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夢の続きとモラトリアム・ワンダーランド
じゃーん!
高坂千尋くん、あなたは選ばれた49人のうちの1人。これからその49人で試験を行います。全員が到着するまで、しばらくお待ちください。
なぜに49人?
首を傾げていると、見覚えのある顔が現れた。
むかし学生時代に劇団を一緒に立ち上げた男、鈴木。その劇団は仲の良い友人同士で結成したのだが、俺の実力不足もあり、長続きしなかった。
彼とは表面上、握手をして別れたが、その実は喧嘩別れだった。
「よう、陽介」
陽介は鈴木の下の名前だ。親しみをこめて、俺はそう呼んでいた。
「高坂さん、お久しぶり」
逆に、陽介はよそよそしい。彼は誰に対してもそうだった。
人当たりがよくて、優しい。だけど、誰にも心を開かない。
そんな彼に惹かれた時期があったのだ。
「おう、久しぶり」
陽介は眉をハの字にして、困ったような顔をする。
「高坂さん!」
と、あたりに女の子の声が響き渡る。
振り返ると、また見知った顔。
客演として一度だけ声を掛けたことのある後輩だった。
「いると思った!」
そう恥ずかしげもなく言う彼女の名前は深井海。
「俺も、いると思ったよ」
俺は照れながら言う。だがそれは本心だった。
正直なところ、誰にでも機関車のようなスピードでアタックしていく彼女は、俺からは程遠い存在だと思っていたが、なかなかどうして、縁のようなものを感じるのも事実なのだった。
たった一度きりの共演、そして先輩と後輩という間柄、会話を交わすことも少なかったが、いつかまたどこかで出会う、そう思っていた。
それを「運命」という言葉で表現してしまえば、陳腐なものに聞こえるかもしれないが、そう言いたくなるほどの「魔力」が彼女にはあった。
「うれしいなー、高坂さんも選ばれたんだー」
海は心底うれしそうに笑っている。 そっと試験官の様子を探り見る。「静かにしろ」と咎めてくる気配はない。
我ながら小心者だなぁと苦笑しながら、
「ああ、俺もうれしいよ。海が選ばれて」
そう言うと、彼女は顔を真っ赤にして答える。
「もう! そういうこと、サラッと言うんだから!」
おまえが言ったんだろ! とツッコみたかったが、これ以上はさすがにまわりに迷惑だろう思い、海にも座るよう促す。
ちょこんと体育すわりをする彼女は、相変わらず可愛かった。
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