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虹のおと

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虹のかけらを見つけたこども妖精ティナと吟遊詩人のホビー。こわれた虹をなおしにいくため、ふたりは旅立つ。
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#小説

虹のおと 筆者あとがき

虹のおと 筆者あとがき

 虹のおとは、空からおちてきた虹のかけらを空に返しにいく話でした。書き始めた時は、何も考えていなくて、思いつくままに書きました。

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虹のおと 8.別れ

虹のおと 8.別れ

 ティナとホビーとリューは、<とんがり山>を黙って降りた。もうゴロゴロ岩は降ってこなかった。ガウスの小屋を通ったときも、<悟りの崖>を渡ったときも、<ウンバの森>を抜けたときも3人は黙りこくっていた。
 別れのときが近づいているのだ。
 空に虹がもどり、リューとは里で別れなければならない。
<いつくしみの里>に戻ってきた。
 里長と里のみんながリューの帰りを待っていた。
「よくぞ務めを果たしもどっ

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虹のおと 7.とんがり山

虹のおと 7.とんがり山

 朝日が登ったとんがり山は、天へ突き刺さるようにとがっていた。地肌がむき出しで、岩がゴロゴロとときおり上から転がってきて、谷底へと落ちていった。王様ワシがたくさん飛んでいて、鋭い目でティナたちを見つめていた。
「長老様は頂上にいるの?」
「この山自体が長老様とも言えます」
「よくわからないわ」
「山は生きています。長老様に危ない輩が近づかないように、登る者を選んでいるのです。誠意をもって行きましょ

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虹のおと 6.木こりのガウス

虹のおと 6.木こりのガウス

 ドアをノックすると、ギィッと音を立てて中から大男がでてきた。
「だれだ?」
 大男は低い声で聞いた。
「こんばんは、私はティナ。エルフのリューと、吟遊詩人のホビーよ。わたし、長老様に会いたいの。今晩、一晩だけ泊めてもらえないかしら?」
「俺は木こりのガウスだ。長老様に会うのは無理だ。諦めて帰れ」
 ガウスがドアをしめようとしたので、ティナは阻止しようとドアにしがみついた。
「そんな、無理かどうか

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虹のおと 5.悟りの崖

虹のおと 5.悟りの崖

 大地はどこまでも広がっていて、空には欠けた虹がうかんで雲の合間に見え隠れしていた。<いつくしみの里>を出てから3日が立っていた。3人はずっと里の裏にある森を歩いていた。<ウンバの森>だ。ウンバという、うさぎのような、馬のような生き物達が住んでいる森だった。彼らは夜行性で、夜になると狩に出るので、高い木に登ってやりすごすか、彼らの嫌いな炎を絶やさずに炊くかしなければならなかった。
 急に雨が降って

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虹のおと 4.いつくしみの里

虹のおと 4.いつくしみの里

 ふたご山のを越えた先には、<いつくしみの里>があった。<いつくしみの里>はエルフたちが住んでいた。里にはたくさんの花が咲いていて、畑や田んぼが手入れされていた。たくさんの作物や花がいきいきと育つのは、慈しんで育てているからなのだ。エルフは料理が好きで、自分たちで育てた作物でおいしい料理をつくっては、客人に喜んで振舞ってくれるのだった。
 里についたティナとホビーは、里の長に会いにいった。
「よう

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虹のおと 3.あおやまどん

虹のおと 3.あおやまどん

左の山は静かだった。濃紺の木々がうっそうと茂っていて、さやさやひそひそティナとホビーを見つめていた。斜面はゆるやかなカーブの連続で、なかなか頂上へつきそうになかった。だんだんと日が暮れ始めていた。
 夕暮れはそれはそれは美しいものだった。山の中腹からながめる景色は、<しずく森>や<ふしぎ沼>、それから<たいこ岩の谷>も見えた。やがて夜のベールが幕をおろし、星達がきらきらと演奏を始めた。

 夜だ 

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虹のおと 2.あかやまどん

虹のおと 2.あかやまどん

2.あかやまどんティナが選んだのは、右のあかやまどんが住む山だった。急な斜面も、久々にきたお客を通すために道を開けた。真紅の木々がざわざわしている。そのくらい、あかやまどんに会いにくるお客が少ないのだ。あかやまどんは山の頂上に住んでいた。いつも怒っているような大声を出すので、恐れられていた。あかやまどんの背は山と同じぐらい大きくて、雲にも届きそうなくらいだという噂だった。爪はのびてとがっていたし、

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虹のおと 1.かけら

虹のおと 1.かけら

1.かけら そこは<しずくの森>という場所だった。青や青緑や水色のしずくの木々が生えていた。薄紫の霧がたちこめ、色の変わる<ふしぎ沼>があった。むらさきうさぎ、なないろ小人、ちょうちょう鳥、おばけガエル。そういった不思議でちいさな生き物たちが住んでいる森だった。
 こども妖精のティナも<しずくの森>に住んでいた。ティナの家は<ふしぎ沼>のすぐ横にある切り株をくりぬいたものだった。ティナはそこにひと

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