まだ狂っちゃないぜ
サッカー選手というのが皆一様に抱えている病がある。
勝負師、負けず嫌い。
小さい頃から試合があれば勝ち負けをつけてきたので、それはサッカーに収まらず何事においても出てしまう。子供時代には、よく自分が勝って終わるまで親相手にポーカーを挑んでいたのを覚えている。それからも色んなものに妥協したり分別をつけたりして大人になっていくのだが、結局最後には勝たなければ気がすまない。
負けた試合の帰り道は自分があまりに無力に思え、納得のいかない練習の後には1人でむくれている。次はもっとうまくやれるはずだと雨の日に誓ったりして。そんな日々がサッカーと自分との間に筆舌には尽くしがたいほどの深いつながりを作ってきた。無類のサッカー好き、今では完全に取り憑かれてしまった末期患者。
今日このごろはと言えば、家の中から窓越しに降りしきる雨を眺めるばかりだ。外は寒そうだ。こんな日はサッカーなんかやっちゃだめだなんてロッカールームで愚痴を言うのすら懐かしんでいる。
しかし、今は感傷に浸りたい気分じゃない。サッカー選手はそんなヤワな輩じゃない。
初めは見れていなかった映画、本で時間を埋める。それから、気高き戦士は机に向かう。ポツリポツリ、その筆はなかなか進みはしないが、自分の言葉で文章を綴り始める。なにせ時間だけがあって嫌でも考えが巡ってしまう。そういう時には発散しなければならない。良い映画を見た後ならなんだか良いことも言えそうだ。
ポール・オースターに言わせれば、書くことは病だ。誰がいつかかっても不思議はない。老いも若きも、強きも弱きも、酩酊せる人も素面の人も、正気の人も狂気の者も。
この厄介な2つの病の合併症により、ほとんど自分が書くことは使命とすら思うようになる。次第に机に向かう時間が増えてくる。ふと思い浮かんだ1つの文章のために朝日を迎えることもある。当然、書くからには負けられない。
自分が書く一本一本に真剣に向き合うようになると、その時の頭はまるでサッカーをしている時のそれである。震えるような文が書きたい。
ポール・オースターの話には続きがある。
「カフカは最初の短篇を一晩で書きました。スタンダールは『パルムの僧院』を49日で書き上げた。メルヴィルは「白鯨」を16ヶ月で書いた。フロベールは『ボヴァリー夫人』に5年を費やした。ムージルは『特性のない男』に18年かけた末に未完のまま死にました。そういうことが、いまの僕たちにとって問題ですか?」(Paul Auster『THE BROOKLYN FOLLIES』, 新潮社, 2012, 柴田元幸訳)
これについてポール・オースターの小説の中の登場人物トムは、「大きくて太った無」と言った。
そう。この勝負に決着がつくのに時間という尺は関係しない。それに向き合うのにも人それぞれやり方があるというわけである。
1つ、この勝負に勝つにはどうしたらいいかというのを、自分はピッチの上で経験している。それは、何かが「つながる」瞬間である。
感覚的な話をしている。ブコウスキーはDon't tryと言ったし、Febbは自分の音楽について、どう出るか考えていないと言った。あるいは、よくサッカー選手が後のインタビューでプレーを振り返る時に、考えてやろうとしたわけじゃないと答える。もう一度やれと言われてもできない。
そんな瞬間には魂が震える。そうやって自分に教えてくれる。
本気で根詰めて答えが出る時もあるし、ふらふらと遊んでいたら不意にできてしまう時もある。しかし、勝負に挑んでいない者には絶対に訪れない。一度勝利の味を占めたのなら分かるはずだ。そこにはまるで、気まぐれでいたずら心のある女神のような存在がいるとしか考えられない。
しかし、自分はこう思う。
そこにいるのは自分自身なのだ。
生まれてこの方の時間を共にし、人知れずした努力も、誰も気づいていない失敗も知っている者など他にいるだろうか。それに、自分ほど自分に対して気まぐれなヤツもいない。
どこへ行ってもヤツからは逃げられない。コロナの脅威から守れても、だ。今できないことに、訪れなかった時間に、思いを馳せている暇はない。おうちにいても、戦いをやめてはいけない。
負けるなよ、戦士たち。どんと構えて、自信たっぷりに、ちょっと焦らしてやるくらいに。
また会う日には惜しみなく宴を開いて祝ってやらなきゃ。
勝利の酒は美味いって言うから。
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