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浦山慎平シェフの生き方

ー食にたずさわる人の生き方に触れることで、再び、自分や他者、世界の広がりを感じるー
【インタビューマガジン・Rinfinity】

第3回の2023年5月は、名古屋・栄・丸の内のワイン&ダイニング「リマージュ」・浦山慎平シェフにお話をお伺いしました。

*

やわらかな光に包まれ、上質で心地よいインテリアを纏う空間は
やがて訪れる限りない美食のはじまりへと誘うプロローグとして…。
ワインと料理、人と人、時間と空間、様々なつながりを生み出し、
『リマ―ジュ』という名に込めた、私たちの「想像」へと昇華します。
感動と癒しに想いを変えた至福のひとときが、ここにあります。

(リマージュHPより)

 『ただ、働く』ことからスタートした料理人の道

―料理の道へ進んだきっかけはどんなものだったのでしょうか?

「いや、あの、全然大した理由じゃなくて。
なんか、すごい志があったとかじゃないんだけど、高校卒業する間際で、親に『どうするんだ?』って言われて。
元々実家が喫茶店とか和食レストランの飲食系の仕事をしていたんですね。
そういう中で育って、料理を作るのも嫌いじゃなかったし、何か決めないといけなかったので、漠然と『料理やるわ』っていう話でスタートしたかな。」

―そうだったんですね。最初はどちらで働かれたんですか?

「父親の知り合いで、自分のことも子供の頃から知っている人が、ホテルの総料理長をやっていて、そこで働き始めました。
元々は中華料理がやりたくて、そのホテルにも中華があるから行こうと思ってたんだけど、面接の中で、『君は洋食希望でよかったよね?』って言われて、否定できなくてそのまま『はい!』って返事して、フランス料理を始めました(笑)
だから、この業界入ったときは、フランス料理を食べたこともなければ、全然興味がなかったから、最初は大変でしたけどね。」

―そのときの気持ちはどうだったんですか?

「料理長が、結局入れ違いで退職されちゃったんだけど、『一番しんどいところ入れてやってくれ』っていう指示だけ残しておいたらしくて、いきなりメインダイニングをやっていて。
もう半分騙されたような感じでしたね(笑)」

―騙された感じ(笑)
そのホテルはどんな職場だったんですか?

「ホテルのレストランだから、きっちりセクション分けされてて。
僕のポジションが、最初先輩が二人いて、一人はその年の4月いっぱいで辞めることが決まっていて。
で、もう一人は残ってるから大丈夫だよねって言ってたんだけど、そこから一週間後にその先輩が急に辞めてしまって、そのポジションを一人でやって、っていう状況になって。
ただ、フランス料理に興味がなかったし、メニュー見てもわからないし、調理の専門学校を出てるわけでもないから調理本すら持っていないわけで。
今みたいにネットがあるわけじゃないから、検索もできないし。
だからといって、仕事をやっていかないといけないから、あのときは一番しんどかったと言えばしんどかったけどね。
そういう感じで働いていましたね。
毎日が終わらない、っていう(笑)
手が遅いし、段取りもできないし、最初から仕事ができるわけでもなくて。
その頃の時代は、『見て覚えろ』の部分も結構多かったから。
レシピを渡されるだけとか、『この料理だったら用意するものが決まってるから、用意しとけよ』だけとか。
でも、分かるわけないじゃん(笑)
それで、『分からないです』って言って頭下げて、『なんで分からないんだ!』みたいな感じで教えてもらってたんだけど。
最初は、『ただ、働く』っていうことしかできなかったですね。」

三河産天然車海老のポシェとホワイトアスパラガス オレンジとシェリーのヴィネグレット

ホテルのレストランから料理人としてのキャリアをスタートされた浦山シェフ。
これまで『フレンチ』という枠の中で、カジュアルなカフェやビストロ、結婚式場でも経験を積んでこられました。

料理を続ける理由

―もともと中華料理をやりたかったけど、ずっとフランス料理を続けられているのは、『フランス料理でいこう』と思う何かあったんですか?

「うーん、どうだろう。
入り口は中華をやりたいっていうことだったけど、めちゃくちゃ中華がやりたかったのかって言われれば、『とりあえず、なんとなく中華がいいかな』っていう感じだったから。
今みたいにネットがあるわけじゃないから、いろんなものを情報として見比べることができなかったんですよね。
だから、選択肢が少なかったっていうのもあると思う。
そんな感じできて、だけどフレンチが好きで、結局どこかでフレンチが好きになっていって、その結果、このまま今に至るってこと(笑)」

―なるほど。
飲食業界だと、最初の職場のお話でもあったように、『急に人が辞めてしまう』みたいなこともあると思うのですが、その業界でやり続けているのって、ご自身の中に何かあるんですか?

「えーっとね、一つ言うと、すぐ辞めて実家に戻りたくなかったという思いがあったわけ。
あと、本当に何も知らなくて、『料理の世界は大変だ』っていう認識がなかったから、『これが普通』って思うしかなかった。
自分の中で、『こういうものなんだよね』っていう消化の仕方をしてたかな。
自分が働き始めたころの時代は、多分みんな似たようなハードな働き方を経験してると思うし、別に『自分がこれだけ働いたよ』って言いたいわけじゃないんだけど、しんどい思いをすると踏ん張りどころができると思うんですよね。
だから、そこができたかな。」

短角牛サーロインのロティ モリーユ茸のフリッカセ添え ソース・ボルドレース

今、作りあげるもの。これから提供したいもの。

―これまでの経験を経て、今はどんな料理を作りたいと思っていますか?

「僕、基本的にクラシックな料理が好きなんだよね、
今の新しいものとかに手を出したりはするんだけど、見てるだけでなんかよく分からないものとかは作りたくないし、『本質的に、食べてちゃんと美味しいもの』を作っていけたらいいな、と思ってるけど。
前衛的であったり、見た目も素晴らしくて、すごいテーマ性を持って作りあげるお皿も、それはそれで素晴らしいものだと思うんだけど、僕はそういうものを考えられるタイプじゃないから。
だから、どんな場所でも、お客様に料理を出すときは、ちゃんと美味しいものがつくれるようになりたいと思ってるかな。」

―そのような料理やコースはどのように考えて、作りあげるのでしょうか?

「まずは、季節感。
今の食材を当てはめて、そこから仕立てをどうするか。
まあ、あとはその時のお店の状況とか。
いくら美味しい料理を作っても、一皿一時間かかるとか、こだわりがあるっていうのは否定はしないけど、『時間もお客様に対するサービスのうち』だと思ってるから。
こだわりがあって料理を作ることって大事だと思うけど、『それって、来たお客様に対してどうなんだろう、自己満じゃないのかな』とか考えたりしますね。」

―レストランという中で、どんなものを提供したいと考えていますか?

「なんだろう。
来てもらったお客様に、『美味しくて楽しかったよ』って言って帰ってもらえれば。
それはずっと変わらないかな。
お客様が、楽しんで帰ってくれるのが一番かな。
自分の料理ももちろん食べてほしいんだけど、レストランは自分一人でできるわけじゃないし。
レストランに来るっていうのは『トータル』だと思うし、そのトータルの結果の中の一つで『料理美味しかった』があると思う。」

夷鮑のパイ包み バジル風味の肝のソース
鯖と茄子のプレッセ 発酵パプリカのソース

ここまでお話をお伺いして、浦山シェフは『物事を俯瞰して見つめている方』という印象を受けました。
最後にこんな質問もしてみました。

料理人は、厨房の外へ目を向けることも大事

―俯瞰して色んなことを見つめている印象を受けたんですけど、それはどういうところからきているのでしょうか?

「そうだね。
なんだろう、僕の場合、人付き合いが嫌いじゃないから、色んな人と会ってお話したりするのが好きなのよ。
料理人同士じゃなくても、他業種の人だったり、全然知らない人とかと話して、料理とは直接は関係ないけど、色んなものの見方ができた方がいいかな、とは思ってる。
厨房で料理に向き合う時間もとても大事な事だけど、料理人は厨房の外の事にも目を向けなきゃダメだよ(笑)」

浦山シェフ、ありがとうございました!


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