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勝てないなぁ、と思うひと

自分の性格を自分で操れる人って、すごいと思う。

前の部署に、自称ピエロがいた。
入社して数回目の春、私は異動となり彼と同じ部署となった。
同期入社とはいえ、私にとって顔と名前の一致が際どいレベルだったその彼は
すれ違いざまに「新しい部署、どう?慣れた?」と話しかけてきた。
正直なところ、「この人、ほぼ初対面の私に気軽に話しかけるなんて、すごい度胸だな」と思った。

それはもちろん、気安く話しかけるな、という意味ではない。

もしかするとあなたが話しかけてくれた私は
めちゃくちゃ性格の悪いやつかもしれないし
めちゃくちゃ根暗かもしれないし
めちゃくちゃコミュ障かもしれないし
はたまた、とてもネアカのパリピかもしれない。

どんなタイプか、話しかけた答えがなんて返ってくるかもわからない相手に、自分の常のテンションが通じるかどうか、
多くの人は探り探り、だと思うのだ。

少なくとも私は、知り合ったばかりの人に対して自分の素を出すことに、結構ためらってしまう。
それがどうだ。この人は、相手のテンションに関わらず、自分の常でぶち当たっていくではないか。

このひと、すごいな~

それが、最初の印象だった。


それから時は経ち、そこそこ仲良くなってから彼は自分のことを「会社ではピエロだからね~」と言っていた。

またしても私は「すごい」と思ってしまった。

彼はある種、キャバ嬢やホスト、芸能人のように、自らピエロ(特定のキャラクター)になりきって、職場でそれを演じている。
(通常時があまりにおふざけモードなので、外部の人と真面目に仕事の会話をしている姿を見たときに、「この人、普通に喋れるんだ…」と驚いた記憶すらある)

前述した、職業として「キャラクター性」が求められる人はさておき、一般人会社員の彼は
「自分の感情を押し殺してまで、どうしてピエロになるのか」が私にはとても不思議だった。
しかし、彼の意見は意外なものだった。

「自分がピエロ役になることで、自分の発言に周りが踊らされるでしょ?だからいいんだよ。」

……。このひと、サイコパス……。

もちろん彼は、ピエロのルールを守って、人を不幸にするような発言はしない。
その場が盛り上がったり、ものごとを円滑に進めるためのピエロ役に徹するのだ。
時に私があまりよく思っていない人のことも上手に煽ててくれるので、私はとても助かっていた。

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ところで煽てる、と煽る、は同じ漢字を使うんですね。
これは私の推測ですが、言語的にも煽てることは煽ることも同然なのでしょう。
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純粋な尊敬の念は、数年を経て畏怖の念に変わったが、それでも私ができないことを彼はできるし、そのキャラクターで場を和ませることもできる。

キャラクターを利用して周りを巻き込むこともできるし、
普通に伝えると角が立つようなことも
ズバッと伝えたのちに、場の空気を取り戻す術を持っている。

どちらかと言えば真面目でカタブツの私は、彼に羨ましさを感じた数年間だった。
はて、私の強みはなんなのだろうか。私のニンゲンテキミリョクは、果たしてどこにあるのだろうか。

私の探索は、まだ道半ばだ。

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