見出し画像

本を好きになったのは、いつ?#10

 1/20(水)に第164回芥川賞・直木賞の受賞式が行われました。
 芥川龍之介賞は、宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』。
 直木三十五賞は、西條奈加さんの『心淋し川』がそれぞれ選ばれました。

 また1/21(木)からは2021年本屋大賞ノミネート作品が発表され、本好きの人間にとっては連日大きなイベントが押し寄せてきたような感じで、僕もTwitterやニュースで流れてくる華やかな話題に色めき立っています。

 芥川賞・直木賞を受賞した2作品共まだ未読なので、積読した本を読み終わった後に手を出そうと楽しみにしている次第です。
 本屋大賞にノミネートされた作品の中では既に何冊か見ている作品もあるのですが、せっかくの大きな催しなので全作品の紹介記事とかも作ってみたいな~と密かに考えております。今からワクワクしますね!

 今となっては本好きの僕ですが、昔はほとんど読書をしない人間でした。
 どっちかっていうとゲームをするか外へ遊びに行くか、部屋でジッと本を読むなんて耐えられないと思っていた程には、読書とは縁のない生活を送っていました。10代の内に読破した数でいうと、多分20冊もいかない。

 本は好き?と聞かれたら、当時であれば「うーん……まあ悪くはないよね、気が向いたら読むぐらい」と答えていたでしょう。好きか嫌いかで問われて”フツー”と返すぐらいには中途半端な立ち位置でした。

 そんな若者があるとき、本っていいもんだなと感じた出来事があります。
 
 10代後半の頃、年末に家族で故郷の沖縄県へ帰省しようと、みんなで旅の支度をしていた時のこと。父親が『永遠の0』という小説を荷物の中に入れていました。永遠の0といえばご存じの通り、当時すごく話題を呼んだ本で、現代に生きる主人公が零戦に搭乗していた祖父の生涯を追う物語。
 普段父親が小説を読む姿をあまり目にしたことがなかったので、ちょっとびっくり。本なんか読んで珍しいじゃんと聞くと、「飛行機の中に居る時間が暇だから〇〇(姉)から借りた」と言っていました。

 父はすでに結構なページ数を読み進めていたようで「これはめちゃくちゃ面白い!」と興奮気味に薦めてくる。

 どれどれ一体どんな本なんだ……と手に取ってみると、最初に感じたのは"分厚い"ということ。父が読んでいたのは文庫版の永遠の0で、ページ数でいうと”600”ページ。長すぎて眩暈がする、というのが正直な感想でした。
 お父さんが読み終わったら貸すよ、と言われたけど本を読む習慣など無かった時期なので全然乗り気じゃなかったことを覚えています(ゴメンナサイ)。
 
 戦争物の小説ということもあり、まるで興味が無かったのですが、一夜明けて空港へ向かう当日、朝から母親が不機嫌気味に文句を言っている。
 いわく、その日は朝から空港まで高速道路を運転する役目があるというのに、父親が夜中までずーっと永遠の0を読みふけっていたとのこと。

 空港へ向かう車内でも、話題は永遠の0の話。
 本を貸した姉とあそこのシーンが良かったと語る光景があんまりにも珍しかったので、この辺から僕も少しだけ興味を惹かれていくように。

 祖父母の家があるのは沖縄県の宮古島で、いつも中部国際空港から那覇空港へ、そこからまた乗り継いで宮古島へ到着というルートを辿ります。つまり1日に2本の飛行機に乗るわけで、目的地へ向かう機内での時間もそうなのですが、空港のロビーで出発を待つ時間もあってかなりの時間ヒマを潰さなけらばなりません。父はその間も黙々と永遠の0を読み続けている。

 那覇空港に到着した辺りから、同じく帰省の為に各地方から飛んできた父親の友人達が毎年合流する流れになり、ここから暇を持て余したオヤジ達によるプチ酒盛りが始まるのですが、その年は珍しくビールも飲まず、ひたすら本を読み続け、宮古島へ着く頃には遂に読破していました。

 どうだった?と感想を聞くと「感動で涙が止まらなかった」とのこと。
 機内でぐーすか寝ていた自分は、隣に座っていた父親が涙を流しているなんて思いもしなかったのでまたビックリ。何がどう良かったのかを聞いても「いやあ、すごかった……すごい本だよ……読んでほしいな」と余韻から抜け出せずにいる。ここから僕も本を手に取ってみることにしました。

 永遠の0を読む前は戦争物というフォーマットでしか捉えていなかったので、なんとなく小難しそうだな~と思っていたのですが、実際読んでみると祖父”宮部久蔵”はどういう人間だったのか?という謎を追求するミステリー仕立てなところもあって、自分もすぐに物語へ没入していきました。

 それから故郷での休暇を過ごす間、暇を見つけては本を読み続け、自分は帰りの機内の中で本を読み終えることに。物語の終盤に至っては事あるごとに泣き続け、本を涙でぐしゃぐしゃにして返却し、姉に怒られました。

 600ページもの長編小説を初めて読破できた達成感もあり、読書もたまには悪くないと感じたのですが、本当の意味で本を好きになったきっかけはこの後の出来事にあると思います。

 僕も本の感想を共有したくなり、父と永遠の0のことについて語り合いました。あの章のどの場面が良かったとか、宮部久蔵という人物について熱弁し合ったり、やっぱり最後のシーンは震えるものがあったなど。長い間、物語の描写について二人で考えを言い合ったりして過ごしました。

 いま思えば、永遠の0は「家族や友に対しての愛情」を一つのテーマにしている所もあり、家族間で読後の感想を共有するには最高の作品です。
 
 あの時初めて”誰かと本の感想を共有する楽しさ”を実感したことによって、今の本好きの自分に繋がっているんだと確信しています。

 
後にも先にも、父と本の感想をこんなにも濃く語り合った思い出はこの時だけなので、永遠の0という作品をあの当時同じタイミングで読んでいなかったら、読書が趣味にならなかった未来もあったのでは?と思います。

 おそらくnoteに文章を書くという習慣も。

 僕はこれからもたくさんの本と出会うと思うのですが、そのたびに本を好きになっていくのでしょう。そしていつか、それを人に伝える日がやってくるのかもしれません。

 この記事を読んでくれている皆さんのきっかけは、何だったでしょうか?

この記事が参加している募集

#習慣にしていること

131,194件

#おうち時間を工夫で楽しく

95,427件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?