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こんなにも食料残して忽然と

【悲報】蜘蛛が姿を消した。

昨夜、ベランダの蜘蛛のこれからを案じたのだが、今朝、窓の外を見ると、そこには何もなかった。蜘蛛だけでなく、巣もなかった。ベランダに躍り出て、よくよく見てみたら、巣の本体はそこになく、ベランダの手すりに蜘蛛の集めた小さな虫たちの亡骸が連なって揺れていた。

これは食べ残しか、それとも貯蔵してあるものなのか。それにしても、忽然と姿を消した蜘蛛はいったい、どこにいるのか。巣を片付けてからどこかに引っ越したのだろうか。鳥かなにかの捕食者に巣ごと咥えられて行ったのか。それとも自然に糸が切れて、転落したのか。

これもまた、自然の一部であり、人間ごときがカワイソウなどと思うのはおこがましい。しかし、ちょっとしたロスが起こったのも間違いなくて、わたしは不意に消えた蜘蛛に対して、知人を失ったようなショックを覚えた。あの蜘蛛は、ペットではない。完全に独立した個であった。図々しくも勝手に軒先に陣取ったが、早い段階で物干し竿にかけた糸をわたしが切ったら、二度とそこには糸をかけなかった。軒とベランダの手すりだけに縦糸をかけ、立派な巣をこしらえた。その時、「賢いなあ」と思った。ここにまた糸をかけられたら、物干し竿が使えなくなるから、また切らなければと思っていたのに、蜘蛛は自分の巣が壊される危険を、自ら回避したのだ。

よく見ると、手すりには縦糸の切れ端がふわふわと揺れていた。一本を手に取ると、ぶら下がっていた小虫の亡骸がぴょんと弾むように揺れた。縦糸に繋がっていたのだ。わたしはゆっくりとそれを持ち上げてみたが、重さに耐えられず、虫は下に落ちた。手に残った長い糸がゆらゆらと風にたなびく。

ベランダの外に糸を落とす。白い糸は、柔らかな質感そのままに、ゆっくりと落ちて行った。この感じで、子蜘蛛たちは風に乗って旅をするんだろう。

ベランダの空間は、こんなに広かったのかと思うほど、スッキリと、晴れ晴れと、なにもなかった。澄んだ空に浮かぶ雲が見えた。

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