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ストリート&フットボールショー

 

人生の中で得た教訓はたくさんある。特にサッカーからは多くのことを学んだ。その次に映画。

映画の後半にはいつも、答えみたいなものが用意されている。何か言いたいことがないなら、そもそもお金をかけて映画なんてものは作らないか。

それと違って、テレビドラマっていうのは少し違う。あるいは、シリーズ物の映画でもいい。この手の作品で大事なのは、とにかく話を続けること。客を逃さないこと。映画であれば2時間で終わり、ハッピーエンドってところが、シリーズではそうはいかない。

昔はテレビシリーズはあまり好きじゃなかった。やっとの思いで刑務所を脱獄しても、次のシーズンが始まるとまた何か別の問題を抱えて、延々と似たような展開が続く。

その最たる例は、「男はつらいよ」シリーズだろう。寅さんは失恋をしては旅へ出て、また別の女性に恋をして、そして振られ、帰ってくる。僕はこれを、「大いなるマンネリ」と呼んでいる。

まあ少なくとも、テレビドラマに僕たちは答えを求めているわけではないし、映画のように劇的なエンディングは必要ない。あるいは制作チームが、もしかしたら何年か後に復活するかもという想いを少なからず抱いていて、どことなくその雰囲気も漂わせておくかもしれない。


一方で、篠原力のフットボールライフはどちらかといえば、間違いなくテレビドラマだ。

映画みたいに、ここで終わればというシーンは何度もあった。うまくいったことの方が少ないが、これは違う、こうじゃないという苦悩の日々の末に、何かを勝ち取ったような気持ちになったことはある。もちろん、うまくすれば人からの評価も得られるかもしれない。

しかし、一度新しいシーズンが始まれば、また違う立場で苦労が始まる。似たようなシチュエーションの負けの中で、どこかで聞いたような言葉がかけられる。

バレンシアでのオフシーズンは退屈だった。できる限りの遠出で気晴らしをしたり、普段はできないようなことに取り組んだりもしたが、サッカーのある日常には何物も替えられなかった。

本来ならば、9月の初めの週に練習が始まる予定だったが、コロナ禍で1週間開始が先延ばしされた。

そこで、久しぶりにストリートに出てみることにした。メトロに乗って少し行ったところに、少し治安は悪いが学生が多く住んでいる地域がある。ここらならサッカーのできそうな公園が1つや2つはあって、人も集まっているだろうと思えた。

サッカー選手には見えないよう、着古したTシャツとキャップを被り、空気の抜けたボールを持って通りを歩いた。すると、路面電車の線路沿いに、まさしくおあつらえ向きのバスケットコートにフットサルサイズのコートのある公園に出くわした。もうすでに何人も集まっていて、それぞれが5,6人のチームを作って試合をしていた。そこに混ざることにした。

初めは予想通り、マヌケな格好をしたアジア人のバカと思われた。バカのフリをするのも楽じゃない。

チームメイトになったブラジル人に、「下手くそだったらすぐ出てってもらうぞ」と言われた。ムカつく言い方だった。

2試合くらいして、今度はそいつと敵チームになって対決した。マッチアップになると、後ろからファウルをしてきたので喧嘩になった。頭に血が上って、相手はこちらを中国人呼ばわりしていた。

よく見ると、他もほとんどはスペイン人じゃなかった。南米訛りのスペイン語か、フランス語、あるいは知らない国の言葉が時より聞こえた。フェンスのところにはジャンキーがへばりついていて、自転車で辺りをうろついている。おそらく、プレーしている何人かもクスリをやっていただろう。

後から参加してきた黒人の一団と仲良くなった。鋭い左足のシュートで1点決めると、すぐに認められた。日が落ちるまでひたすらプレーし続けた。

子供時代の夏休みみたいだった。汗だくになった服のままメトロに乗って、効きすぎた冷房の中でアクエリアスをがぶ飲みして喉を潤した。


映画とは違って、人生の答えは後半にあるわけじゃないっていうのは、チャーリーブラウンの言葉だったかな。いい言葉だ。

子供の時には当たり前に分かっていたことを、しばらく忘れてしまうこともある。サッカーが好きな理由はいくらあってもいいし、何度見つけたっていい。結局、繰り返すしかないのだ。

僕たちは、何か行き着いたと思ったところで、また次の日にはその感覚も薄れて通常へと戻っていく。それを繰り返している。

このドラマは、やむなくして終わるという結末以外終わることができないのだ。それまでは、幾度も訪れる夜を超え、ただ大事なことは忘れないようにしておくしかない。

ただ、同じように流れていく景色も、同じものなど二度とない。大人になったら子供には戻れない。それだけが事実。


帰りには、ピッチを街灯が優しく照らしていた。自分が迎え入れられた気がした。

通った道も、観光で訪れただけの場所と、住んで毎日見ている場所とでは全く違った。

いつからか自分も気がつかないうちに、そこが自分の居場所になっていた。






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