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プロ翻訳者が考える、翻訳キャリアにとっていつだって大事なこと

 AI翻訳との関係については以前に投稿しました。

 では、AI翻訳の品質を管理できる翻訳者となるにはどうしたらよいのでしょうか。言語や分野の知識の習得のほか、新しい技術の情報を得たり、人脈を得たりするためのネットワーク作りが必要となってきます。単なる言語の置き換えではない仕事をし、新しいツールを活用したり、日々切磋琢磨できるような同志を得るためです。この記事を読めば、AI翻訳が台頭してきても自分の軸がぶれないような指針を得ることができます。



📚翻訳者のキャリアについて


 翻訳者には、企業等の組織の一員として社内外の文書を訳す社内翻訳者と、特定の組織には属さないフリーランス翻訳者がいます。そして、大きく分けて、出版翻訳と実務翻訳という分類がありますが、この記事は実務翻訳に焦点を当てています。

 いずれにしても、たとえチームで翻訳を行う場合であっても、仕事自体はもくもくとひとりで進める部分がとても大きい仕事です。

📚翻訳者の悩み


 ひとりで作業をしていると、自分がどの方向に向かっているか、あるいはどこへ向かうべきなのか、見えづらくなることがあります。フリーランスであれば、単価を向上できるか否か、受注案件が増加したか否かなどという指標もあるでしょうが、日々目に見えて自分の能力向上が明らかになるというものでもないと思います。

 他方、AI翻訳の台頭などにより、人間の翻訳者の役割は、高度な語学力、分野を広く深く理解する知識・経験の方に比重が移っていくでしょう。

 そのようななか、翻訳者としてどうしたらよいのかを考えてみます。

📚悩みの解決方法


 第一に、どこまでいっても言語力です。ソース言語とターゲット言語両方の力が重要です。日英、英日なら日本語、英語、どちらの言語力も磨くことが大事です。

 上級者用の英語の文法書をくまなく読みこむほか、コロケーション辞典、国語辞典、英英辞典、類語辞典などを面倒くさがらずにひく、そして自分で訳出した表現については、それが一般的に(ときには業界内で)使用されているか否かをネットで検索する、ということが非常に重要です。実際に行ってみると相当時間がかかりますが、面倒がらずに、ひとつひとつ積み重ねていくことで実力はついていきます。

 第二は、取り扱い分野の勉強です。網羅的な勉強も大事ですが、翻訳をリクエストされた文書について、ネットであっても、可能な限り、ソース言語とターゲット言語の一次資料にあたることです。一次資料でないと、脚色があったり、正確性を保証できませんので、「一次」というのはとても重要です。

 第三として、翻訳業界でのネットワーク作りです。友人、知人の範囲でのネットワークもよいですが、できれば翻訳関係の連盟や協会に入って、最新の情報を得るのがおすすめです。団体によっては、さまざまなイベントも開催されており、最新の翻訳支援ツールをはじめとするテクノロジーや業界の状況をめぐる情報を入手することができます。そこで人と知り合えれば、さらに知識も増えるはずです。

📚言語力、業界知識、トレンド把握が大事な理由


 翻訳という仕事に何十年も携わっていますが、最後はやはり言語力だと実感しています。母語でもそうであるように、ことばは、行間が読み取れない限り正確な理解には遠く及びません。よく、母語に訳出するのは簡単に思われがちですが、それは誤解です。ソース言語の読み込みがきちんとできなければ訳出など到底無理なのです。そのためには、各用語の意味、構文構成、段落間の構成関係を把握できるだけの言語能力が必要です。

 そして、業界特有の用語や表現についても理解していなければ、原文を正しく理解することはできません。翻訳者の場合、文書が出てきた関係業界で働いているわけではないことの方が多いかもしれませんが、業界の会社のHPを見たり、リクエスターを辿って質問したりすることが必須になってきます。

 また、最近は技術革新のスピードがますます速くなっていますので、競合に負けないためには、いち早く業界のトレンドを掴み、新しいツールに慣れていくことも大事です。広く翻訳者と普段から交流することにより、そのようなトレンドも自ずと自分のアンテナに引っかかってくるでしょう。

📚AI翻訳台頭の時代でも大事なことは変わらない


 これからの翻訳者へのキャリアについて考えると、実は、「やるべきこと」の内容は、これまでと大きく変わらないのです。

 ただ、技術革新のスピードはとても速いので、そこに常に注意を払っておくことはとても大事です。業界のトレンドに常に目を向けていられるような環境に身を置くのがよさそうです。

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