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機械翻訳の手直しはゼロからの人力翻訳よりコストがかかる


📚機械翻訳は今ココ!

機械翻訳、マシントランスレーション(machine translation、MT)には、古いものから順に、ルールベース機械翻訳、統計的機械翻訳、ニューラル機械翻訳の3種類があります。最初のふたつは、人の手による翻訳には到底及ばないものでした。ところが、ニューラル機械翻訳の登場により、一見すると人が訳したかのように自然な訳出が可能になりました。

結果的に、短時間でコストをかけずに大量の翻訳をアウトプットすることができるようになったのです。そして、その結果を人間がレビューし、修正する「ポストエディット」という仕事も増えています。

📚人が一から翻訳する場合のプロセス

では、人の手による翻訳はどのようにアウトプットされるのでしょうか。

まず原文の読み込みから始めます。これは、文字だけを追うのではなく、どのような文脈で書かれているか、できるだけ一次資料に当たって内容を理解していきます。

英訳・和訳いずれの場合も、英日両言語で、業界や分野のコンテクストに照らして違和感がないよう、当該業界・分野で通常使われる用語、表現をリサーチして探していく、裏を取る作業です。

翻訳においては、このリサーチをして、裏を取る作業が、全体の8割~9割を占めます。

また、ターゲット言語でアウトプットした後は、表現として正しいかどうか、前後の文脈に照らして適切かどうか、国語辞書、英英辞書、類語辞書、行政のHPなどを参照してチェックしていきます。

*和訳(英語から日本語)の場合、英語をソース言語、日本語をターゲット言語と呼びます。英訳であれば、その逆で、日本語がソース言語、英語がターゲット言語となります。

📚人間は機械翻訳にどう介入するのか

さて、機械翻訳と、一から人の手による翻訳は、何が違うのでしょうか。

答えは「裏を取っているか否か、正しさが担保されているかどうか」です。

つまり、機械翻訳の場合、それらしい翻訳結果が得られるけれども、それが正しいかどうかをチェックする機能が存在しないのです。

だからこそポストエディットが必要なのですが、この作業、単にターゲット言語の「てにをは」だけチェックしていると思われがちです。人が一からする翻訳よりも簡単だというのが大方の認識のようで、一般的に単価が低くなる傾向があります。

しかしながら、翻訳者が、翻訳成果物として、その正確さを証明できるレベルにして納品しようとすれば、実は、一から翻訳するよりも、機械翻訳結果をもとにポストエディットをする方が作業工程が多くなります


なぜでしょうか

・まず、既にある翻訳(機械によるもの)の裏を取らなければいけないのは、一からの翻訳と何ら変わりはない。

・裏を取る作業をして「これだ!」という表現が出てきても、機械による「もとの訳」がある以上、できるだけそれを使用することが求められるため、翻訳者は、自分のリサーチ結果と機械翻訳の結果とをすり合わせなければならない。

これって、一からする翻訳よりもかなり工程が多いですし、気が遠くなるほど複雑です。それなのに、リクエスターからは簡単な仕事だと思われて報酬が低くなりがちという現状、納得できる翻訳者はいるのでしょうか。

もちろん、単に外国語で書かれている内容の概要を知りたいとき、何か特定の内容が含まれていないか調べるときなどは、機械翻訳を使ったらよいのです。むしろ機械翻訳の方が、はやいですし、コストもかかりません。

実際、そのように機械翻訳を使っている翻訳者はかなりの数いるはずです。

問題は、翻訳の正確性を保証しなければならないケースに対して、機械翻訳を用いて納期を短くしたり、コストを下げようとしたりすることです。

それでは翻訳業界に幸せな未来が見出せません。

機械で翻訳してそのままで良い場合は、役立ちます。むしろ使った方がよいです。ただし、機械翻訳の後始末は翻訳者に被らせてコストを下げようというのは、全くサステナブルではありません

昨今の機械翻訳をめぐる事情に対する考察です。また別の記事で続きを書いていきます。




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