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生きづらさの正体「発達性トラウマ」と、心身の不調のメカニズムについて解説します

こんな方におすすめの記事です
・とにかく生きづらさを感じる
  (心身の不調,人間関係の困難さ,自責の念など)
・親から適切な養育を受けられなかった
・トラウマのメカニズムについて興味がある


0.はじめに


皆さんは「発達性トラウマ」という言葉を聞いたことがありますか。
普通の「トラウマ」や「PTSD」との違いは何? 「発達障害」との違いは何? といった疑問を感じる方も多いかもしれません。
「発達性トラウマ」は、「発達障害」ほど馴染みのあるワードではありません。
しかし、実は皆さんが感じる生きづらさのベースになっていて、これを学ぶことは生きづらさ解消のヒントになってくれます。

より多くの方に「発達性トラウマ」について知っていただきたく、この記事を書きました。
後半で述べる神経系システムの話はやや専門的で複雑に感じるかもしれません。
しかし、これを理解することパズルのピースがはまるように、点と点が繋がり線になるように、自分の生きづらさの原因が理解できるはずです。
ぜひ、最後までお読みください。



1.発達性トラウマとは


こんな生きづらさを感じたことはありませんか。

・人間関係がうまくいかない
・ちょっとした叱責で立ち直れないくらい塞ぎ込む
・いつもイライラしていて攻撃的である
・いつも抑うつ気分である
・常に、過緊張状態にある
・疲れやすい
・自分に自信がなく常に焦燥感がある
・常に、悲しみや辛さで胸がいっぱいである

これらの原因、実は発達性トラウマかもしれません。

発達性トラウマを学術的に説明すると、「幼少期の慢性的なトラウマによって生じる心身の不具合のこと」となります。
「トラウマ」とは、戦争・災害・事故・事件のような命に関わる出来事のことを指します。一方で、「慢性的なトラウマ」とは、繰り返し辛いことを経験することを指します。
発達性トラウマは、親に繰り返し酷いことを言われる、親に否定され続ける等の、「不適切養育」によって発症します

発達性トラウマによる心身の不具合は、決して幼少期や青年期に限った話ではありません。
子どもの時の慢性的な辛い経験が、成人後もずっと悪影響を及ぼし続けるケースがあるようです。

ちなみに、発達障害との違いについては、「発達障害は先天的なもの(脳の特性など)であるのに対し、発達性トラウマは養育の影響による後天的なもの」と考えるのがよいかもしれません。
どちらも似たような症状を持つため、「『自分の生きづらさは発達障害によるもの』」と考えていたが、実は『幼少期の辛い経験』にあった」、という誤認のケースも多いようです。




2.不適切養育とは


それでは、改めて「不適切養育」について見ていきましょう。
不適切養育とは、「虐待」とは異なります。
親から肉体的な暴力を受けるわけでもなく、親から食事を与えられないネグレクトを受けるわけでもありません。
毎日衣食住を与えられ、毎日ちゃんと学校に通わされていても、不適切養育は起こりうります。

不適切養育の具体例は、

・人の価値を学歴や収入などで判断する親のもとで育つ
・子どもの固有の価値を認めない
・年齢に相応しくない性的な情報を与える
・勉強やスポーツなどを無理強いする
・子どもの根源的な生きる価値を否定する
・兄弟が障害を持っていて本人が十分なケアを与えられない
・親や兄弟の面倒を見させられる(ヤングケアラー)

などです。
これ以外でも、親と子の健全な関係を築けていない場合や子どもが受けるべき適切な養育を受けられていない場合、精神的苦痛を与え続けられる場合などは全て不適切養育に該当します
これらの不適切養育は慢性的なトラウマの要因となります。

ちなみに、不適切養育は「負の連鎖」をすると言われています。
発達性トラウマで苦しむ人の親も同じく不適切養育のもとで育ったり、さらに発達性トラウマを抱えた子が親になった時、さらに子に対して不適切養育を繰り返したり、ということです。
どこかで、トラウマを解放し、連鎖を断ち切らなければなりません。




3.トラウマは身体に刻み込まれる


トラウマは皆さんが考えている以上に厄介です。
それは、トラウマは身体に刻み込まれるからです。

記憶には2種類あると言われています。
「いつどこで何をしたのか」という具体的に言葉で説明できる「宣言記憶」と、言葉ではうまく説明できない「手続記憶」に分かれます
「5歳の時に家族でハワイに旅行に行った」という言語化可能な記憶は宣言記憶です。
一方で、自転車の乗り方のように頭ではなく身体で覚えている記憶が手続記憶です。

自転車の乗り方は言葉で説明しなくても身体で覚えています。
例えば、「サドルにまたがり、次にペダルに足をかけ、…」のように頭で順番に記憶を再現しなくても、サドルにまたがればすぐに自転車に乗ることが出来るでしょう。
また、30年以上自転車に乗っていない人も自転車の乗り方を忘れるわけではありません。
これは自転車の乗り方は、身体で記憶する手続記憶に該当するからです。

そして、幼少期の辛い経験は宣言記憶ではなく手続記憶に該当します
これは身体に張り巡らされた神経系システムの点から説明できます。




4.トラウマのメカニズムと神経系システムについて



①副交感神経系の新たな役割「シャットダウン」とは


ここからやや複雑な神経系システムの話に移ります。
これが理解できるとトラウマ解放、ひいては生きづらさ解消のヒントになります。
 
自律神経系は「交感神経系」と「副交感神経系」の2つに分かれます。
交感神経系は危険が迫った時に素早く逃げたり相手と戦ったりする「アップ系」、副交感神経系はリラックスしたり食べ物を消化したり眠ったりするときに働く「ダウン系」です。
これは教科書でも習うような有名な話ですよね。

しかし、近年、副交感神経系には新たな役割があることが判明しました。
今までよく知られていたリラックスや消化の促進のほかに、副交感神経には危機に瀕した時に脈拍や呼吸を極端に遅くする、「シャットダウン」の作用があることがわかりました。

「凍りつき現象」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
これは酷い精神的・肉体的な危機に瀕した時に身体が硬直してしまう現象です。

この凍りつき現象は人間が生来的に備わっている機能によるものです。
草食動物が肉食動物に襲われたときに身体が硬直する姿をイメージすると良いかもしれません。
この現象は、痛みや感情を感じないようにさせてくれます。また、肉食動物は動かない獲物に対して興味を無くし肉食動物が去っていくため、生き延びる可能性を上げてくれます。
これはヒトも持ち合わせている機能で、かなり原始的なものです。
(身体も動かせないほど重度のうつ病の原因の一部に、この凍りつき現象が関係しているという説もあります)

②哺乳類には独自の副交感神経系システムがある


さらに、ヒトを含む哺乳類の副交感神経系の中には、より進化した副交感神経系があることが判明しました。
これは、「仲間と交わることを促進する迷走神経系」のことです。
声の質を聞き分けたり表情を見分けたりしながら社会的な交流を行うことを可能にしてくれます
いわゆる「空気を読む」という行為も、この副交感神経によってもたらされています

先ほど触れた消化や睡眠のリラックス機能(+シャットダウン)は背側迷走神経系、仲間と交わる「社会交流システム」は腹側迷走神経系に該当します
どちらも副交感神経ですが、ちょうど身体の前方部分と後方部分に分かれて存在しています。

ここで、覚えてほしいのは、進化の順は「背側迷走神経系⇨交感神経系⇨腹側迷走神経系」であることです。
社会交流を促す腹側迷走神経系は、哺乳類独自の新しく進化したシステムです
腹側迷走神経系があるからこそ、私たちは集団生活が可能になり、協力して子孫を残し、生き延びることができました

そして、さらに大事なことは、腹側迷走神経系は、交感神経系と背側迷走神経系のバランスをとる司令塔の役割を果たすということです。
つまり、腹側迷走神経系は「スイッチの役割」を果たしています
腹側迷走神経系によって、「活動的・非活動的」を絶妙なバランスを行ったり来たりすることができます。

危機が迫って攻撃的になったとしても、時間が経てば落ち着いてリラックスすることができます。
逆に、病気になってずっと休んでいて非活動的状態が続いていたとしても、時間が経てば回復し活動再開できるようになります。

腹側迷走神経系によって、私たちは快適に生存することが可能となっています。
これがなければ、交感神経系のスイッチが入りっぱなしで常に興奮している攻撃的な状態にあったり、逆に常に無気力で凍りついていて動けない状態に陥ります
また、この両極端の状態を短いサイクルで行ったり来たりしてしまい、「ちょうど良い」状態が保たれず、疲れて果ててしまいます

③腹側迷走神経系は、保護者からの「適切な養育」によって発達する


交感神経・背側迷走神経系は生まれつき備わっています。
例えば、ミルクが欲しい時やオムツが汚れているときに赤ちゃんは泣いて親に知らせますが、これは交感神経によるものです。
一方で、眠ったりミルクを飲むのは背側迷走神経系によるものです。

腹側迷走神経系は、生まれた時には未熟な状態にあります
「社会交流を促す」と「活動状態のオン/オフのスイッチ」という2つの大事な役割を持つにも関わらず、未発達な状態で私たちは生まれます。

それではどうやって腹側迷走神経系は発達するのでしょうか。
それは、親(保護者)による「適切な養育」が関係します
赤ちゃんが泣いていたらお母さんが要求を満たそうとする、優しい笑顔でにっこり微笑みかける、子守唄で赤ちゃんを鎮めてあげる、これらが適切な養育に該当するものです。

「自分は歓迎されている」「安全である」と感じることが健やかな成長には欠かせません。
こうした感覚を養うことで腹側迷走神経系は健全に発達するのです。

(こうして神経系を安定させていくことを「協働調整」と呼びます)

逆に、幼少期の頃に適切な対応をされないと、腹側迷走神経が育ちません。
「自分はダメな存在だ」「恥ずかしい存在だ」「根源的な価値がない」という感覚が埋め込まれてしまいます

ちなみに、腹側迷走神経系が完全に発達するには25歳までかかると言われています。
赤ちゃんの時だけではなく幼少期や多感な10代の頃に、親(保護者)から適切な養育を受けないで育つと、腹側迷走神経系が発達しないまま大人になってしまいます。

④「生きづらさ」の原因は?


ここまでの説明で、理解がスムーズになったと思います。
皆さんが感じる生きづらさ(疲れやすい、人間関係がうまくいかない)の原因は、「未発達な腹側迷走神経系」が関係していました。

腹側迷走神経系が健全に発達していると、
・カッとなっていきなり喧嘩しないように交感神経系を調整してくれる
・仲間の意図を汲んだり自分の意見を適切に主張できるようになる
・自分は価値のある人間だと思うことができる

逆に、健全に発達していないと
・自分に自信が持てずに恥ずかしい存在だと感じる
・他人とうまくやれない
・親密さやセクシャリティを楽しめない
・健康行動を取れない
・批判されたときに咄嗟に言い返せない
・常に、過緊張状態にある

ということが起こります。
これらは一部であり、症例を出そうとすれば枚挙にいとまがありません。

発達性トラウマを抱えてしまうと、自律神経のバランスが崩れて下記のような健康上のリスクがあります。
偏頭痛・皮膚炎・めまい・耳鳴り・喘息・高血圧・低血圧・過敏性腸症候群・免疫性疾患・婦人系疾患など。
症状に合わせて様々な医療機関を受診する人が、実は根底には「発達性トラウマ」を抱えていた、というケースが少なくないようです。

「攻撃的な人」と「凍りつきやすい人」は全く違った性格のように見えるけど、実は虐待や「不適切養育」によって発達性トラウマを抱えてしまった人に、共通する要因です。
根っこの問題は同じです。
一方で、適切な養育を受けて育った人は、攻撃的でも凍りつきやすいタイプになるわけでもなく、様々な危機や出来事を柔軟に対応できるようになります。

⑤性格ではなく神経が行動を決めている


神経は生き残りをかけて行動を決めています。
私たちはそれぞれの行動を自分で意識して選択していると考えがちですが、実は「神経に選ばされている」と考えるべきです。
そのため、「メンタルが弱い」と自責するのはやめるべきです。
また、自分の性格のせいにするのは諦めるべきです。

このように言えるのは、明確な理由があります。
迷走神経系は 内臓・身体感覚から脳に伝える神経繊維が8割、脳から内臓に伝える神経繊維が2割、と言われています
つまり、内臓の状態が快適であれば、脳は「今、自分は安全な状況にいる」と感じることができます。
脳が理性的に判断して「ここは安全である」と言い聞かせてもその影響はたったの2割です。
一方で、生理学的状態から「ここは危険だ」「相手は自分に悪意を持っている」という信号が8割もあります。




5.トラウマを解放するには


これまで説明したように、不適切養育な影響は「手続き記憶」として身体に刻み込まれ、神経系の状態に悪影響を及ぼし続けます。
心と身体はマイナスな影響を受け続けます。

それでは、大人になってしまった今、トラウマから解放されることは難しいのでしょうか。
生きづらさから逃れることはできないのでしょうか。

答えは、「No」です。
確かに、頭で「もう大丈夫だ」と考えただけでは身体に刻み込まれたトラウマから解放されることは困難です。
しかし、身体に働きかけて神経系に影響を及ぼすことで可能になります
詳しいアプローチ方法については別の記事でお話することにします。

最後に、キーワードである「神経可能性」について触れて終わりにします。
これは近年認められてきた考え方で、可塑性とは「変化する可能性がある」という意味です。
神経はかなり柔軟で、新しい刺激を加えることで神経を組み換えて神経系の働きを変えることができるということです。
脳や神経も筋トレにように鍛えることが出来るのです。
私のnoteを読んでくださってる方にはお馴染みですよね。
つまり、希望は捨ててはいけないということです。




6.おわりに


今回お話した神経系システムの話は、「ポリヴェーガル理論」として提唱された20世紀の終わり頃から提唱された理論からきています。
人間の身体は芸術作品のように複雑にできています。色々な部位が複雑に、絶妙なバランスで絡み合って機能しています。
ポリヴェーガルとは、「複数の(poly)」を意味する「ポリ」と、「迷走神経(vegus)」を意味する「ヴェーガル」から成り立ち、つまり複数の迷走神経を指します。
詳しく知りたい方は、この理論について調べてみてください。


今回の記事は、下記の本をベースにしました。
非常に読みやすく、一気に理解が深まる本です。
トラウマ解放のアプローチについても丁寧に書かれています。
ぜひ、購入してみてください。



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