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最先端科学に触発され、フィギュア素材も活用:長さ2mの連作を創る

来場者の質問:
最初のとっかかりをどうしたらいいのですか?

会場にお見えになった来場者や寄せ書き帳への書き込みでよく質問されていたのが、「最初のとっかかりをどうしたらいいのか、何から始めたらいいのか、わからない」、ということでした。画家であるなら、「白いキャンパスに描く最初の一塗りはどこから始めたらいいのか」、ということです。

以前の話ですが、2017年10月倉敷市立美術館での個展を目標に、その年の3月より新作を創り続けていました。その時のことを例にして、私の場合の「最初のとっかかり」の話をします。

60cm x 2m の超縦長の連作を創る

2016年以前までは、最大でもA1サイズ=幅 60cmx 長さ 84cm までの作品しか創っていませんでした。理由はただ1つ、自分のインクジェットプリンターが幅 60cm までしか印刷できないからです。ただ長さは、ロール紙を使えば最大 4m ぐらいまで刷れますので、今回は、長さ 2m の縦長構図にして3種類から成る連作を創ることにしました。

最初のとっかかり ~ 創作の過程

① どういうテーマにするか

もともと、ただの一般的な興味として、宇宙誕生以来のすべての存在の情報が記録されているという古代インド哲学の「アカシックレコード」、禅やヨーガにおける「心身一如」、パラレル宇宙論、宇宙のすべては波動エネルギーとする量子物理学理論などは耳にしたり読んだりしていました。

その後、最先端科学としての「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」を知ることとなり、このような科学理論も自分の作品に活かしたいと考えるようになりました。

補足:ゼロ・ポイント・フィールド仮説
宇宙のすべての出来事のすべての情報が、波動情報としてホログラム原理で記録されている「場=フィールド」がある、という仮説。その「場」のどこの一部・切片にも、あらゆる情報がたたみこまれているとして、一部につながれば全体を知ることができる、という理論。

この仮説を、もし詩的に表現するなら、イギリスの近代詩人ウィリアム・ブレイクの有名な詩でしょう:

一粒の砂に世界を見る
一輪の野の花に天国を見る
手のひらに無限をつかみ
一瞬のうちに永遠をとらえる

こういう表現の方が、感覚的にはよりしっくりきます。

ちなみに以下の作品は、そういう科学理論や詩から喚起されたイメージを視覚化した2012年制作でした:

私はどこに行くのか?  
Where am I going?
created by Rilusky E      2012


今回は、過去の作品イメージからはもう脱却せねばと思ったわけです・・


② どういうイメージで構成すべきか

きわめて当たり前のことですが、考えるだけでは先に進まないので、「最初のとっかかり」としてまず行うことは、とにかく、使いたい写真画像をフォトショップ画面上にどんどん置いてゆき、積み木細工のように少しづつ構成を変えながら、ヴィジュアル的にもっとも効果的な配置を模索します。自分で絵筆を持って描かれる方なら、多くのデッサンや下書きなどの構想を経て、一気に描き始めたりされているのでしょうか。

そうやって2、3日ぐらいで、以下のような基本構成に決めます:

最初はわずか3枚の画像のみ


さらに、試行錯誤の作業を地道に進めて1週間後は以下の通り:

使用している写真画像は8枚になる


初期の基本構成が決まると、よりディティールに凝った合成加工や、全体の構成の見直しなどが続きますが、一方で、新しい発想が浮かばなくなり、作品をもっとこうしたいと思っても具体案がなく、行き詰ってしまう「スランプ」状態が、必ず訪れます。

制作を始めて3週間ほど経過しましたが、ちょっと20分ほど画面をいじくったら、次は2週間ぐらい全く手につかずの状態もありました。

以下が、2か月ほど過ぎた時の作品画像の一部拡大です:

絵のトップ部分のみ:
画像素材は全体で23枚使用

基本の構成は同じですが、さまざまなイメージを示す役割のフィギュア素材を活用したり、報道写真の画像を取り込んだりしています。ただ。選択と配置構成が定まらずにうろうろしており、結局、「何を描きたいの?」というテーマ性が見えなくなっている状態の時期です。

補足:フィギュア素材について

もともと、プラモデル作りの好きな子供でしたが、2000年代半ば頃でしょうか、日本のポップカルチャーコンテンツ(アニメ、漫画、ゲーム)に登場するキャラクターを造形した玩具:フィギュアの大ブームが起こりました。街中のホビーショップでは、かつては世界的な老舗ブランドのプラモデルメーカーだった「TAMIYA」や「HASEGAWA」のコーナーは縮小し、1/4・1/12・1/100などさまざまなスケールのフィギュアが所狭しと並ぶようになりました。
そういうフィギュアには全く無関心なまま、自分の作品に人間の外形ポーズを何とか取り入れたいと思っていた時に、通販サイトで目にしたのが、1/6 サイズ(約30cm)のアクションフィギュア(手足を自由に動かしてポーズをつけることができるタイプ)でした。「 これは使える!」と思って、いくつか購入し、360度あらゆる角度でさまざまなポーズを撮影して作品に利用してきました。


③ 固定観念と既成イメージの呪縛は、打開できるのか

作品のイメージを発展させることができずに3カ月過ぎました。

私の作品は、美術の技法としてはコラージュでしかなく、今まで見たこともないような新技法や目新しいコンセプトはありません。どういう写真素材をどう加工処理して、どう構成するかが基本であり、すべてなのです。

すると、形や構成の奇抜さや面白さのみを求めても限界が生じ、画像加工が当たり前の商業広告との違いもぼやけてしまうおそれがあります。

そこで問われるのは、やはり、「何を、どう描くか」になると思います。

そのとき、私がもっとも警戒しているのは、「固定観念と既成イメージの呪縛」です。

補足:固定観念と既成イメージの呪縛

使用しているペン、窓から見える景色、政治家の街頭演説や古典音楽の響きなど、私たちが日常生活の中で目や耳や感触で感じ取っているさまざまなことが、脳と身体の自律機能のような働きで、その人の考え方やイメージの持ち方に何か作用を及ぼし、脳内に固定観念と既成イメージを造り上げ、当人はそれと知らずにそれに縛られてしまう、と私は思うのです。

今まで見たことがないようなイメージを創り出すためには、固定観念と既成イメージの呪縛から抜け出さねばならないのですが・・、難しいのです。

以下は、3カ月半経過の段階の一部拡大です:

絵のボトム部分のみ:
画像素材は全体で32枚使用

フィギュアとは別に、新しいイメージの写真画像も取り入れることで自分の想うテーマ性は明確化したつもりですが、全体の構成イメージは固定化してしまった状態で、新しい発想はなかなか浮かんできません。

その後も個展会期に間に合うように作り続けて、何とか3種類の新作を完成することができました。

真実は流転と破壊の果てに残る
The truth remains after wandering and destruction
created by Rilusky E   2017
60cm x  2 m


合計45枚の画像素材を合成加工しています。

この超縦長シリーズは、その後も制作し続けて、2019年までに9作品を完成させました。