された、元JICA南スーダン事務所長・友成晋也さんによると、現在も南スーダンでは紛争が絶えず、警戒レベル4(退避が必要)となっています。

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北部との争いが終結してからは、南スーダン内に住む64の部族が権力闘争を繰り広げ、2013年と2016年に大きな内紛が起こって今でも収束していません。

北部からの独立のとき同様、グオルは南スーダンを想い、現在もスポーツの力によって民族間の偏見を取り除き、武器をもたずに平和を築くことに専心しています。

「自分のために走っているんじゃない。祖国のために、平和のために走っているんだ」

そう話す彼の綺麗でまっすぐな目に心を打たれました。

世界には、まだ祖国に帰ることのできない南スーダン人が200万人ほどいるそうです。

難民キャンプや避難先で一見楽しそうに暮らしている人たちも、空元気にしているだけで、一時も「帰りたい」という想いを忘れたことはないといいます。

そんな人たちの希望の光となるべく、国を背負い、大きなリスクを冒して、長年練習を積んできた選手たちがいることを考えると、少しでも安全にオリンピックが開催されてほしいと思います。

一方で、IOCバッハ会長の「五輪の夢を実現するために誰もがいくらかの犠牲を払わないといけない」とか、ディック・バウンド氏の「アルマゲドンにでも見舞われない限り、東京五輪は計画通りに開催される」といった発言が物議を醸しており、その発言の背景にはどんな思いが込められているのか真意を知りたいとも思います。

一介の民間人の私には、この映画のレビューを書くことぐらいしかできないけれど、開催するにしてもしないにしても、関係者の皆さんにはとにかく安全第一で進めてほしいと願うばかりです。

そして、これを読んでくださった皆さんには、ぜひ映画を観ていただけたらと思います。ここに書いた内容はほんの一部であり、作品にこめられた熱はもっとずっと高いものです。


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