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目指すはW杯決勝の地!親子三代旅物語|『バック・トゥ・マラカナン』≪6/17-23開催!ヨコハマ・フットボール映画祭2023≫

親に連れられて初めてスタンドから見た緑のピッチ、家族と共に喜びを分かち合ったあのゴール、悔しさと絶望を味わったあの試合 etc…
親子三代でワールドカップを旅する家族の姿を描く『バック・トゥ・マラカナン』を観て、私の中にあるそれぞれの瞬間の物語が一気に呼び起こされました。

ヨコハマ・フットボール映画祭公式noteマガジン、第85回となる今回は、スタッフ加藤がYFFF2023で上映する『バック・トゥ・マラカナン』の見どころや、皆さんにより作品を分かりやすく見ていただくために作品の背景を紹介します。

【ストーリー】
事業は失敗、妻に逃げられ、踏んだり蹴ったりのロベルトは40歳。余命宣告を受けた父サミュエル、サッカーに全く興味がない無気力息子イタイ。イスラエルに住むブラジル人移民の3人が海を越えて向かうは…ブラジルW杯!
決勝の地、マラカナンを目指して、キャンピングカーでブラジル中を駆け巡るドタバタ旅の行方はいかに!?

映画のキーとなる”マラカナンの悲劇”とは?

ブラジル中を深い悲しみに包んだマラカナンの悲劇がこの映画のキーとなっています。
マラカナンの悲劇とは、1950年に自国開催となったW杯でブラジル代表が優勝を逃した出来事のことを指します。

第二次世界大戦後初のW杯となったこの大会は、1次リーグを突破した4チームによる決勝リーグの首位が優勝という方式でした。
決勝リーグの最初の2試合でスウェーデン・スペインを大差で下していたブラジルは、引き分け以上で初優勝という状況でウルグアイとの最終戦を迎えます。

マラカナンスタジアムに集まった17万人もの大観衆の声援を背にブラジル代表は後半開始早々に先制点を奪い、そのままブラジルの優勝が決まるかと思われていました。しかし、66分・79分の失点で逆転を許し、ジュール・リメ杯はウルグアイの手に渡りました。
試合後のマラカナンでは、ショックからその場で命を落とした人や自ら命を絶つ人が出るほど、この敗戦はまさに多くのブラジル国民が悲しみに打ちひしがれる出来事だったのです。

本作の舞台となる2014年のW杯では、まさにブラジル代表はこの悲劇を乗り越え、決勝戦の地であるマラカナンでトロフィーを掲げることが期待されていました。
また、サミュエルは12歳でマラカナンの悲劇を体験しており、彼の家族に関わる大きな出来事となっています。

ブラジルvsウルグアイのハイライトはこちら

ブラジルにおけるサッカーの身近さ

『バック・トゥ・マラカナン』では、”サッカー王国”ブラジルにおける日常生活とサッカーの身近さを感じることができます。

ブラジルに到着後、サッカーには興味がないイタイに対しサミュエルとロベルトは、マラカナンの悲劇をしっかりと理解してもらおうと説明をするシーンがあります。また、イタイとサミュエルが過去のW杯の名シーンを街頭モニターで見ている所に遭遇すると、ロベルトはペレやガリンシャといったサミュエルが見ていた名選手の話をしたのか聞いています。
ロベルトの年齢的に、ガリンシャが活躍していた頃だけではなくペレにとって最後のW杯となった70年大会は生まれていないので、恐らくこうした往年の名選手たちのことはサミュエルから伝えられてきたのでしょう。

そしてサミュエルは、父親の墓前で今大会のブラジル代表への期待を伝えながら、息子と孫には「(自分が墓に入ったら)同じように4年ごと必ずブラジル代表がW杯で優勝したかどうか報告しろ。負けた時はスコアを言え」と話します。

こうしたシーンから、当たり前に家族の会話の中でサッカーの話題があり、サッカーの歴史を親から子、子から孫へと語り継ぐといったようにブラジルではサッカーと生活が本当に密着しているのだなと改めて実感しました。

イスラエルとブラジルはどのように繋がっている?

ストーリーにある「イスラエルに住むブラジル人移民」という言葉を見た時、この2カ国がどのように繋がっているのかイメージがつかなかった方が多いのではないでしょうか?
作中ではこの家族がブラジルからイスラエルにいつ・どのように移民したという描写はありませんが、ブラジルで生を受けたサミュエルが母親や姉を残してブラジルを離れたということは再会したサミュエルの姉が口にしています。

現在、イスラエルの人口の約74%を占める民族がユダヤ人です。第二次大戦中、ナチス・ドイツによりホロコーストが行われ、ブラジルをはじめとした南米諸国はユダヤ人の難民を多く受け入れていました。
第二次大戦後の1948年5月14日にユダヤ人国家「イスラエル」として独立し、50年にはユダヤ人であればイスラエルに定住してイスラエルの市民になることができる「帰還法」という法律が制定されます。

一方ブラジルでは、1964年に軍事独裁体制が確立された後に高度経済成長を見せたものの、成長が止まった後は経済格差が広がったことに加えて、軍事政権による人権侵害が問題視されていました。

あくまで推測の域にはなってしまいますが、ユダヤ人であるサミュエルの祖先がブラジルに身を置き、どこかのタイミングでサミュエルが帰還法を使ってイスラエルに移ったということが考えられます。

作品を通して感じたこと

ここで少し私自身のことを書かせてください。
『バック・トゥ・マラカナン』を観て真っ先に浮かんだのは、ブラジルW杯が開催された2014年にこの世を去った祖父の顔でした。

私の祖父は戦後の混乱期の中、静岡工業高校(現:静岡科学技術高校)にサッカー部を立ち上げてプレーをした後、コーチやOB会の会長を務めるなど長年に渡りサッカー部に関わってきました。
そんな祖父が立ち上げた静岡工業サッカー部は、後に日本代表に選出される吉田弘さんや石神良訓さんを擁し、関西での最後の開催となった1976年の第54回高校選手権で初出場ながら準優勝を果たします。

また、準決勝で下した広島工業高校には金田喜稔さんや木村和司さん、決勝で対戦した浦和南高校には田嶋幸三さんといったように、静岡工業が対戦したチームにはその後の日本サッカー界を牽引する選手たちが多くいました。
YFFFの取材で金田さんにお会いした際に祖父と静岡工業の話をすると、「あの時の静岡工業は本当に強かった」と言っていただきました。その言葉は自分のことのように嬉しく、祖父の墓前で真っ先に伝えました。

この映画の中でのイタイとサミュエルのやり取りを見ていると、祖父と一緒にスタジアム出かけたことや、祖父からサッカーの昔話を聞かされたことを思い出します。
(特に選手権決勝でゴールを決められた田嶋さんの名前は何度も祖父から聞いた記憶があります)

そして、「もっと色々なことを聞いておけば良かった」「一緒にサッカーをめぐる旅をしたかったな」といったように祖父に想いを馳せながら、私にとって自慢の祖父であるということを再認識するきっかけになりました。

最後に

『バック・トゥ・マラカナン』は、その国独特のサッカー文化を知れるだけではなく、作品の背景から国や民族の歴史に目を向けることができるまさにYFFFらしい上映作品であると感じています。
そして何より、サミュエル・ロベルト・イタイの3人の旅は家族との絆の大切さを再認識できる素敵な作品です。

日本初公開となるYFFF2023での上映で是非お楽しみください!


6月18日(日)のかなっくホールでの上映後は、お笑いコンビ カカロニのすがやさんをお招きしたトークショーを実施します。

カカとロナウジーニョ(ロニー)からコンビ名をつけるほどサッカー好きのすがやさんは、ブラジル大会・ロシア大会・カタール大会と3大会連続でW杯を現地観戦しています。
特にロシア大会では、グループステージの日本vsセネガルでスタンドに飛んできたボールをヘディングしたシーンが中継に映ったことでバズったという経験も持っています。

トークショーではW杯を現地観戦をすることの楽しさや、現地で起きたトラブルなどを話してもらう予定です!

カカロニ すがや

<上映スケジュール>
バック・トゥ・マラカナン
●かなっくホール
・6/17(土) 13:50-16:00
ゲスト:カカロニすがや(お笑い芸人)
●シネマ・ジャック&ベティ
・6/20(火) 20:00-

チケット購入はこちら☟

6月18日(日)

6月20日(火) 追っかけ上映

ヨコハマ・フットボール映画祭2023 HP☟

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