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【短編】“なるほど”

 自ら命を絶つ時、私は一言“なるほど”って思った。
 小さい頃はあんなにも死ぬのが怖くて、死んでしまったらどうなってしまうんだろうって、魂はどこへ行ってしまうんだろうって、怖くて仕方がなかった。
 アニメを観るにも、漫画を読むにも、何に触れても凄く楽しかった。SNSを始めて、自分の呟きがいいねされた時の喜び、その数が増えた時、その内何のきっかけか、ニュースにも取り上げられるような存在になれた。
 多くの者から評価されるのがとても嬉しかった。幸せだった。
 けれども、その内──二十代後半からだろうか? なんというか、新鮮さがどれもなくなってしまったのだ。このぐらいの年齢だ、恋愛の一つや二つもした。幸せだったし、嫉妬もしたし、悔しかったし、辛くて辛くて仕方がなかった。
 誰かが恋愛に病んだ時、自ら命を絶とうとした時、周りからそれは止められる。まだ若いのに、これからなのに、もっと楽しいことがある。私も数年前までは、その考えだった。なんで若いのに、命を絶ったんだろうと。
 生きていれば、楽しいことはある。その通りにしようと、昔のようにアニメを観たり、漫画を読んだりした。楽しいかもしれないな、面白いかもしれないなとは感じたが、途中で見るのをやめていた。
 集中力が続かない、何に対しても生き甲斐を感じない。多くの者から評価される。多くの者から好きだと言われる。それでも何も感じなくなっていた。
 あの頃のような嬉しさと幸せはどこへ行ったんだろうか、何も感じなくなっていた。
 人生に満足したのだろうと思う。命を絶つ時、“なるほど”と思った。

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