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【055】スタートアップに3回訪れる採用モテ期と落とし穴

自身のスタートアップ経験および人事・エージェント経験から学んだことですが、採用が難しいと言われるスタートアップ企業にも、特定のターゲットを惹きつけるフェロモンが出るモテ期が3回あるように思います。

そのタイミングをキャッチして適切に対応すれば、身の丈以上の優秀人材を採用することも可能ですし、逆に対応を誤ればミスマッチ採用という負債を抱えるリスクにもなります。

今回はその3回のモテ期について、モテる背景と採用の注意点について書いてみました。自らの経験と見聞の範囲から導いた内容につき、全てが一般化できるわけではないかもしれませんが、その点はご容赦ください。


(1)第一のモテ期:未熟さこそが最大の強みになる創業初期


スタートアップ創業初期の頃は、プロダクトの構想はあれど、実物はなく、人もいなければ知名度もほとんどありません。

組織も小さく収益も安定していないため、採用では創業者の人脈やSNSでのスカウトなどを駆使しますが苦戦するケースが多いです。でも、実はこの時期のスタートアップにしか出せないフェロモンがあります。

世の中には、初期のスタートアップだけを対象として転職活動をする”真正アントレプレナー層”が一定ボリュームで存在します。会社に対する期待値は低く(=会社に多くは望まない)、むしろ自らの貢献によって事業や会社が成長する実感を得たいという動機で転職活動をしているため、組織や事業の未熟さを魅力として感じます。逆に、幅広くメディア露出していたり、エース級のボードメンバーがショーケースに揃っているような華やかなスタートアップは”育ち過ぎている”という理由で、眼中に入りません。

創業期のスタートアップ企業は、上記のような候補者と接点さえ持つことができれば、人も金もモノもないという弱点をアピールするほどモテ期のフェロモンを最大化することができます。会社の未熟さ・未完成さに対して興奮する応募者がいたら、それが採用すべき人です。逆にそういうアピールでドン引きするような人材は、今採用すべきではないので、適切でない人のフィルタリングも兼ねています。

ちなみに、これは創業してから1〜3年前後のスタートアップにしか使えない期間限定の武器なので、この魅力で勝負するなら短期間で結果を出す必要があります。10年も20年もずっと”未熟さ”をアピールし続けてもスタートアップ志望者に敬遠されるだけです。

(2)第二のモテ期:プロダクトがリリースされ、メディアに露出し始めた頃


晴れてプロダクトがリリースされたり、最初の資金調達などがあると、メディアで取り上げられることも出てきます。また創業者や社員のSNS発信などを通して、少しずつ世の中に認知されていきます。この時期には、スタートアップ感度の高い転職希望者が『初めて聞く(でも無名ではない”知る人ぞ知る”的な)スタートアップ企業』に敏感に反応します。これが第二のモテ期です。再び、優秀なコア人材を獲得するチャンスが到来します。

メディアに取り上げられると外部からの見られ方が変わっていきます。「メディアで紹介されるのだから、有望なスタートアップ企業に違いない」という高めの期待値で志願してくる人が母集団の中に一定数含まれてくるので、応募数も増えます。モテ期の実感が持てる時です。

でもこの時期、ミスマッチ採用を大量発生させるリスクがあることも留め置く必要があります。メディア露出することによって変わったのは応募の数だけでなく、応募者の質も変わっているからです。

会社が無名だった頃の応募者は『組織も事業も未熟であることを理解した上で自らの貢献によって会社を成長させたい』という覚悟を元々持っていたので、その点を見極める必要がありませんでした。一方、企業の認知度が上がってから応募してくる人の中には『既に成長軌道に乗った会社ならば、そんなに苦労しなくてもやっていけるだろう』という甘い勘違いを抱いているフリーライダー層も混在してきます。(←採用の際には、新たなフィルタリング要件として加える必要が出てきます)

実際にはこの時期のスタートアップの組織や事業はアーリーの頃と変わらぬカオス状態であることがほとんどです。むしろプロダクトリリース後ゆえに、カスタマーを満足させながらPMFを達成しなければならないので、やるべきことは増えています。企業の実態は変わっていないのに、メディア露出によって企業の見え方だけが変わっていることを留意する必要があります。

さらに、リリースしたプロダクトのブランディング活動が始まると、現実だけでなく理想像を語る必要性も出てきます。実態よりもストレッチした企業像を見せる機会も増えます。こうして、見せる企業像と現実のギャップが、ミスマッチ採用のリスクを高めていることに、中の人は気が付けない場合も多いです。

この時期、採用の加速をする企業も多いと思いますが、大量のミスマッチ採用を回避するためには、選考の要件を変化させる必要があります。
企業の見え方が変わったことにともなって、応募者の質が変化しているので、見極めるべき要件も変化させれば良いだけなのですが。

体感的には、この時期が最もミスマッチ採用という負債が発生しやすい時期だと感じています。問題は、自分たちの見え方の変化に気づくことが意外と難しいということだと思います。

この時の負債がのちに来る、30人の壁とか50人の壁の引き金になったりします。突然のモテ期に有頂天になりがちですが、自社はどんな風に見られているのか、常に変化するものであるという前提で意識しておいた方がよいでしょう。

(3)第三のモテ期:IPOが現実的になってきた時期

スタートアップ企業がIPO(株式公開)を実現しようとしていることが公になる時期です。おそらくPMFを社内外に証明できており、IPOのための組織整備やそれに伴う採用も始まり、ストックオプションを採用の武器として使う会社もあるでしょう。この時期が、スタートアップ志望の優秀な人材を惹きつけるモテ期であることは、説明不要ですね。

この時期の採用にも注意したいことがあります。
この時期には組織の急拡大が進みます。属人的だったオペレーションがシステム化し、機能別あるいは職能別に組織が分化して効率化が進みます。0→1 の時期は過ぎ、10→100で事業拡大するフェイズにはいると、一定の縦割化や分業化も進みます。

例えば、創業初期には、”専門性よりもアレもコレもできるジェネラリスト”が理想的なリーダーのモデルだったかもしれませんが、事業拡大フェイズでは、”特定業界や特定の専門性に長けるスペシャリスト”型のリーダーを必要とすることが増えていきます。

上記のように、欲しい人材要件が変化する時は、選考の基準もプロセスも更新する時期です。専門性に長けたリーダーが欲しい面接で問うべきことは、「臨機応変に仕事内容や部署が変化しても動けるかどうか」を試すことではなく、当該領域の専門性や経験値かもしれません。面接官の頭の中にあるかつての模範解答は既に使えないものになっているかもしれないのです。

通常、面接官を担っている役員や管理職人材はキャパを超える業務を抱えているため、選考プロセスの不適合に気がつく余裕はありません。人事領域のトップなどがこれらの更新対を担うのが適切だと思われます。

ちなみにわたしもスタートアップ企業の人事責任者として採用や制度改定に取り組んできましたが、組織や事業の実態に添って変化していこうとすると、一年前に作ったルールやマニュアルがすぐに無効になってしまうので、常に「作って&壊す」を繰り返している感じでした。採用領域に限らず、スタートアップ経営において一貫していることは、常に変化していることです、それもかなりの高速で。個人的にはこの高速の変化がスタートアップ業界に関わる面白さだと思っています、マンネリとは無縁ですし笑。

自分の経験値や知見の範囲で書いたこの記事も、早晩役にたたない遺物になるかもしれませんが、そのプロセスも含めてこの業界にいる楽しみだと思って、またスクラップ&ビルドしようと思います。

経験したことを雑に書き連ねただけですが、何かのお役に立てれば幸いです。お粗末さまでした。


写真=記事には関係ないですが、2023年2月に訪れたスペイン,タラゴナの美しすぎる海岸です。(撮影by自分)

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