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【part17】ちょっと、戸籍汚してこようかな。

多分、自分の立ち位置に今一番疑問を持っているのは、私自身なんだと思う。


強いなアンタ

求婚された。
ツレからではない。別の男性からだ。その人について詳細は濁すけど、簡単にいうと、知り合ってから15年来の友人である。
そしてその人は私にツレがいることは知っている。でもその上で、「まずはお付き合い」ではなく明確に私に「家族になろう」と提案してきた。

私は家族になるのであれば今のツレがいいし、今のツレ以外は考えられない。そう伝えるも、求婚してきたその人には、イマイチ私とツレの関係性が理解できないらしい。

「だって結婚してないんだろ?だから、俺としようよ」

お前、メンタルはがねかよ。



家族にしかできないこと

正直な話、この求婚はおそらく私の人生の中で、最初で最後のものになるかもしれない。蓼食う虫も好き好き、二度と同じような虫が現れるとは限らない。(虫扱いは失礼か)

しかしツレにこのできごとを伝えるのははばかられた。ツレからしてみたら、「で?」って感じだろう。私が断れば良いだけの話だし、事実、そうである。
私はツレと一緒に居られるのであれば、結婚してもしなくてもどっちでもいい。パートナーとしてこれからも互いに必要な時に必要な分だけ、支え合えばいい。そう思っているし、それはずっと変わらない。

ところが時を同じくして、日野に住んでいる大叔母が倒れ、その知らせが車で片道3時間以上かかる千葉の私の家に来た。
身内以外が手術の同意も入院手続きもできない事実を目の当たりにしてしまった私は今一度、「家族」というものの必要性を考えるに至った訳である。



冗談なのか何なのか

そんなさなか、実に予想外の形で、ツレから家族になる提案を受けた。

「養子になるか?」
「え?」
「前言ってたやつ。俺に何かあった時の対処法は何か、考えておいた方がいいかと思って」

日野の大叔母の一件と、「あなたに何かあった時どうしよっかね」という話は、ツレにも以前持ちかけてはいたけれど。いたのだけれど。

心臓が一気にざわめいた。みぞおちが抉られた気さえする。

「なんで養子?」の問いにはツレは答えなかった。冗談なのか本気なのか図りかねる。
私は慌ててググり直し、そして検索結果を見ながらツレに言う。
「ねえねえ、『手術の同意も入院手続きも身内しかできない』っていうのは、医者のローカルルールらしいよ。法律で決まってる訳じゃないから、あなたの場合、私の連絡先書いたプレートを首から下げておくのが一番いいんじゃない?あははっ」

なんで自分がこんなにも養子入りを拒絶しているのかすぐは分からなかったけど、でもそのとき、すごくショックで、すごく悲しくなったのは確かだった。
養子も立派な家族だし、ツレに何かあればすぐに連絡をもらえるようにはなるだろう。でも。

私はツレとずっと一緒に居られればと思っていたけど、自分が思っている以上に、「普通の夫婦」になりたがっていることに気付いてしまった。



ネガティブな私がこんにちは

態度を含めてツレが私を大事に思ってくれていることはよく分かる。ツレは、できないことは絶対に言わない。言葉よりも行動を重視する。

でも、それでも、ふとした瞬間に考えてしまう。

原田マハの暗幕のゲルニカ。あれに出てくるドラ・マールはまさに私のことだったかもしれない。彼の一番の理解者であると悦に浸っているのは自分だけで、その実いちばん都合のいい存在。「私は違う」と、私だけが思いたがっている。


無性にイライラする。
微塵も想っていない相手からの求婚にも、これまで蓋をし続けてきたネガティブな感情が一気に放出されている状態にも、それをうまく言葉にできない自分にも。

だって私、こんなにも自分に自信がない。



「ちょっと、戸籍汚して来ようかな」
「え?」
「ネタとして面白いでしょう?あなたの存在を認めてもらって、私は『結婚している』という社会的地位を手に入れて、紙面上での契約だけを他の人と交わしてくる。バツが付けばそれはそれで、あなたとお揃いだし」

支離滅裂、ロジックもクソもないし、当てつけ以外の何でもない。当初の目的から大きく逸脱したその提案を、ツレは本気にはしないだろう。

だけどそろそろ、私はこの関係性に決着を付けるのだと思う。

自分から、本当の自分の気持ちを伝えよう。ゆっくりで良いから、ツレの話を聞きに行こう。ゆっくり、きちんと、向き合おう。

初夏の夜、言葉ひとつと、女ひとり。



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