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‘すぺしゃる’の向こう側 (22) 夕焼け

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

22)夕焼け
りゅうと飛んでいると、大きい湖が見えた。今日は、晴れていて、湖が、太陽の光で、きらきらしていて、とてもきれいだった。りゅうと、湖の近くに降りてみた。湖には、長いさん橋がつきだしていた。ぼくは、さん橋の上を、歩いた。風がまったくないから、湖が鏡みたいに、青い空と白い雲を写していた。さん橋を歩いていると、まるで、空の上を歩いているみたいだった。りゅうと空を飛ぶのは慣れているけど、それとは、違う。風も顔にあたらないし、びゅんびゅん、音も耳に入ってこない。ただただ、ぼくの足元で、さん橋の古い木の板が、ぎしぎし、小さい音をたてているだけだった。しずかだった。

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さん橋からもどると、ぼくは、りゅうと、草の上に座って、ずっと、湖を見ていた。ときどき、小さい魚がはねて、水のわっかができた。大きな水鳥が泳いでいて、水の上に、すいすい泳いだ後の線が、ふんわり、なんじゅうにもできて、飛行機雲のしっぽみたいだった。太陽がぼくたちの上にあって、ぽかぽか温かくて、りゅうとぼくは、ずっと、何もしないで、座っていた。

だんだん太陽が低くなっていって、大きく、オレンジ色になってきて、湖のむこうに、しずんでいった。ちょっと寒くなったから、りゅうとぼくは、くっつきながら、空を見た。空は、だんだん、赤くなって、太陽がしずんで、ちょっとしたら、雲が、すごくすごく赤くなって、とっても、きれいだった。湖も、空と一緒に、赤くなった。ぼくは、ずっと何も考えずに、お昼から、ただ、きれいだなーと、ぼーっとすわっていたけれど、空の雲がどんどん赤からグレーになってきたとき、寒さに、ぶるっと身震いをして、ふと、おなかすいたなと、思った。

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とりあえず、木をひろって集めて、りゅうに、火をつけてもらった。リュックから、ママのメイプルクッキーを二枚だして、りゅうと、一枚ずつ、たべた。水筒の水をのんだ。ママ、どうしてるかな。すごく、ママに会いたくなった。万げきょうを出して、見てみた。万げきょうの向こうは真っ暗で、あまり、見えなかった。なんだか、泣きそうになった。

でも、ぼく、まだ、きらきらをたくさん、集めていないから、まだ、帰れないよ。

ぼくは、目をぐっと大きくして、たきぎの炎を見た。じっと、ずっとずっと見た。炎は、赤くて、オレンジで、明るくて、よく見ると、ちょっと青くて、きれいだった。時々、しずかな夜のなかで、たきぎが、バチっと音をたてた。ぼくは、頭をからっぽにして、ずっと、ずっと、炎を見た。

どれくらいたっただろう。突然、頭の上が、ぽーっと明るくなった。あれ?と思って、上を見た。そしたら、頭の上に、黄色く白く光る星が、頭のちょっと上にいた。
「え、なんで?」
と思ったけど、頭のてっぺんが、ほんわか、あたたかくて、気持ちよくて、
「まあ、いいか。」
と思った。

ぼくは、目を閉じて、息を深く、吸った。温かい。ふと、前に、お兄ちゃんの勉強机の上のランプに、頭を近づけたときのことを思い出した。あの時もすごく温かくて、気持ちよくて、もっと温かくなるように、ランプに頭を近づけたら、焦げ臭いにおいがして、髪の毛がちょっと焦げた。お兄ちゃんに、
「おまえは、ばかか。」
と、笑われた。お母さんに怒られた。それを思い出して、あわてて、星を見て、頭を動かした。すると、星は、手を一個分ぐらい、頭の上を、ぼくの動きに合わせて、ゆらゆらと動いた。周りのにおいをかいでみたけど、焦げ臭くなかった。頭にそっと手をおいたみた。温かいけど、熱くはなかった。ぼくは、ほっとした。星は、ちょっとだけ光っていて、ぼくの周りは、ちょっとぼーっと明るくなった。

ぼくは、なんだか、うれしくて、しばらく、そのまま坐って、また炎を見た。お星さまで、頭がほーっと温かくて、顔は、たきぎの炎で、てかてか、ぱきぱき感じるほどに熱くて、背中は、りゅうがすりよせてきた体で、温かかった。ぼくは、いい気持ちで、そのまま、りゅうにもたれかかって、寝てしまった。

朝起きると、星は、もういなかった。朝だからなと、納得したけれど、ちょっと淋しい気もした。朝の湖も、太陽にきらきらして、きれいだった。大きく深呼吸したら、ひんやりとしめった朝の空気が、鼻から入ってきて、気持ちよかった。朝から、また、ビスケットを食べて、
「さあ、こんどこそ、ぼくは、きらきらを集めるぞ。」
と、はりきって、りゅうにまたがり、よく晴れたさわやかな空に、飛び立った。

つづく…

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