篠原 力(SHINOHARA RIKI)

バレンシアでサッカー選手やってます。遊びに付き合ってください。

篠原 力(SHINOHARA RIKI)

バレンシアでサッカー選手やってます。遊びに付き合ってください。

マガジン

  • バレンシアの日本人

    スペインはバレンシアでプロサッカー選手を目指す24歳の、フットボール・クロニクル。

  • フットボールの夢

    スペインでサッカーをする22歳が、サッカーから世界を切り取る。

  • サッカーから実現するコミュニティデザイン

    卒業論文で、「サッカーから実現するコミュニティデザイン」をテーマに、スタジアムにいかにして人が集まり、サッカーが人々の生活に影響を与えていくかを研究中。

  • PARKS AND GARDENS

    内と外とをつなぐ公園には様々な可能性が秘めている。

最近の記事

ミステリートレイン

 冬は収穫がなかった。  近所の八百屋で野菜を買うついでに、「季節の果物は何か」と聞くと、「今はほとんど取れないんだよ」と言って渡されたのは、12,3粒で10ユーロはするいちごだけだった。今の自分には少し贅沢に思えたが、他にそうする機会もなかったので、結局そのままそれを買うことにした。  2月の15日に一度再開が決まっていたのが、結局3月まで延びてしまった。空白の2ヶ月を過ごし、ようやく3月に入って練習が始まった。  カフェやバルはどこも閉まっていた。カフェは買ったのを

    • コンティニュアム

       日がかなり短くなって、車に乗る頃にはすっかり夜だった。その日は天気がとても良く、そのおかげで月は二日か三日目ほどの細い月であったにもかかわらずその輪郭が透けて見えていた。  水曜の試合に向けて、その週から月、火と天然芝のグラウンドを借りて練習をすることになっていた。クラックスという育成年代のクラブチームが所有する練習場にちょうどいいのがあったので、そこを借りることになった。  グラウンドでは子どもたちが必死になって練習をしている。将来、プロサッカー選手になることを夢見て

      • 起こったことのすべて

         夕食の後で海沿いを散歩しようということになった。  同部屋のビクトルと、それから隣の部屋の2人を誘って、そうしているうちにホテルのロビーを出てみると、結局全員がそこに集まった。  こっちとくっついたり、あっちとくっついたりしてお喋りに興じ、お揃いのジャージの一団がぞろぞろと歩いた。ホテルの前はすぐビーチで、そこに沿って舗道がずーっと向こうの方まで伸びていた。さすがに日も落ちて海は真っ暗闇で、そちらから風も吹き込んできた。  ベンチに座っていた老人が、パストールに話しか

        • ストリート&フットボールショー

            人生の中で得た教訓はたくさんある。特にサッカーからは多くのことを学んだ。その次に映画。 映画の後半にはいつも、答えみたいなものが用意されている。何か言いたいことがないなら、そもそもお金をかけて映画なんてものは作らないか。 それと違って、テレビドラマっていうのは少し違う。あるいは、シリーズ物の映画でもいい。この手の作品で大事なのは、とにかく話を続けること。客を逃さないこと。映画であれば2時間で終わり、ハッピーエンドってところが、シリーズではそうはいかない。 昔はテレ

        ミステリートレイン

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        • バレンシアの日本人
          15本
        • フットボールの夢
          43本
        • サッカーから実現するコミュニティデザイン
          5本
        • PARKS AND GARDENS
          1本

        記事

          STAY POSITIVE

           今回はバレンシア行きの飛行機が全て欠航になっていたので、マドリードに一度入ってバスで移動することにした。バラハス空港に着くと、まずは市内に出るために電車に乗らなければならない。既に空港の中まで強い日差しと乾いた風が届いている。  電車に乗って、始めのトンネルを潜って地上に出ると、まず最初に出迎えてくれるのは両側の壁にびっしりと描き込まれたグラフィックだ。たしか、バルセロナの時も同じだった。地元のキッズたちが夜更けになると、「ここはオレたちの街だ」と言わんばかりに至るところ

          まだ狂っちゃないぜ

             サッカー選手というのが皆一様に抱えている病がある。  勝負師、負けず嫌い。  小さい頃から試合があれば勝ち負けをつけてきたので、それはサッカーに収まらず何事においても出てしまう。子供時代には、よく自分が勝って終わるまで親相手にポーカーを挑んでいたのを覚えている。それからも色んなものに妥協したり分別をつけたりして大人になっていくのだが、結局最後には勝たなければ気がすまない。  負けた試合の帰り道は自分があまりに無力に思え、納得のいかない練習の後には1人でむくれてい

          まだ狂っちゃないぜ

          フットボール讃歌

           「ニュー・シネマ・パラダイス」を観たことがあるだろうか。  イタリア、シチリア島の小さな町を舞台に、町に1つの映画館と、映画に魅せられた少年との関わりを描いた一代記だ。シチリアの景色にエンリオ・モリコーネの音楽がかかれば、それはもう映画である。そしてこれは、映画を好きになる映画でもある。  町に1つの映画館には、いつも町中の人々の顔が並ぶ。そこには、悪ガキも、神父さんも、大人の男たち、女たちも全員がいる。そして少年トトは、映写技師のアルフレッドにいつも映画の話を聞き、町

          フットボール讃歌

          バレンシア、サッカー特等席からの報告書

           レストラン街を歩くと、そろそろ店支度だとシャッターを上げる人がいたり、昼からの客の入れ替わりにせわしなくしている人がいたりする。木陰になっているテラス席には風が吹いて気持ちよさそうだ。そろそろバレンシアも秋に向かっていくのかな。  建物に日が当たると、レンガを使っていることや壁に凹凸の装飾が施されているおかげで影ができて表情が豊かだ。そこを抜けて、centro(中心街)に向かっていき、メトロに乗る。繰り返しチャージして使っている紙の切符がよれてしまっている。  そこを行

          ¥300

          バレンシア、サッカー特等席からの報告書

          ¥300

          バレンシアでサッカー選手になる人の記録

           およそ二ヶ月も経てば、髭もすっかり生え揃っていた。4月の初め、バレンシアに来る日の前日に日本で髭を剃ってからは、全く一度も剃らずにおいた。テレビでは、新しい元号が令和であると発表されていた。  来てすぐの頃は、それもあって18,19の年頃に見られた。今年で23だと言った時にそれがどんな印象を与えたかは分からないが、サッカーで信頼を勝ち取り認めさせるには、手っ取り早く結果を出すしかなかった。  まずは名前を覚えてもらわなければいけない。新参者の、名前も分からないやつにパス

          バレンシアでサッカー選手になる人の記録

          バレンシアのバレンシア人

           もう1週間も過ぎてしまったが、5月の初めには23歳の誕生日を迎えていた。同じ日には、フランコ・バレージ、キース・ジャレット、トマス・ピンチョンが生まれていた。  大学も卒業して社会人、サッカー選手ならばバリバリに活躍している年齢だ。リオネル・メッシがバロンドールを受賞したのはたしか22歳だった。  今プレーしているスペイン国内でも、ラ・リーガで活躍している23歳は数え切れないほどいる。特に、ヨーロッパの市場は動きが早いので、18でここに来れば育成という枠で見られるかも知

          バレンシアのバレンシア人

          高貴で感傷的に踊る、バレンシアにフットボール

           トランペットの音が大きくなり、演奏隊のテンポもゆっくりになってくると、いよいよ真実の時が訪れる。闘牛士が疲弊して頭を垂れた闘牛の後頭部、頚椎のあたりに剣で狙いを定める。  その日、メスタージャは静まり返ってしまった。さっきまでの勢いはどこへやら、あのアーセナルにここまでの格の違いを見せつけられてしまえば言うこともなくなる。  トランペットの伸びやかな音は聞こえてこなかったが、いつも後ろの席にいるバレンシアファンのおじさんの野次が飛ぶ。ゆっくりと、ここに来て1ヶ月の日本人

          高貴で感傷的に踊る、バレンシアにフットボール

          みんなが知ってる話の話

          Instagram:@rikio_no_hankou Twitter:@rikio_19  多様性の時代になってチャンスは溢れていると言われるようになったとはいえ、ついぞ日本にだけいて物事を考えると、いかに自分の視野が凝り固まっていたかと思い当たる。  それは、お得意の無意識、思考停止の仕業である。人の言うことをよく聞いて、疑いもせず、みんなと同じ、みんなが知ってる話をしていれば間違わないだろうと思ってしまう。  しかし、実際は何一つ正解などはなく、いつも何かが足りない

          みんなが知ってる話の話

          サッカーとはこんなものか

           もっぱらバレンシアファンである。  バレンシアに到着して荷物を置くやいなや、すぐ近くにあるメスタージャスタジアムでバレンシア対レアル・マドリードの試合を観戦することになった。  マドリーを2−1で下したバレンシアは、その次のラージョ戦を落としたもののその後も4連勝し、ELもベスト4まで進出している。  僕が所属しているアカデミーが年間パスを持っているおかげで、ホームの試合は全試合観戦することができる。中盤のパレホと前線のロドリゴが秀逸で、いつも何か起きるのではないかと

          サッカーとはこんなものか

          Chapter1 甘い時間

          Instagram:@rikio_no_hankou Twitter:@rikio_19  今週からは育成特集。いつまで経っても記憶から消えることのない、思い出の青春、ユース年代。  色んなことがあっという間に過ぎていった、景色に気を取られていた、多感な時期と言われるこの年代はとにかく脳もフル活動、刺激求めて止まないのだ。だからこそ、この時期に身に降りかかったものの存在は大きい。  僕もやはり、その大半をサッカーに捧げたわけだが、この両足とボールで学んだものはそれ以上で

          Chapter1 甘い時間

          ボールが足に吸い付くようにバレンシアオレンジが

           バレンシア・ノルド駅はバレンシアの北を意味する古く大きい駅で、今は街の中心に位置している。隣には闘牛場がある。闘牛は今も行われていると聞いて、いつかは見てみたいものだと思った。  モダニズム建築の様式を取るノルド駅の建物は、歴史を感じさせるとともに、日本にいたときから建築に興味があった僕にはとてもそそられる装いだ。  ここ2,3日のひどい雨(せっかくの週末の休みだというのにどこにも行けないじゃないか!)も一時止み、近郊からの客人を迎える。バルセロナから5時間かけてやって

          ボールが足に吸い付くようにバレンシアオレンジが

          Chapter3 FLEXIN' IS A CULTURE

          Instagram:@rikio_no_hankou Twitter:@rikio_19  アフリカの若者はとにかくお洒落だ。彼らの関心は街で周りの目を引くこと。  flex, flexin'とは、見せびらかす、とか、カッコつける、転じてカッコいいのを褒めるときにも使うスラングだ。週末のお出かけのときには、みんなめちゃめちゃにカッコつけて自分を見せびらかす。  これが、実はコミュニティの特徴を捉えているのではないかと思い、対照的な日本文化と比べてみると、自己表現に関する

          Chapter3 FLEXIN' IS A CULTURE