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家族になったら、彼からときめきが消えました。


家族になるって、結局どういうことなんだろう。
梅雨明け、雲ひとつない空の下。
帰りがけに買ったそれの様子を伺いながら、
ふらっと立ち止まり壁にもたれかかる。
日陰は風が良く入り、汗で濡れた首が冷たい。
そうしてゆるやかに考えは巡る。

一昨年、わたしに家族が増えました。
結婚したのです。
夫になってくれた男性は、口数は少なく表情も
めったに変わらない、落ち着いた人。
よく喋り、ころころと感情が動き回る、
落ち着きのないわたしとは正反対の人。

わたしはそんな彼がとても好きです。
ほんとうにたまにだが彼は笑う。そのときの少し
垂れる目尻や一度笑い出すと止まらないところが
たまらなく好き。
いつもの真顔で洋服を選ぶ横顔も、眉間に皺を
寄せ険しい表情で寝落ちしている姿も、大好きな
サッカーを応援するときだけオーバーリアクションになるところも。


つい最近、そんな彼がわたしに
大ダメージを与える事件がありました。


新しいワンピースを身にまとい、うきうきと彼の
前に躍り出たわたし。
ときめいちゃったか?とにやにや尋ねたとき、
彼はこう言ったのです。

もう家族になったんだから、
今さらときめくことってないんじゃない。


家族になるということ。
男女として出会い、お付き合いを経て家族になり、もしかしたら子どもができて、そうすれば
パパとママになる。
役割が変化していくにつれ、一緒に過ごす時間が
増えるにつれ、お互いを男女として見ることが
減り、家族愛へと変化するとはよく聞くし、
まわりにもそんな家族はいます。
でも、わたしたち、そうなるのはまだまだ先だと思ってた。
子どもはいないし、結婚してまだそんなに時間が経ったわけでもない。

家族、とかたちが変わっただけで、
彼はわたしにときめくことを忘れてしまった。



わたしは、彼の奥さんであるまえに女性として
魅力的でありたいと思うのに、そんな酷いことってない。
ほかの誰かの目にはそう映らなくても、
彼だけはわたしに魅力を感じて欲しかった。
いつまでたってもわたしが彼を大好きだと思うように、彼にもわたしでドキドキして欲しかった。

心臓がばくばくとリズムを早めていく。
そのまま破裂してしまいそうなほど、
強くショックを受けました。



それなら、家族になんてならなくて良かった。
ずっと恋人でありたかった。




家族になったらときめきはなくなるのか。
家族になるって、なんなのか。
いろんなひとの話を聞き、いろんな記事を読んで考えました。

”やっぱり付き合っていた頃とは違うよ”
”昔みたいに、好き好き!ってのは減ったと思う”
恋人に求めるのは”刺激”
家族に求めるのは”安定”

やっぱり、家族になって時間が経つと
ときめきは減るとの答え、圧倒的多数。

スマホを見ながらベッドの上を転がり回って
しまうようなときめきよりも、ソファで同じ
番組を見て笑い転げるような安心感を得る。
それが多くの人が考える、体験している家族の
かたちなのでしょう。

恋人はふたり、お互いを向いている。
家族はふたり、同じ方向を向いている。
恋人は”今”を共にしている。
家族は”将来”を共にしている。

これから歩む未来に向かって、
ふたりで同じ方向を向いていく。
とても素敵だと思います。

でも、前ばかり見て、隣にいる大切なひとに
向き合わない家族なんてのも、最低じゃないか。
将来も、今このときも、どっちも共にしたいと
思ってはいけないのか。

ときめきを諦められないわたしは
そんなことを考えてしまいます。

ときめかれなくなるなんて、
もう好きじゃないのとおんなじ。
もうわたしに飽きちゃったのかな、なんて考えて目に飛び込んだのは次の記事。


恋人は”情熱”がつのる。
家族は”愛情”があふれる。



彼はわたしをとても大切にしてくれていると感じます。
仕事帰り、わざわざ遠回りしてわたしの好きな
スイーツを買ってきてくれる。
寝落ちして目が覚めると、覚えのないブランケットが肩に掛かっている。
わたしにときめくことはないと言いながら、
優しくやわらかく向けられる視線。
それは間違いなく、わたしへのあふれるような
愛情であるのでしょう。

ときめきはなくなっても、彼からわたしへの
愛情がなくなったわけではなくて。
考えてみれば、休みの日はすっぴんでうろうろし
涎を垂らしてだらしなく眠ったり、ときめきとは
ほど遠い行動ばかりのわたしを、出会った頃からなにも変わらず愛してくれていました。

ときめきを無くさせたのはたぶんわたしのほう。
だらしなくいるわたしにときめけないのなんて当たり前。
ときめいてくれとわめいたって、努力もせずに
ときめいてもらえるはずがないのです。


反省しながらも口元はにやけてしまう。
だらしないわたしに向き合って、隣にいるわたし
をしっかり見てくれているからこそわたしに
ときめけなかったんだなあ。
彼は前ばかり見てたわけじゃなかったんだな。
ああ、またわたしばかりときめいてしまって、
悔しいなあ。

恋人は”ただただ一緒にいる”
家族は”すべて受け入れて側にいる”


時間とともに、少なからず
ときめきは減っていくのでしょう。
それでもし、いつかときめかなくなってしまっても、相手をつくるすべてがいっとうに好き。
お互いにそう言えたらいい。

相手のすべてを受け入れて、
前を見て、お互いを見て、愛情を積み重ねて。
そんな家族になれたらいい。

あ、でも、その日はまだまだ先でいい。
もう少し、ときめいてもらえるように
努力はしてみようかな。

彼が好きなお店の珈琲と焼き菓子。
早く帰らないとぬるくなってしまうね。
日の落ちてきた道を、少し早足で歩き出す。

家の鍵が、かちりと音を立てる。
肩につかなくなった髪に、
あなたはどんな顔をするだろう。
ふたつのサプライズを抱えて開け放ったドアの向こう、眠そうな彼がすこし目を見開いた。

さあ、わたしにときめけ!





家族になったら、彼からときめきが消えました。




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