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‘すぺしゃる’の向こう側 (6)

愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。

6)新しい町
目が覚めたら、朝になっていた。どこか、わからないけれど、山の上の、少しひらけた原っぱだった。りゅうは、ぼくの横で、寝ころがって、ぼくを見ていた。
「おはよう。」
りゅうに、声をかけると、
「きゅるるる。」
りゅうは、うれしそうに、答えた。ぼくは、おなかがすいたなと思って、リュックをあけて、ママの作ったメイプルクッキーを2つ出して、りゅうと、1つずつ、食べた。水筒の水も、二人で、一杯ずつ、飲んだ。

遠くに、たくさんの家がある町が、見えた。とても高いオレンジ色の塔も、あった。太陽があたって、塔は、きらきらしていた。なんだか、わくわくしてきたから、とりあえず、その町に行ってみることにした。

リュックを背負って、町を指さして、
「あの町に行こう!」
と言ったら、りゅうが、にっこり笑って、羽を広げて、座ってくれた。ぼくは、りゅうに、乗った。りゅうは、えいっと足をふんばって、ジャンプした。はねが、ばたばた動いて、ぼくの顔に、強い風があたって、ぼくは、思わず、目を閉じて、りゅうをつかむ腕に、力をいれた。

空の上の旅は、快適だった。心地いい風が、ぼくのほっぺと、髪を、なでていった。ぼくたちの下で、山の木や、湖が、どんどん後ろに、流れていく。目の前を見ると、白いふわふわした雲が、どんどん近づいてきて、目の前がまっ白の中になって、それからすぐ、雲は、後ろに流れていった。まっ白になったときの、ひんやり感が、なんともいえず、気持ちよかった。

そうして、ぼくたちは、町のはずれの大きな水くみ場におりた。りゅうは、水くみ場の泉で、水をごくごくと、飲んだ。
「ありがとうね。のど、かわいたよね。」
ぼくは、りゅうを、なでた。りゅうは、目を細めて、にっこりして、うれしそうだった。ぼくも、少し、水を飲んだ。冷たくて、おいしかった。

それから、ぼくたちは、水のみ場から、町のほうへ、歩いていった。れんがの家がたくさんつらなって、とても、きれいな町だ。オレンジ色や黄色、茶色のれんがの家。歩いている人も、髪がオレンジや黄色、茶色。ぼくのいる町とは違う。「遠くの町に、来たんだな。」と、思った。

みんなは、ぼくが連れているりゅうを、見ていたけれど、怖がったり、じろじろ見たりはしなかった。ときどき、「かわいい。」とつぶやく声が聞こえて、りゅうは、ごきげんだった。よく見ると、町のあちこちにいる動物は、ぼくが見たことのない、変わった動物だった。でも、どれも、なんとなく、かわいい、やさしいかんじの動物だ。人と一緒にいるから、ペットなのかな。

ほどなく歩くと、道の両がわに、お店がいっぱいある通りに出た。人がいっぱいいた。おいしそうな果物や、野菜。おかしもあった。でも、どれも、ぼくの知っている食べ物とは、少し、違う形と色をしていた。ちょっと食べてみたい気がしたけれど、お金をもってくれるのを忘れたことを、思い出した。ぼくの部屋のピンクのぶたの貯金箱を持ってきたら、よかったのに。

でも、よく見ると、まわりの人が買い物するときに使っているお金も、ぼくの知っているお金と違っていた。
「ぶたの貯金箱も、だめじゃん。」
ぼくは、心の中で、つぶやいた。ふと、りゅうを見ると、干し草を束にして売っているお店の前で、じっと干し草を見ていた。すごく熱いまなざしで、じっと、見つめていた。
「おいしそうだよね。ごめんね。ぼく、お金がないから、買ってあげられないんだ。」

すると、後ろから、声がした。
「それなら、仕事、させてあげようか。」
びっくりして、振り向くと、おにいちゃんぐらいの年の、背の高い少年が、りんごみたいな果物がたくさん入った、大きな袋を持って、立っていた。ぼくが、何も言えずに立っていると、その少年は、
「おれ、フォンダ。ついてきな。」
ぼくの答えを待たず、フォンダは、どんどん、歩いていった。ぼくは、考えるひまもなく、「ついていかなくちゃ。」と思って、必死に、フォンダに、ついていった。りゅうは、不思議そうに首をかしげて、でも、ぼくの後をついてきた。

つづく…

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