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怒りの成分分析

 「夫が話を聞いてほしい」というので、料理の手を止めて話を聞いた。夫はある人物に腹を立てていた。仮にその人をAさんとする。
 夫の話によると、Aさんは明らかに事実とは異なることを言ったにもかかわらず、夫がそれを指摘すると「前にも3、4回、俺は同じことを説明しただろっ!」と自分が正しいと主張し、キレ気味に返してきたらしい。夫曰く「何度説明しようが間違っているものは間違っているんだ」とのこと。周囲はそんなAさんの様子に誰も異を唱えられなかったらしい。

 Aさんはいつもそんな感じで夫の神経を逆なでする。夫は「Aさんがああいう人なのは分かっているんやけど、なんか期待してしまうのかな」と話の最後で言った。期待?と私の中ではちょっと違和感があって。

「Aさんがこれから性格が変わるとか、伸びしろがあるとか、あなたはそんなん期待してへんよね?」と私は私で(Aさんにとって)ひどく失礼な質問をする。「うん。もうあれは一生ムリやわ」と夫。

 「だったら、フツーは『ああ、もう言っても仕方がない』ってあきらめると思うんやけどな。ということは、あなたのAさんに対する期待は、Aさん自身に対する期待やなくって、Aさんというポジションにいる人(プロジェクトリーダーとしての役割)への期待ってことになるかなぁ」と私。

 つまり、もはやAさんに変化や成長が見込めないのであれば、Aさんに腹を立てても仕方がない。むしろAさんに今のポジションを降りてもらうしかないっていうのが一点。
 それと前々から感じていたのだけれど、夫は自分より上のポジションにいる人に対して、やたら厳しい。役割期待が大きすぎて、その期待通りでなければ、容赦なく相手を攻撃してしまう傾向がある。Aさんもその標的になっていないか?というのが二点目。そうなってくると、夫の中にある“傾向”みたいなものが、今回の怒りに加算されている可能性が高い。

 その説明は夫の腑に落ちたようで、だんだんと今回の一件の何に腹が立っているのかがクリアになってきた様子。

 「あなたに対してAさんが見下したような態度を取ることに対しての怒りはある?」と私はまた別の角度から切り込んでみた。
 「たとえば、Aさんが今回、自分に向けてキレてきたから『もっとオレを信頼(尊重)してくれよ』って感じで腹が立ったとか」と私は尋ねた。
 怒りの根っこって、傷つきだったりするから。

 夫は少し考え込んで
「うーん。それはないかな。Aさんが他の人に同じようなことでキレていたとしても、Aさんのそういう態度は良くないんじゃないかって、やっぱり腹を立てていたと思うから。
 ただAさんと俺は長い付き合いで、もともとお互いにやりにくい相手な上に、これまでも色々とあって気まずい思いをしてるけど、俺はみんなの前ではそれなりに我慢して大人な対応しているんやから、お前ももうちょっと大人になれよっ!とかは思うな」
と答えた。

 「でも、まあ、あれだ。そのAさんの幼稚さについては、彼自身が周囲からそれなりの低評価を受けるだけの話であって、そこについては(あなたがAさん自身にもう期待してない以上)割り切ったほうがいいね」と私。

 要約すると、今回の怒りの成分として
①Aさんという 人物についての腹立ち
②プロジェクトリーダーの 適性や人選についての腹立ち
自分だけが我慢して 大人としてふるまっていることへの腹立ち

 この三点が検出された。で①と③は非常に近くて、Aさんのキャラクターに付随しているものなので、これはどうしようもないものとして受け流す。自分が放っておいても、周囲から相当の評価を受けるので問題なし。
②については、夫自身の傾向がからんでいるので、少し冷静になって考える必要がある。怒り倍掛けみたいなことになっていないかどうか。

 こういう風に、ひとや行為に腹が立っているのか、それともこれまでの関係性を象徴するような出来事だから腹立たしいのか、もしくは自分の地雷に抵触する要素があるから我慢できないのか、といったようなことを考えていくと、不思議とひとの怒りは収まっていく。

 怒っている人の話を聞くのは難しいことだけれど、大事なポイントがいくつかある。
一つ目は、怒っている人(話し手)の側について話を聞くこと(否定したり正したりしない
二つ目は、怒りの対象(Aさん)のことをさりげなくディスりながら話を聞くこと(話し手の溜飲を少し下げる・笑)
三つ目は、話し手の視点に入っていないことを率直に(善悪の色付けなしに)聞いてみること。
四つ目は、怒りの根っこに傷つきがあったら、そこをケアしてあげること。

 また同じようなシチュエーションになったら、夫は同じように怒るんだろうけど、人間だからそれはしょうーがないよね。
同じように話に付き合うことにします。

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