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【童話】ぽんとペットボトルのお水

子たぬきのぽんは、お母さんと一緒に街の近くの森に住んでいました。

森で木の実や果物を食べて平和に暮らしていましたが、
ある時、食べ物を探していたら、ニンゲンが住む街の近くの原っぱまで来てしまいました。

原っぱと街の境目の道路の硬いコンクリートの上を歩いていると、道に落ちていた、とがったプラスチックの破片をふんづけてしまいました。

足からは血が出てしまって痛くて動けません。

すると、ぽんを見つけたニンゲンが一人、近寄ってきました。
ぽんは怖くて震えていました。なぜならお母さんから、ニンゲンは怖いものだと教わっていたからです。

「どうしたの?怪我をしているの?」

ニンゲンが話してきますが、ぽんは怖くて答えられませんでした。
あたりを見渡してもお母さんの姿はありません。
逃げたくても、足が痛くて動けないのです。
大ピンチでした。

ニンゲンの子供のユータは、道の横でうずくまっている小さなたぬきをかわいそうに思って見ていました。

ケガをしているのでしょうか、動けないようです。
夏の日差しで辺りはすごい熱気です。
助けてあげたいなと思ったユータはリュックを開けて、中から水の入ったペットボトルを取り出して、子たぬきにあげようとしました。

ニンゲンがプラスチックを取り出したのを見て、ぽんはびっくりして、さらに怖くなってしまいました。

その時、近くの草の茂みでガサガサッと音がしました。
草の間から、お母さんの姿が見えました。ニンゲンは驚いてそっちを見ています。

今だ!
ニンゲンが気を取られているすきに、ぽんは、足が痛いのをガマンして走って逃げだしました。

ズキン、ズキン。
ケガをした足が地面につくたびに痛みますが、
ぽんは力を振り絞って、
原っぱを超えて、
なんとかおうちのある森の中へ逃げ込むことができました。

おうちに着いたぽんが休んでいるとお母さんも帰ってきました。

「よくがんばったね」と、心配そうに傷口をなめてくれます。

「ねぇ、お母さん、あのニンゲンが取り出したのは何だったの?」
「あのニンゲンが取り出したのはお水だよ。ぽんに水をくれようとしていたんだ」

「なんで、お水をくれようとしたの?」
「わからないけど、人間は怖い人もいるけど親切な人もいるんだよ。あのニンゲンは、悪い人じゃなかったのかもしれないね」

「じゃあ逃げなくてもよかったの?」
「逃げてきてよかったんだよ」
「なんで?」

「ニンゲンは、良い人でも悪い人のいいなりにならなきゃいけない時があるから。いい人だと思っても簡単に信じて近寄ってはいけないんだ。だから、逃げたほうがよかったんだよ」

「ふーん、よくわからないや」
「ぽんも、大人になったらきっとわかるよ」

お母さんの言うことは難しくてぽんはわかりませんでしたが、いっぱい冒険をして疲れてしまったので、その日はすぐに寝てしまいました。

そのころ、ニンゲンのユータは心配していました。
あの子だぬきは大丈夫だろうか?
あの場所は、たくさんの人間が通るし、車も来るから、
たぬきにとってとても危険なのです。
あのケガであんなに走ってしまったから痛かっただろうな。
無事で家に帰っているといいけど。

それから三日くらいして、ぽんのケガはだいぶ良くなっていました。
すっかり歩けるようになって外に出て遊んでると、
あのニンゲンのことが気になってきて、
彼と出会った原っぱまで行ってみることにしました。

木の陰からそっと原っぱの方を見ると、あのニンゲンがいました。
悪いニンゲンじゃないのかもしれないと思っていたぽんは、勇気を振り絞って、少し近寄ってニンゲンを見てみることにしました。

ユータは、子だぬきの姿を見つけました。
森の陰からひょっこり顔を出すと、
少しだけ近寄ってきて、ジッとこちらを見ています。

ユータは嬉しくなりましたが、でも子だぬきに近寄ろうとはしませんでした。
あの時のように驚かせてしまうと思ったからです。
遠くの方で、子だぬきが歩く姿を見て、
元気になっていることがわかると、ホッとしました。
そして、にっこり笑って手を振って、帰っていきました。

「へんなの。せっかく仲良くなれるって思ったのに、なんで行っちゃうんだろ。ぼくのことキライになっちゃったのかな?」

ぽんは不満に思っていると、ぽんのことが心配で追いかけてきて、近くで見ていたお母さんが言いました。

「あのニンゲンはいい人だよ。坊やを驚かせないように、そっとしておいてくれたんだ。でも、ニンゲンみんながいい人じゃないからニンゲンを見かけても、近寄ってはいけないよ。ほら、もうここには来ちゃいけない。森へ帰ろう。」

次の日、お母さんが食べ物を探しに原っぱにを通ると紙でできたお皿に入ったお水と、野菜が置いてありました。

きっと昨日のにんげんがくれたのだと思って、心の中でお礼を言いましたが、子だぬきにはそれを言いませんでした。

そして、大事そうにそれらをおうちに持って帰り、
「今日はごちそうだよ。」と言って、子だぬきと分け合って食べました。


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