18人目の探偵、死亡推定時刻不明:1852文字

ついに18人目の探偵が殺害された。
いかにもな格好をした探偵は死体をマジマジと観ている。
アロハシャツを着た探偵は頭を掻きながらブツブツとトリックを模索している。
年老いた探偵は着物の袖に両腕を通して、うつらうつらとしている。
そして一般的な学生の僕はもう見慣れた死体には目を向けなかった。

6日前に孤島にポツンと佇むこの洋館は大きな密室化した。
そしてその晩初めて宿泊者の一人が死んだ。
被害者の財布に入っていた名刺から探偵である事が分かった。
そしてその名刺の裏には
「探偵でないものはここには要らない。」
真っ赤な字で書かれていた。
何分かの沈黙の後、誰からでもなく次々と自称探偵が現れた。
その数20人
宿泊客の中で僕以外が全員探偵であると白状したのだ。
しかし洋館に探偵が20人も一斉に泊まりに来る事などあり得ない。
初日の食事会でこの洋館は普通に予約制である事が分かっていたし。
そこからはもう圧巻だった。
金持ち探偵。盲目探偵。超能力探偵。カップル探偵。感覚探偵。元シリアルキラー探偵。チャラ男探偵。神のお導き探偵。工作探偵。物の気持ちわかる探偵。動物の声聞こえる探偵。2丁目探偵。サラリーマン探偵。風と仲良し探偵。レモンティー探偵。坊主探偵。ごま油探偵。
がトントン拍子で殺されていった。
18人の探偵殺害が僅か6日で行われたのだ。
途中で唯一探偵と名乗らなかった僕が疑われ拘束された事もあったが、普通に犠牲者が出た為すぐに解放された。
そして18人目の探偵殺害時点で残されたのがジジイ探偵。いかにも探偵。アロハ探偵。そして僕である。
もうここまでで犯人が見つかって無い時点で最初の犠牲者が万が一本物の探偵で無い限り、宿泊客は全員探偵では無いのだろう。
もし本物が今残っていたとしても18人もの犠牲者を出しているから無能すぎるだろ。

思い沈黙に耐えかねたのかアロハが口火をきった。
「本当の犯人は存在しないんじゃね?」
僕といかにも探偵がギョロッとアロハを見た。
ジジイはうつらうつら。
「これは1人の犯行じゃなくて犯人が18人居るわけよ。多分18人それぞれの事情があって殺してたから結果的に殺人鬼がいる様に思えたわけ。」
アロハの意見は見た目とは違って筋が通っていた。
いかにも探偵は死体を触るでもなく手を添えて
「なるほど。確かにごま油探偵だけは唯一自殺と推察出来る首吊りで亡くなっている。17人目の坊主探偵を殺した自責の念で自ら命を絶ったと考えれば妥当な線だ。」
さも正解を導き出した口ぶりで話すいかにも探偵の目はあからさまに宙を泳いでいる。
アロハはあっけらかんとしながら
「そう!だからこの場には善人しかいないって事よ。」
推理、結論共に良かったが沈黙がそれに覆いかぶさった。
気が持たなかったアロハは、そういうことで、と一言告げて現場から飛び出す様に自室に帰っていった。

残された空間でいかにも探偵が重そうに口を開く。
「私はこの事件は18人の自殺だと思うのだ。」
あからさまにアロハに刺激された推理が飛んできた。
「私たちの知らぬところで18人自殺オフ会みたいなのが開かれていて、その場所がたまたまここだった…みたいなな。うん。そういう感じだと推理するよ。そう。本当に。私は部屋に戻る。」
無い石ころを蹴り続けるように俯き徐々に声が小さくなっていた。
最後の部屋に戻るという言葉はこの無音の部屋でなければ聞き取れなかったと思う。
木の軽い音がドアが締まると一緒に鳴った。

なるほど。
やはり本物の探偵はいなかったようだ。

「おじいさんもそう思いますよね。」
老人の瞼が錆びれたシャッターのように開いていく。
そしてゆったり
「やはり俺の目はまだ狂っておらんかったか。」
と吐き出した。
僕は後頭部を自分で撫でながら
「元、ですけどね」
と視線を斜め下に逸らして僕は言った。
「やはり本物の探偵はおらんかったか」
まるで自分が殺人鬼だと暴いて欲しかったかに見てとれたその言動は誰にいうでもなく、また呟くでもない。
真意は分からなかった。
手に持った杖に体重を預け無理矢理立つ様は、とても6日間で18人殺した者とは思えなかった。
ゆっくりと進む様は歩くという言葉のスピードについて来れていないほどである。
目の前まで来た殺人鬼は顔をのぞりと上げて問いかける。
「何個分かった?」
「10です」
少し首を捻り「おまけで合格」と人肌の小さな鍵が渡された。

狂ったジジイへの賭けに勝った初めから何者でもない僕は膝を震わせながら洋館を後にした。
鬱蒼とした自然が太陽に当てられていたが気味が悪い。
港には一隻のボートが揺蕩っていた。
漕ぎ出すボートは少しだけ浸水している。

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