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見えないを見る① 食とエネルギーから探る、これからの暮らしとは?

衣・食・住・エネルギーはわたしたちの日々の暮らしを支えています。しかし、日常の一部として溶け込んでいるがゆえに、その生産・消費の現状が目に見えづらくなっています。

昨今では「サステイナブル」などの言葉がよく使われるようになっていますが、その定義は様々であり、それゆえ抽象的な議論になったり、実態が見えずに敬遠してしまったりします。

そこで今回は、「見えないを見る〜衣・食・住・エネルギーから探る、これからの暮らし〜」と題して、衣・食・住・エネルギーの分野で活躍するゲストをお招きし、この4つの視点から抽象的になりがちな「これからの暮らし」のあり方を探るシンポジウムを2020年2月に国際基督教大学にて開催しました。

「距離」から紐解く、食とエネルギー

東京の青梅市で農薬や化学肥料を一切使用せずに農業と養蜂を行う「Ome Farm」代表の太田太さんと、自然エネルギーの発電所づくりと電気の販売を行う「自然電力」エナジーデザイン部の井上大介さんをゲストに迎え、"距離"というテーマから未来の暮らしを探ります。

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愕然とする、日本と東京の自給率

トークを始める前に、まずは基礎知識から。日本のエネルギーの自給率は、わずか9.6%ということをご存知でしたか?国費の1/3を使って燃料を海外から輸入しており、その額は20兆円にも及ぶというのです。
その改善の手段として注目されているのが、再生可能エネルギー。輸入した燃料を使い1ヶ所で大規模に発電し、遠くまで電気を送っていた中央集中型システムから、太陽光・風など自然由来のエネルギーから発電し、より短い距離を送電する分散型システムへの転換によって電気の生産者と消費者の距離が近くなってきました。

エネルギーの国内自給率「9.6%」という数字を見て、太田さんは「東京都内の飲食店が、東京都の生産物を使っているパーセンテージよりもずっと高いです」と言います。つまり、飲食店で提供される9割以上の食材の生産は東京都外に依存しており、その輸送に使われるエネルギーも莫大なものです。

そんな現状の中、Ome Farmは東京の青梅で農業を行い、車で約1時間という距離の近い飲食店に鮮度の良い野菜を届けています。輸送距離の短縮で環境負荷と野菜へのダメージを減らし、その美味しさから取引先の飲食店も多く、ビジネスとしても成立しているといいます。

距離の短縮で生まれる、障壁と機会は?

さて、エネルギーと食を取り巻く状況を理解したところで本題へ。
生産者にとって、「物理的な距離の短縮」と「自給率の向上」はどのような障壁と機会を生み出しているのでしょうか?

生産と消費の距離を短縮することでエネルギーの国内自給率を高められたら、燃料の輸入に費やしている20兆円を日本にとどめることができます。
しかし、井上さんは「自然エネルギーへの転換は、国の政策に依存しがちなのと同時に、消費者個人の『見えないを見る』ことに対する機会不足が障壁になっている」と話します。

都市の限られたスペースでエネルギーを自給することは容易ではありませんが、そんな状況を乗り越える可能性はもちろんあります。

例えば、車の屋根にソーラーパネルを設置する、シースルーだけどパネルとして機能する窓をビルに導入する、など"小粒"な発電所を街の中に点在させられれば、さほど遠くない未来の都市での発電量は増えるでしょう。
また、最近は自分の家の屋根で発電するなど、生産と消費の両方を担う「プロシューマー」(prosumer= producer + consumer)という立場も生まれています。経済性もあるので、今後さらに拡がっていく可能性があると考えられています。

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食について話す前に、太田さんは「『ご馳走』っていう言葉の意味、知っていますか?」と問いかけます。ご馳走とは、食事を振る舞うためにあちこちを走り回っていたことからその言葉が生まれたと言われています。「今ではあちこち走るどころか、配達業者が走ってきてくれますよね」。

食材を取り寄せることでエネルギーを消費していることは目に見えませんが、都内の飲食店は都産の食材にこだわり始めている、と太田さんは言います。

取引先のシェフの1人は、「Ome Farmの野菜は美味しくて、その野菜が店のわずか30km先で育てられていることが素晴らしい。生命力が全然違う」と話してくれたのだとか。このように、生産と消費の距離が近いことが評価されています。

生産者と消費者の"精神的"な距離

Ome Farmと取引先の飲食店は物理的に距離が近いため、実際にシェフやお客さんが畑を訪れ、見学や作業の手伝いをすることも多いのだそう。その結果、生産者である太田さんたちと、消費者との精神的な距離も縮まります。まさに顔が見える関係性です。

それに対して、エネルギーは形も味もありません。インフラとして日々の生活に組み込まれているため、消費者が電気の生産者や現場を身近に感じることは食の分野に比べて難しいかもしれません。

しかし、4年前の電力自由化によって自分が使う電気を選ぶことができるようになり、「使っている電気がどこから来ているのか」を考えるようになった人もいるかもしれません。

また、自然電力が手がけている風力発電プロジェクトのように、物理的に近くて目に見える場所に風車があれば、その地域の人が「僕たち、あそこで発電された電気を使っているんだよね」と実感することができ、精神的な距離も近くなりうる、と井上さんは話します。

ひとりひとりが、身近にできることは?

生産と消費の距離を縮める、自給率を高める。日常の生活に落とし込むために、私たちひとりひとりができることはなんでしょうか?

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太田さんは、「家でも、種から花を咲かせてみてほしい」、そして、自分で食べるものを少しでもベランダで育ててみてほしい、と提案します。先で井上さんが話していたような「プロシューマー」ですね。
また、Ome Farmで生ごみから培養土を作り、その土でまた野菜を育てているように、家庭で出る生ごみでコンポストを作るのもいいと話します。

エネルギーにおいても同様で、「自分が発電所になる」ことを井上さんは勧めます。電気の仕組みを学んで自ら生産することで、エネルギーに対する精神的距離が縮まるだけでなく、災害時に停電の心配もなくなります。

食もエネルギーも、自分で学んで自分で実践できるようになると、未来の暮らしはもっと面白くなるのではないでしょうか。

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