ASDのフラッシュバックのメカニズムと対策
こんにちは。りおです。久しぶりの投稿になります。
今回はASD(自閉スペクトラム症)の特徴としてよく見られる「フラッシュバック」について解説します。
僕自身が当事者でありフラッシュバックにひどく悩まされていました。
僕は書籍やネット記事を通じてフラッシュバックが起こる仕組みについて学び、専門家の力を借りたり自分でケアしたりすることで対策することで克服することができました。
今回は、僕自身の経験も踏まえてフラッシュバックが起こるメカニズムと対策について解説します。
難解なメカニズムをなるべくわかりやすく解説したつもりです。
ぜひ最後まで読んでお役立てていただければ幸いです。
※下でも触れていますが、ASDのフラッシュバックのメカニズムについては理論が確立されたわけではありません。しかし仮説としては十分説明可能で、対策のヒントを得られます。なので今回の話は仮説ベースでお話します(とはいえ対策はきちんと効果があります)。あらかじめご了承ください。
1.フラッシュバックとは
フラッシュバック(flashback)とは、強いトラウマ体験(心的外傷)を受けた場合に、後になってその記憶が、突然かつ鮮明に思い出されることです。
過去の記憶を想起させるもの(トリガー)に触れることで起ったり、また全く関係ない状況のなかで突然に記憶が侵入する形で起ったりします。
「フラッシュバック」という言葉は、もともとPTSD(心的外傷ストレス性障害)の文脈で用いられることが多いです。
しかし、ASDに見られるこの症状もPTSDと同様に、自生的(意思のコントロールが及ばずに無意識下で起こること)で、記憶が鮮明な意味であることから、この記事では「フラッシュバック」と呼んでいます。
(同様に、スイッチとなる記憶のことも「トラウマ記憶」と呼ぶことにします)
フラッシュバックの症状は様々です。
血圧上昇に伴う身体の緊張や動悸・息切れ・発汗が一般的です。
身体が「闘争/逃走モード」にスイッチされ、体内のアドレナリンやストレスホルモンのコルチゾールの分泌量が増大します。
さらに、影響が大きい場合は「凍りつき現象(シャットダウン)」が見られます。
これは恐怖で身体がすくみ、一切の思考や身動きが取れなくなってしまう場合です。
今回は詳しくは触れませんが、自分の身体が自分のものでないように感じる「解離」もこれに含まれます。
この「闘争/闘争モード」や「凍りつき現象」については下記の記事で詳しく解説しています。
また、人によってはチックの汚言症のように社会的にタブーとされている言葉を無意識に発してしまうという症状も起こります。
僕の場合だと、トラウマ記憶が侵入した際に、顔を急にしかめてしまったり身体を強ばらせたりしていました。
また、「ファ○ク!」や「死○!」など、汚い言葉も口にしていました。
いずれの症状にも共通する点は、「本人の意識が『現在』から離れ、あたかもその場所・その時間にタイムスリップしたように記憶を想起すること」です。
本人の時間感覚が失われているのです。
加えて、その時に感じた感情がそのままの状態で(しばしば当時より増大された状態で)伴います。
これは、脳の「時間管理者」と呼ばれる背外側前頭前皮質が機能停止していることが影響しています。
2.メカニズムについて
さて、次はメカニズムについて見ていきます。
PTSDのフラッシュバックの原因についてはほぼ解明されているのに対し、実はASDのフラッシュバックについてはまだ解明されていません。
そのため、あくまで仮説ベースとはなりますが、様々な文献を読んで知ったことをまとめました。
ASDがフラッシュバックで苦しむ原因については、記憶の入力(インプット)の仕方によって仮説が立てられます。
ASDの記憶の入力の仕方は定型発達の人と異なります。
詳しい説明の前に、まずは右脳と左脳の働きの違いについて説明します。
あまりに有名ですが左右の脳は異なる働きをします。
右脳は知覚や感性を司ります。直感や感情や視覚イメージは右脳によるものです。
一方で、左脳は思考や論理を司ります。言語や分析思考は左脳によるものです。
そして、映像記憶は右脳、そして宣言記憶は左脳によって行われます。
映像記憶とは、ビデオカメラにように頭の中で映像としてイメージされる記憶のことです。
一方で、宣言記憶とは、「○月○日に~へ行った」というように、言葉やイメージで表現できる記憶のことです。
ASDは記憶をする際に右脳を使って記憶することの方が多いのです。
つまり、物事を視覚的に記憶します。
実際に、ASDの中には天才と呼ばれるIQの人たちがいますが、彼らは右脳によって記憶することが多いと言われています。
(「カメラアイ」と呼ばれる特殊な記憶能力を持つ人のなかには、説明書を一目見ただけで一字一句覚えることができる人もいるようです)
そして、視覚によるイメージとしての記憶は、「あたかもその場にいた時のように」感情を伴って思い出されます。
さらに、記憶は思い出せば思い出すほど定着されるという性質を持ちます。
本来は忘れてもいいはずの嫌な記憶も何度もフラッシュバックすることで、より鮮明なものに変わります。
こうして、本人にとって一層ストレスフルな状況が作り出されます。
トラウマ記憶の侵入が日常の全く脈絡のない状況のなかで起こる理由については詳しく解明されていません。
しかし、身体からの感覚入力を司る脳の視床下部や、情動(急激な感情の動き)を司る大脳辺縁系の不具合によるものではないか、と言われています。
3.対策
最後に対策です。
フラッシュバックの対策は色々ありますが、代表的なものをあげていきます。
①ストレスのない状況を作り出す
フラッシュバックが起こりやすいのはストレスが多い状況であるというのは明らかになっています。
そもそもフラッシュバックは、身体が「ここは安全でない」という誤アラートを発することです。
ストレスの多い状況では、必然的にフラッシュバックが起こりやすくなります。
環境を変えたりセルフケアを行なったり、とストレスを減らしていくことが必要です。
僕自身も社会人になりストレスを感じるようになってからフラッシュバックが頻発しました。
あまりに多すぎて、「自分が自分でないような感覚」に陥りました。常に自分の意識が過去にあり続け、地獄のような辛い日々を過ごしていました。
しかし、生活習慣の改善や運動などのセルフケアを行うことで、フラッシュバックが減りました。
本当に大事なのは、「今まさに自分は安全な状況にいる」という感覚を持つことです。
認知を変えて「安全な状況だから大丈夫」と言い聞かせるのではなく、身体に覚え込ませることが必要です。
ここでは詳しく触れませんが、内受容感覚を整えていきましょう。
内受容感覚とは、呼吸・体温・胃腸の動きなど生理的な感覚や内臓の感覚のことを指します。
このような内受容感覚の磨き方は東洋医学が得意としている分野なので、余裕がある方はこの辺りの領域を勉強してみるのが良いです。
「脳による情報より胃腸などの自律神経系からの情報の方が多い」と言われるほど、私たちの言動は脳ではなく内臓の影響が大きいです(ポリヴェーガル理論を参照。)
ちなみに、下記の本には、自分でできる内受容感覚のケアが数多く紹介されていました。(その下の記事はこの本をベースにおすすめのケア8つをまとめました)
②トラウマケアを受ける
PTSD患者のためのトラウマケアがASDのフラッシュバックに役立つこともあるようです。
トラウマケアは種類が豊富なため調べてみてください。
心理士さんのもとで受ける専門的なものから、身体をトントンと叩く「タッピング」のような自分で手軽にできるものまで、幅広く存在します。
僕は「ブレインスポッティング」と呼ばれる眼球運動を応用したケアをメンタルクリニックで受けてから、フラッシュバックが起こらなくなりました。
ブレインスポッティングを受けたときの様子については下記の記事で紹介しています。
③記憶を言語化する
内受容感覚を整えることが身体的アプローチによる「ボトムアップ」的な対策だとすれば、次に紹介する「言語化」は左脳を用いた「トップダウン」によるものです。
トラウマ記憶の言語化とは、右脳によってエピソード記憶として入力された記憶を一度引きずり出し、言語を用いて詳述することで左脳による宣言記憶に変換する行為です。
頻繁にフレッシュバックする辛いトラウマ記憶を思い出し、それをなるべく詳しく紙に書き出していくことです。
その時の感情もなるべく詳細に書き出すと良いです。
これを何度も何度も続けていきましょう。
左脳による記憶に変換されれば、記憶を客観的に見れるようになり、フラッシュバックが減っていきます。
おすすめは、記憶を書き出した紙をくちゃくちゃに丸めた後に破り捨てることです。
儀式的行為により「この記憶は本当は取るにたらないレベル」と潜在意識レベルで思い込ませることで、記憶を思い出さなくなります。
一見くだらないように見えますが、実践してみるとこのような作業が実はとてつもないパワーを持っていることに気づくはずです。
※PTSD患者のように生死に関わるような辛い経験をされた方は自分でこの方法を試さないでください。必ず心理士さんと一緒に、安心できる環境で行うようにしてください。
4.さいごに
今回はASDのフラッシュバック癖について解説しました。
僕は上述のブレインスポッティングを受けて以降、フラッシュバックがピタリとなくなり日常のストレスレベルが大幅に改善しました。
僕の記事ではよく言っているのですが、フラッシュバックに限らず症状や特性を改善するためにはまずそのメカニズムを脳神経科学の観点から学ぶとよいです。
体系的にまとめてくれている書籍はたくさん存在しますし、医学論文もネットで読めます。
元気があれば色々と調べてみることをオススメします。
これからも、皆さんの生きづらさ緩和のためにたくさん情報やノウハウを発信していきます。
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今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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