琳琅 第三号より、「棚の間」武村賢親
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クリニックを出て西口公園の方へと歩みを進めながら、私は榎田さんの言うところの心的ダメージについて考えてみた。たまにPTSDという単語をテレビのワイドショーなどで目にしたりするが、要はそういうことなのだろう。路子の場合、まず母親の件があり、更生施設でのショック体験があり、今回の再発がある。かつての状態に戻れば、待っているのは路子が絶望した施設へ戻る道だ。きっと彼女は嫌がるだろうから、なるべくそうならないように努力はするだろう。そのために私ができることはなんでもする心づもりではあるが、榎田さんの言うところの、私にもダメージがあるというのは、結局のところどういったダメージなのだろうか。
胸ポケットに入れてあるスマートフォンが震えた。引っ張り出して画面を確認すると路子からメッセージが届いている。アプリケーションを展開して内容を確認すると、昨晩路子が言っていた、「すり替え」とやらに必要なアイテムの買い出し指示が書かれていた。
踵を返して、東口にあったはずの激安の殿堂へと爪先を向ける。あまり気の進まない内容だったが、背に腹は代えられない。路子のためにできることは、なんでもやろうという心づもりなのだ。
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