ビール党臨時会議 【小話・2663字】

犬猫麦:皆さま、本日はお忙しいところをお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。感染症対策を取りながらということになりますので、本日は、都道府県支部の各会議室をつないだリモート会議とさせていただきます。皆さまにはご不便をお掛けいたしますが、ご理解、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。なお、お話しされるかた以外はマイクをミュートにしていただければと存じます。音声が反響してしまいますのでね。よろしくお願い申し上げます。それでは、さっそく始めさせていただきます。
 まず初めに、全てのビールに感謝の気持ちを込めて、そして、ビールを愛してやまない全てのビール党シンパに愛を込めて、乾杯を捧げたいと思います。皆さま、ご用意はよろしいでしょうか。本日も着座のままで結構でございます。それでは、乾杯!

一同:乾杯!

――ゴキュッゴキュッとビールを飲む喉の音。「プハーッ」「ああ、うまい」「クーッ」と漏れる声。

犬猫麦:ありがとうございます。会のほうを進めさせていただきます。リーダー挨拶、通風田先生、よろしくお願いいたします。

通風田:皆さま、本日は臨時会議ということで、うんぬんかんぬん。

犬猫麦:通風田先生、ありがとうございました。では、本日は、臨時会議ということで、酒税委員会からの報告がございます。酒税委員会の合萬杉さん、お願いいたします。

迷総須:どないなっとんねーん! ネーン、ネーン、ネーン……(声が反響する音)。

犬猫麦:あっ、粉もん委員会の迷総須さん、どうされましたか。先にお話しされますか。では、他の方はミュートにしてください。

迷総須:(無音)。

犬猫麦:あの、迷総須さんはミュートにしないでください。声が聞こえていません。

迷総須:(無音)。

犬猫麦:迷総須さん? 迷総須さんの声が聞こえていません。お話しされるのであれば、ミュートを解除してください。

迷総須:(無音)。

犬猫麦:迷総須さんは、少しお待ちいただけますか。先に酒税委員会から、お願いいたします。

合萬杉:コホン。どうも、酒税委員会の合萬杉です。よろしくお願いいたします。皆さんもご承知のとおり、第三のビールの酒税が、2020年10月1日から値上げされます、マス、マス、マス……(声が反響する音)。

迷総須:あ、もしもし、どうもどうも、迷総須です。お世話んなってますぅ。ええ、ええ。こっちはまだなんとか踏ん張ってます。ありがとうございますぅ。社長んとこの、この前のあれ、あの……。

犬猫麦:迷総須さん、音声が入ってしまっています。ミュートにしてください。

迷総須:へ? あれ? あ、やばい。社長、また電話します。ちょっと今、会議中でして。リモートでんねん。そうです、そうです。えらい時代になりましたなあ。すんません。じゃ。
 ああ、どうもすんません。失礼しました。どうも機械に疎くて。ミュートにします。あいすんません。

犬猫麦:迷総須さん、こちらこそ、ご不便をおかけしまして、申し訳ございません。大丈夫ですかね。では、合萬杉さん、続きをお願いいたします。

合萬杉:コホン。えっと、どこまで話しましたかな。では、最初からもう一度。皆さんもご承知のとおり、第三のビールの酒税が2020年10月1日から値上げされます。それで、ここで少し酒税について、おさらいをしておこうと思います。ビール党会議ですので、ビールの酒税のみ説明します。
 まず、ビールには、酒税法上の分類として、三つの種類があります。「ビール」、「発泡酒」、「その他の発泡性酒類(アルコールが10度未満で発泡性を有するもの。この定義に当たるものは全て該当)」です。この三つ目のものがいわゆる「新ジャンル」や「第三のビール」と呼ばれるものです。ちなみに、ノンアルコールビールはノンアルコールですので、ここでは関係ありません。
 酒税ですが、現在は、350mlの缶の1本あたり、ビールが77円、発泡酒が46.99円、第三のビールが28円の税金がかけられています。それを、ビール、発泡酒、第三のビールの税額の差を段階的に縮めていき、2026年10月には税額を全て54.25円に一本化するとされています。その一発目が今度の10月です。税額の変更は次のとおりです。
 10月から、350mlの缶、1本あたり、ビールの酒税は7円下がります。そして、第三のビールは9.8円上がります。

迷総須:どないなっとんねーん! ネーン、ネーン、ネーン……(音声が反響する音)。

犬猫麦:粉もん委員会の迷総須さん、あとで聞きます。ミュートにしていてください。合萬杉さん、続けてください。

合萬杉:コホン。えっと、ですから、10月から、350mlの缶の1本あたり、ビールの酒税は7円下がって70円、第三のビールは9.8円上がって37.8円になります。発泡酒は変わりません。ビール愛飲者にとっては朗報で、第三のビール愛飲者にとっては悲報になりますね。
 ちなみに、全てのビール類に、本体の価格と酒税を合わせた金額にさらに消費税がかけられています。例えば、350mlの第三のビールで100円(税抜)だとした場合、本体の価格は62.2円、酒税が前述のとおり37.8円、それを合わせた金額100円に消費税10%が乗って110円になります。以上です。

迷総須:どないなっとんねーん! ネーン、ネーン、ネーン……(やまびこ)。

犬猫麦:あああぁ、はい。で、では、迷総須さん、お願いします。皆さんはミュートにしてください。

迷総須:こっちは、少ない賃銭を工面して買うた第三のビールをちびちび飲んでんのにやな、値上げってなんやねん! まったくこの国は、金持ちに優しくて、貧乏人を蹴落とす国や! せっしょうやで! どないなっとんねんな、ほんま!
 そいで、野菜が高すぎんねん! 買われへんやろ! レタスもキュウリもナスも! どないなっとんねんな、ほんま。なにがって、キャベツが……うぅ……(鼻をすする音)。

犬猫麦:迷総須さん、落ち着いてください。

迷総須:落ち着いてられるかー、ラレルカー、ラレルカー……(こだま)。

犬猫麦:迷総須さん、お、落ち着いてください。本日の議題は、10月1日からのビールの酒税変更の確認だけですので、これにて閉会にしたいと思います。本日はお忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。皆さま、健康な胃と書いた「健胃」、これを守りながら頑張っていきましょう。それでは、これにて散会といたします。本日は、ありがとうございました。

迷総須:終わりかいっ! こうなったら、断酒してやるわ! ぐすん。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。スキ、コメント、フォロー、サポート、お待ちしております!